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ルーの翼 ~アラナン戦記~  作者: 島津恭介
第一部 フラテルニア魔法学院編
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第十三章 皇帝を護る剣 -3-

 抜く手が見えなかった。


 スロー再生でなお、捉えきれない高速の抜刀術。

 繰り出された槍の穂先が、斬って落とされる。


 神速の断罪グナーデ・ゲシュヴィンディヒカイト


 余りに滑らかな斬り口に、清冽さすら覚える。


 だが、それはクリングヴァル先生の想定の範囲内だったようだ。

 そこから左足を踏み込み、左手での雷光(ブリッツ)

 今度は左手に槍が現れる。


 一歩踏み込んだことにより、槍は従来の長さに戻っている。

 その分、速さも増している気がする。

 初擊は長さのせいか、キレがなかったからな。


 黒騎士(シュヴァルツリッター)は踏み込めず、一歩後退した。

 一度刀を抜いたら、雷光(ブリッツ)に対応できないようだな。

 左手の槍が魔法の袋(マジックバッグ)の中に消え、クリングヴァル先生は更に一歩右足を踏み込む。

 雷光(ブリッツ)の連打か。

 いや、違う。

 今度の突きは、雷衝(サンダーショック)じゃないぞ。

 右腕に魔力の渦が巻き起こっている。

 あれは、門の破壊者ツェルシュトーラー・デス・トーレス

 それを応用したクリングヴァル先生の槍の絶技、螺旋の雷光(シュピラールブリッツ)だ。


 魔力の渦を纏った槍は、撃ち出されるかのように加速する。

 明らかに雷光(ブリッツ)より速い。

 開幕早々、決めに来ているのか。

 一方的なクリングヴァル先生の攻め。

 黒騎士(シュヴァルツリッター)は、踏み込むことができず、下がらざるを得ない。

 黒騎士(シュヴァルツリッター)ほどの足捌きを以てしても、この高速の突きを掻い潜るのは至難の業なのだろう。

 そして、槍と刀の間合いの差が、先生の先手を許す結果になっている。


 だが、如何に高速の連打でも、直線の動きが続けば対応はできる。

 回避に専念していた黒騎士(シュヴァルツリッター)が、下がりながら刀を鞘に納める。

 それだけ、余裕ができたのだ。

 同時に(ほとばし)る閃光。

 斬り刻まれた槍を辿るように、一気に黒騎士(シュヴァルツリッター)が距離を詰める。


 それに対して、クリングヴァル先生は新たに短い手槍を出現させた。

 飛び込んでくる黒騎士(シュヴァルツリッター)の突きを右回転の螺旋で弾き飛ばすと、その勢いで胸に螺旋牙(スクリューファング)を抉り込む。


 激しい衝撃音が生じ、黒騎士(シュヴァルツリッター)が後方に吹き飛んだ。

 分厚い魔力障壁(マジックバリア)を破るまでには至らなかったか、目立った傷はない。


 そこで、少し再生が飛んだ。

 膠着状態を飛ばしたのかな。

 余り実時間と離れ過ぎても興醒めだからか。


 アルトゥール・フォン・ビシュヴァイラーの顔は未だ冷静さを保っており、クリングヴァル先生も余裕そうな笑みを浮かべたままだ。


 お互い、まだ手の内を全部出していないのか。


 距離は刀の間合いに移っていた。

 黒騎士(シュヴァルツリッター)は華麗な連擊を繰り出しているが、先生は左手の手槍で防いでいる。

 いや、黒騎士(シュヴァルツリッター)の右斜め上からの斬擊を螺旋で弾き、そのまま懐に潜り込んだ。

 右足を踏み込んでの尖火(シャープフレイム)の右肘。

 再び、黒騎士(シュヴァルツリッター)がたたらを踏む。

 そこに、腕を伸ばして門の破壊者ツェルシュトーラー・デス・トーレスで追撃を掛ける。


 胸に深く突き込まれ、流石の黒騎士(シュヴァルツリッター)が血を吐きながら吹き飛んだ。


 凄いな、クリングヴァル先生。

 槍の間合いでは優位。

 刀の間合いで互角。

 更に踏み込んだ超至近距離では圧倒している。


「クリングヴァル先生、これ勝てるんじゃないかしら」


 マリーが息を飲みつつ呟く。

 同感だね!

