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ルーの翼 ~アラナン戦記~  作者: 島津恭介
第二部 帝国擾乱編

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第二十章 リンドス島攻防戦 -11-

 雷撃が放たれる瞬間、回避が間に合わないのがわかった。


 撃たれる前に回避しなければ、あれは避けられない。

 ならば、逆に飛び込んでやる。


 閃光とともに衝撃がきて、体が痺れる。

 だが、一撃で魔力障壁(マジックバリア)が砕けないのは、体験済みだ。

 撃ち終わりで油断しているジャファルに、一気に接近する。

 老人の目が、驚愕に見開かれた。


「ま──」

「もう遅い!」


 恐らく、ジャファルは短距離での転移を行使しようとしたのであろう。

 だが、ぼくが前進した分、離脱が遅れた。

 フラガラッハの刃が、転移する前のジャファルを捉える。

 魔力障壁(マジックバリア)が、神剣に抵抗して嫌な音を立てる。

 だが、フラガラッハの切れ味は竜の鱗をも凌駕するのだ。


 老人の目が開かれたまま、その首が宙を飛んだ。


 魔法師(ソーサラー)としては油断できない相手だったが、武術の腕はなかったな。

 やはり、学院の方針として魔法(ソーサリー)と同時に武術も身に付けさせているのは間違いではない。


 長老(シェイヒュル)を始末し、ファリニシュの状況の確認をすると、すでに三人の魔法師(ソーサラー)を撃ち落としているようであった。


 残りの二人も追い詰められ、体のあちこちが凍り付いている。


「こっちは片付いたぞ、イリヤ」

「すぐ終わりなんす。待ちなんし、主様」


 ファリニシュには余裕がある。

 残る二人は中等科レベルよりは幾分上のようで、恐らく黒石(カアバ)教の高弟なのであろう。

 必死の形相で雷撃を放ってくるが、ファリニシュは氷の壁を作って通さない。


「ぼくがやろうか?」


 からかい半分にいうと、ファリニシュは無言のまま手をひと振りした。

 同時に、氷像と化した二人が地上へと落下し、激突して四散する。


「終わりなんした」


 にこやかに笑うファリニシュに、思わず返事がどもり気味になる。

 おう──やっぱり彼女とまともにぶつかったときに勝てるイメージが沸かないわ。


「よし、邪魔物は排除したし、大砲を壊そう」


 ファリニシュと協力しながら、大砲を破壊してまわる。

 三十門近くあった大砲も、氷塊に潰され、爆炎に吹き飛ばされ、もはやまともに動くものは残っていなかった。


 上空から全体の戦況を確認してみると、新たにヴァルテン市民軍が突入したものの、まだ皇帝親衛隊(イェニチェリ)は健在であった。

 元々の兵の数が、皇帝親衛隊(イェニチェリ)の方が多いのだ。

 大砲を潰しても、苛烈な銃撃で立ち往生しているようだ。

 もっと、鉄砲による火力支援部隊を潰さないと、ヘルヴェティア軍といえど十全に動けないようだ。


「ファリニシュ、右翼の鉄砲部隊を潰せ。ぼくは左翼を攻める」


 右翼にはルツェーアン市民軍が食い込んでおり、左翼はアルトドルフ、ヴァルテン市民軍が押し込んでいる。

 効果的に撃ち込まれる銃撃さえ弱まれば、ヘルヴェティアの軍団の力なら勝てるはずだ。


 ファリニシュが飛び去るのを見送ると、ぼくも左翼の戦場に向かう。

 すでに、アルトドルフ市民軍の突撃の勢いは失われ、攻勢限界点を迎えてしまっている。

 ティナリウェン先輩はまだ奮闘しているが、ベルナール先輩とトリアー先輩の姿がなかった。

 負傷して、後方に下がったらしい。

 それだけ銃撃を撃ち込まれたのだろう。


