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ルーの翼 ~アラナン戦記~  作者: 島津恭介
第三部 イスタフル激動編

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第三十三章 神鳥騎士団 -6-

「神敵、アラナン・ドゥリスコルですね」


 先頭の神鳥騎士スィームルグ・シパーヒが前に進み出る。

 こいつが将か。

 全身から、油断のできない雰囲気を感じる。

 他の騎士とは、隔絶した実力。

 そう──ファリニシュのような気配がある。


「──アラナン、こいつは人間じゃねえでやがりますよ。かつては、太陽神(ミトラ)の眷属だった神鳥の王(スィームルグ・シャー)フワルシェーダ。いまは黒石(カアバ)に寝返った裏切者ですがね」

「相変わらずお喋りが過ぎるようですね、アンヴァル。お前程度の力では、わたしに敵わないと知っているでしょうに」

「はん、創造神(エル)化身(インカーネイション)に恐れをなしたやつに、言われる筋合いはねえでいやがりますよ!」


 この将は、アンヴァルの知己のようだ。

 ファリニシュとも、知り合いなのだろう。

 ファリニシュがいて、取り逃がしたのも頷ける。


「でも、いまは眷属じゃないんだろう?」

「眷属ってのは、もともとその土地を支配していた下級の神でいやがりますよ。上位神に屈服してその配下になっただけで、人間より強い存在であることには変わらない。上位の神々がもうこの地上に顕現できないいま、その力に抗える存在は数えるほどってやつですよ! まあ、あの年増の狼を見れば、わかるとは思いますがね!」


 魔王ほどの力はないが、それでも神ってことか。

 この圧する気配は、神力のもの。

 並みの人間なら、この気配だけで気絶してしまいそうだ。


「ここで貴様を排除します、アラナン・ドゥリスコル。ハーフェズ・テペ・ヒッサールを葬るには、貴様が最大の障壁となるでしょう。あのファリニシュがいないいまが、最大の好機。わが矢を味わうがいい!」


 フワルシェーダが輝く弓をつがえると同時に、彼の背後に無数の矢が浮かび上がる。

 それが同時に飛来するさまは、まさに流星。

 神力の矢が無数に飛んできては、かわすことも防御もできない。


「アンヴァル!」

「馬遣いが荒いでいやがりますよ!」


 光の矢を紅焔(ジャラグティーナ)が迎え撃つ。

 火力では、こちらの方が上だ。

 フワルシェーダの矢は、炎に触れると消滅していく。


 だが、アンヴァルの炎は前面だけだ。

 無数の矢は、回り込むように全方位から降り注いでくる。

 どんだけ神力使っているんだこいつ!

 この初撃で、ぼくを仕留める気満々だな。


「舐めるな!」


 太陽神の翼エツィオーグ・デ・ルーを、球形状に拡げる。

 フワルシェーダの矢は、神力の矢だ。

 ならば、同じ太陽神の加護を持つ太陽神の翼エツィオーグ・デ・ルーで、十分防げる。

 ぐ、だがこいつはきついな。

 無数の矢が、がんがん太陽神の翼エツィオーグ・デ・ルーから神力を削っていきやがる。

 いくら何でも、下級神と神力の総量を競うつもりはない。


 遠距離戦は、不利だ!