 クリングヴァル先生の技は、あの人のたゆまぬ努力はやっぱり黒騎士(シュヴァルツリッター)にも通用するんだ。


「いや──黒騎士(シュヴァルツリッター)は、まだ本気を出していないぞ」


 だが、ハンスが不気味なことを言う。


黒騎士(シュヴァルツリッター)の奥義は、瞬電(ブリッツシュラーク)だ。神速の断罪グナーデ・ゲシュヴィンディヒカイトの連続技。これをまだ、一度も出していない」


 あの抜刀術の連続技だと?

 しかし、考えてみれば、クリングヴァル先生がやっているように、新しい刀を取り出せば幾らでも抜刀できるはずだ。

 平和の刀フリーデンスシュベルトほどの業物はないだろうが、黒騎士(シュヴァルツリッター)がその気になれば、他の刀だって用意できるだろう。


 だが、それをやらないのは、何でだ?

 あえて、ダメージを食らってまで、クリングヴァル先生の技を確かめたとでもいうのか。


「まさか、飛竜(リントブルム)と技を比べて、全力を出す相手かどうか探っていたとでも?」

「恐らくそうだ。そして、先生はその眼鏡にかなった」


 アルトゥール・フォン・ビシュヴァイラーが、静かに立ち上がってくる。

 全身から、魔力が溢れんばかりに噴き上がっている。

 そういえば、黒騎士(シュヴァルツリッター)は肚の内に虚空への門を持っていた。

 あれは、後付けされた聖騎士サント・カヴァリエーレなどと違い、自分で到達した境地である。


 ぼくのように額で接続しているのと、何処が異なるというのか。


 そう考えているうちに、クリングヴァル先生が動き出す。

 夢影歩(ファンタズムシャドウ)で眩惑しながら、槍の間合いまで詰める。

 左斜め上から撃ち下ろすように降虎(ディセンドタイガー)、受けられると右斜め上から降虎(ディセンドタイガー)、あれは、虎手激勢ティーガー・シュトロームンクを槍に応用した先生の絶技だ。


 黒騎士(シュヴァルツリッター)の意識が上に向いたところで、三擊目の螺旋の雷光(シュピラールブリッツ)が繰り出される。


 刹那の片手回転突きが決まるかと見えた瞬間、新たに現れた刀を抜き放った黒騎士(シュヴァルツリッター)がその槍の穂先を斬り落とす。

 そのままその刀を投げ捨て、更に新しい刀を出した黒騎士(シュヴァルツリッター)は、連続で神速の断罪グナーデ・ゲシュヴィンディヒカイトに移ろうとした。


 そこで、黒騎士(シュヴァルツリッター)の眉が僅かにひそめられる。

 あれだけ戦意を(みなぎ)らせていたクリングヴァル先生の魔力が薄れ、黒騎士(シュヴァルツリッター)の背後に強力な魔力が現れたのだ。


 抜き打ちで、黒騎士(シュヴァルツリッター)が背後の気配に斬り付ける。

 だが、そこに先生の姿はない。


「いい投影法(プロジェクショ)ね」


 エスカモトゥール先生の声が漏れる。

 あれは、エスカモトゥール先生の技か?

 基礎魔法(ベーシック)しか使ってこなかったクリングヴァル先生のいきなりの心理魔法(ヴァールハイト)に、黒騎士(シュヴァルツリッター)ですら引っ掛かったか。


 背中を見せた黒騎士(シュヴァルツリッター)に、クリングヴァル先生が迫る。


 新たな槍での螺旋の雷光(シュピラールブリッツ)が、アルトゥール・フォン・ビシュヴァイラーを貫いた。

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