 アルトドルフ市民軍に替わって前線に出てきているのは、ヴァルテン市民軍だ。

 ノートゥーン伯、ジリオーラ先輩、マリーの三人を組み入れて左翼深くに食い込んでいるが、そこで四方から集中砲火を食らって前線が壊滅状態に陥っていた。


「あれは、誘い込まれたんだな。ノートゥーン伯が付いていながら!」


 上空から聖爆炎(ウアサル・ティーナ)を落として鉄砲部隊を崩しにかかるが、すぐに敵も対空射撃の密度を厚くしてきた。

 当たりはしないが、四方八方から銃撃が飛んでくる。

 回避に神経を使う分、攻撃の手が少なくなるんだ。


 それでも、崩壊したヴァルテン市民軍の先鋒の撤退する時間は稼げたようだ。

 替わって先頭に出てきたのは、ノートゥーン伯じゃないか。

 銃口を向けられた瞬間、加速(アクセレレイション)で敵の最前列に飛び込んで、一直線に火縄銃(マスケット)を構える兵を薙ぎ倒した。

 上空のぼくに銃撃を集中させた分、地上のヴァルテン市民軍への射撃が明らかに薄くなっている。

 その隙に、ヴァルテン市民軍は陣形の内側に躍り込み、敵の鉄砲隊に接近戦を挑んでいた。

 このまま進めば、皇帝親衛隊(イェニチェリ)の本陣までたどり着ける。

 皇帝親衛隊(イェニチェリ)の本陣、すなわちそこには皇帝(スルタン)がいるはずである。


 その皇帝(スルタン)のいる本陣に、ヴァルテン市民軍とは逆側から接近する一隊もあった。

 ルツェーアン市民軍の先鋒部隊だ。

 クリングヴァル先生もまだ健在である。

 ファリニシュの支援を受けて、右翼の鉄砲部隊を抜けてきたらしい。


 本陣を崩せば、敵の指揮系統も崩壊し、こちらの勝ちは決まる。

 そうすれば、船に退却する敵兵を追撃すればいい。


 だが、こっちもこの突撃が凌がれれば、もう次の攻撃をする余力はない。

 いま本陣に迫っているふたつの部隊以外は、逆に押し込まれている。

 突入した部隊が本陣を崩せなければ、孤立して全滅するだろう。


 それをさせないように、ぼくが援護をしないといけない。


 だが、ルツェーアン市民軍の方は本陣から出てきた一部隊に食い止められていた。

 クリングヴァル先生の前にいるのは、皇帝親衛隊(イェニチェリ)の将軍サルキス・カダシアンか。

 最精鋭が出てきた以上、ルツェーアン市民軍の方はあれ以上進むのは難しいかもしれない。

 ならば、ヴァルテン市民軍の突撃部隊を援護だな。

 混戦になれば、味方を巻き添えにしないためにも、爆炎魔法は避けた方がいい。


 空から急降下すると、ぼくはノートゥーン伯の隣に着地した。


「アラナン、皇帝(スルタン)はあの旗の下にいるはずだ」


 血濡れた剣を振り上げながら、ノートゥーン伯が叫んだ。


「あれね。そこまでの道は斬り開きます。遅れないで付いてきて下さいよ」


 フラガラッハを右手に、タスラムを左手に構えながら、ゲイアサルを空中に浮遊させておく。

 ノートゥーン伯は刃でフラガラッハを叩き、音を鳴らした。


「任せた、アラナン。正直、もうみんな魔力が限界に近い。ジリオーラも、マルグリットもな」

「せやけど、うちはまだまだ元気やで」

「何言っているのよ。わたしだって、まだ大丈夫よ」


 ジリオーラ先輩もマリーも、髪は乱れて血まみれだ。

 息は弾んでいるし、魔力の輝きも鈍い。

 だが、二人とも目の輝きは死んでいなかった。


「ぼくの後ろを走れよ。弾丸が飛んできても、全部斬り落としてやるから」

「頼りにしているわよ、アラナン」

「うちはまだ自分で跳ね返せるから大丈夫やで」


 ジリオーラ先輩の強がりに微笑みながら、大きく息を吐く。

 さあて、それじゃ一丁行ってやろうかね。

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