「ほう、これを凌ぎますか」


 意外そうな声音で、フワルシェーダが言う。


「ああ、お前たちは、向こうの野蛮人どもを掃討しなさい。なに、アラナン・ドゥリスコルは、わたしが片付けます。さっさと、始末してしまいなさい」


 それでも、自身の優位は疑ってないのだろう。

 様子を見ていた麾下の神鳥騎士スィームルグ・シパーヒを動かして、ナーディル・ギルゼイを討ち取ろうという算段か。

 余裕じゃないか。

 そして、こっちもぼくにそれを止める余裕がない。


「ちえっ、仕方がない。此処は、喚ぶしかないな」

「だらしのないアラナンでいやがりますよ。あんな年増の手を借りるなんて」

「じゃあ、ぼくがフワルシェーダの相手をするから、アンヴァルが残りの騎士の相手をしてくれるかい?」

「とっとと年増を喚びやがれですよ、アラナン。なにぐずぐずしてやがりますか」


 あっさりとアンヴァルは掌を返した。

 自分が働くよりは、ファリニシュを働かせる。

 この神馬の主義は、昔から変わらない。

 だが、それでもアンヴァルが正しいだろう。

 神鳥騎士スィームルグ・シパーヒ九騎は、いささかアンヴァルの手には余る。


「行かせないよ、フワルシェーダ」

「ふ、わたしに背を向けて、無事でいられると思っているのですか」

「いや、彼らの相手をするのは、ぼくじゃない。此処にいるのが、ぼくとアンヴァルだけだと思ったら、大間違いだ。ぼくは、エアルの祭司長(ドルイド)。眷属を、喚ぶことができるのさ。──出でよ、神狼(ファリニシュ)!」


 紅蓮の炎が走り、天空に五芒の星が描かれる。

 魔法陣が光輪を放ち、太陽の如くプロミネンスを放つ。


 その灼熱の五芒星が、不意に凍り付いた。


 蒼空を、遠吠えが裂く。


 巨大な狼の幻視とともに、ペレヤスラヴリの白き魔女が氷輪をまとって現れた。


「主様」


 ファリニシュが、ふわりとぼくの隣に舞い降りる。


「雑魚は、任せた。あいつは──ぼくがやる」


 暫時、狼はフワルシェーダを()めつけた。

 神鳥(スィームルグ)の王も、視線をファリニシュに向ける。


「手強いおのこでござんすよ」

「イリヤがいて、仕留め切れなかったんだもんな。まあ、任せてよ。裏切者の始末は、ぼくがつけるさ」


 ファリニシュが、優雅に頭を下げた。


「主様を」


 頭を上げ、フワルシェーダを見て嗤う。


「信じておりんす」

「戯れ言を」


 フワルシェーダが舌を打つが、もうファリニシュは取り合わなかった。

 舞うように振り向くと、そのまま神鳥騎士スィームルグ・シパーヒたちの後を追う。


「ぐずぐずしていていいのかな、神鳥の王(スィームルグ・シャー)。ペレヤスラヴリの白き魔女ならば、ご自慢の部下たちを一掃するのも容易い。早くぼくを倒さないと、あの九騎は全滅だぜ」

「人間ごときが!」


 赫怒。


 フワルシェーダの身体中から炎が吹き出し、熱気が周囲を支配する。

 太陽神(ミトラ)の眷属らしい神威だが、炎ではぼくは倒せない。

 冷静さを失ったフワルシェーダでも、それはわかっている。


「来いよ、フワルシェーダ。遠距離で炎を撃ち合っても、お互い効果はない。地上で、接近戦で勝負を付けよう」


 空中では、あの眷属を倒せるとは思えなかった。

 だから、ぼくはフワルシェーダを、地上へと誘う。

 アセナの拳士としては、やはり大地を踏みしめて戦いたい。


 アンヴァルが下降すると、フワルシェーダは暫時迷いを見せた。

 このままぼくを追うか、それともファリニシュに向かうか。

 神狼を放置すれば、部下が危ないのはわかっている。

 だが、神敵を前にして、背を向けることも難しい。


 結局、フワルシェーダは、ぼくを追わざるを得なかった。


「アンヴァル、離れていろ」

「言われなくても、近寄りもしませんよ」


 アンヴァルから下りると、薄情な馬はとっとと距離を取る。

 ぼくとフワルシェーダが本気を出せば、周囲に与える被害も甚大になる。

 巻き込まれるのは、ごめんだろう。


「直接、拳を撃ち込んでやりたいところではあるけれど」


 相手がブンゴであれば、そうしただろう。

 練達の剣士を相手では、ぼくの付け焼き刃の剣技では通用しない。


 だが、フワルシェーダは膨大な神力を操るものの、武術の技倆はブンゴほどではないと見た。


「神殺しなら、こいつの出番だ」


 フラガラッハを抜き、構える。

 神の防御を突破できるのは、この剣だけだ。

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