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6-6

 一抹の不安をかかえ、慧依子先輩の後について三人のいる部屋へと向かう。


「先輩、あの白い部屋ってドリフシステムのテストをした場所ですか?」


 さっきは身の安全確保に手いっぱいで周囲を気にする余裕がなかったが、記憶をたぐれば俺が初めてスペード国へ訪れた時にもこの通路を通っている。

 あの時は厳重に結界が張られていたが、イタズラ目的の個室として利用するため、マミさんが力業で破ったのだろう。


「そう。この先が『地下盗擬場』なの」

「ちかとうぎじょう?」


 確かにスペード城はドーム形状ですが……『精神とメンタルのルーム』とか言ってた気もするけど、まぁいいか。

 先輩が言うには、日本カルチャーに影響を受けたエルマナの職人達がワザを競い合う場のようで、インスパイアされたアイテムのテストを行ったりする試験場らしい。


「パクリとまでは行かないにしても、漫画やアニメに寄せたトンデモアイテム発祥の地なんですね」

「パクリじゃないの。リスペクトなの」

「普段より乗り気みたいですけど、コレのテスト込みって事ですか?」


 頭の上で不安定に揺れる大きめの網代笠のフチを両手で支え、「けっこう邪魔なんですけど」アピールをしてみる。


「私が普段やる気がないみたいな言い草なの。基本やる事が二つ以上揃わないと動かないと決めてるの」


 モノグサには変わりないんですね。


「今回は新アイテムのテストとかモル鷺君の保護とかてんこ盛りなの」


 一応、俺の安全はメインのひとつとしてカウントされていて助かった。


「先輩。静香はいいとして、相手はマミさんとクロハさんの二人ですが勝算はいかがなもので?」


 頼りの侍女さんは別行動のため、今は俺とピョン子と先輩の2.5人だ。プロミディアさんは俺の身代わりにされた事に怒って引っ込んでしまった。

 無言で前を歩く小さな背中に視線を落とせば。

 年齢とは裏腹に、中年サラリーマン以上の倦怠感を醸し出していて、非常に頼りない。常時やる気が無いのもそうだが、くたびれた小豆色のジャージが貧弱さを引き立て不安に拍車をかける。

 まぁ、「勇者のお前がガンバレ」と言われればその通りなんだが。当事者だし。


「お飾り勇者のアンタには何も期待してないわよ。こじらせバカ三人相手に足引っ張らなきゃそれでいいわ」


 揺れる右手が可愛いシャドーをしていた。


「即死九割は勘弁してくれ」


 重厚な鉄扉の向こうで待ち構える強敵相手じゃそうもいかないだろうけど。


「正攻法なら太刀打ちできないの。でも手はあるから大丈夫なの」


 腐ってもスペード国の姫。奥の三人とは対照的に超ローテンションながら内に秘めた勝利の方程式があるのだろう。……あると信じたい。


「とりあえず底なしの性欲からなんとかするの」


 なんて生々しい……


「作戦の確認なの。残機は野良勇者の数だけ、まずは『四本しめじ(仮)』からなの」


 しめじ言っちゃったよ。


「リスペクトなの。モル鷺君に馴染みのある呪文の方がイメージしやすいと思うの」

「わかりました。やってみます『四本しめじ(仮)』」


 ニンジンを真似て発動呪文と共に新作アイテムの網代笠を放ると、ひとつだった網代笠が空中で四つに増えて床に落ちる。

 その後は雨後の筍のように「めきょっ」と網代笠を突き上げて四人の『俺』が生えてきた。シルエットは「しめじ」に見えますけども……


「タネを明かすと、笠の落下地点が簡易ワープゲートになってるの。そこからモル鷺君なりきりブレスで変身した野良勇者が現れて影分身の完成なの」


 こんな大がかりな仕込み、昨日今日でできる訳がない。なにより、


「俺のなりきりブレスて! 何のメリットが?」

「ジュエリスターなりきりブレスの応用なの。モル鷺君用アイテム制作で採寸のためいちいち来て貰うのもなーなの。それにテレビとかだと、テスト対象はだいたい本物に似せてるの」


 大概そのテスト用ニセモノの末路は目を背けたくなる結果になりますけどね。

 ワープゲートを抜けた名残の、ブロックノイズみたいな粒子がはじけニセ俺の完全体が顕現する。中身は中年のオッサンだけど。

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