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「楓麻、なにやってんのよ? 騒がしいわね」
静香がキョトンとした顔で立っていた。
「侍女さんに聞いてきたんじゃないのか?」
「たまたまよ。奇声に混じって楓麻の声が聞こえたから」
なんにせよ心強い。
「よし、残機増えたぜ! 10秒でいいから、ココに立っててくれ」
俺は数メートル離れた柱を背に、陰からソッと顔を出す。
状況がわからず訝しそうな表情で首を傾げている静香を見守っていると、
「あ、フウちゃん発見!」
バカ正直に突っ立っていた姉が鼻息荒い二人にロックオンされる。
世紀末再び。
「「ヒャッハァー!!」」
明らか女子の恰好したニセ俺が、あっという間に口と手足を押さえられてしまう。
「「きゃっほう!!」」
そして影ボットの時と同じく、頭上に掲げられ通路の奥の闇へと消えて行った。
「アンタ残機とか言ってたけど、もう後が無いわよ」
そう。俺とウリ二つの姿を持つ者はもういない。
『影ボットは私が離脱してから、かなり無茶されたみたい。チャージに時間かかるわねぇ』
手乗りプロミディアさんがパネルに頭を突っ込んで精霊のダメージを確認する。
「ホラ、アンタの姉貴が犠牲になってる間に逃げるわよ!」
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
スペード城内、スペード父娘が待つ監視ルーム。
途中、侍女さんと会って状況が確認できる安全な場所まで案内してもらった。それがここ。
「ボクにも似たような覚えがあるから楓麻君の苦労はわかるよ。マミ君は相変わらずだなぁ……」
スペード国王が思い出したくも無い過去を想い、小さく頭を振って、いつも通り俺の肩に手を乗せエールを送ってくれる。
「それよりチャンスなの。今ならあの二人を拘束できるの」
監視モニターには白い空間に倒れている三人の姿が。
気になるのは、あられもない姿に剥かれた静香。アレが俺だったらと想像するとゾッとする。
「セオリーブレイカーで相打ちになったのか?」
だとすれば猶予は1〜2時間だろう。と、高を括っていたら、三人ともヨロヨロと立ち上がった。
《フウちゃ〜ん》
《フーちゃ〜ん》
《ふぅうぅまぁ〜っ》
俺の名を呼びながら、広さの分からない白い部屋の中をゾンビのように歩きまわる三人。
「タフですねぇ、あのお二人は」
「そう言えば、霊仙寺とルビーナは?」
助けを呼びに行っていた侍女さんに聞いてみる。
「ルビーナさんの姿は既になく、バイトに戻ったようですね。橙愛さんは「ワタシの貸しが増える一方なんて理不尽だわ」と、ダイヤ国へ帰っちゃいましたぁ」
霊仙寺に関しちゃ、返せるあても無いし、仕方ないか。
「現状、ここにいるメンバーで対処するしかないの」
侍女姉さんほどではないにせよ、打算で動く慧依子先輩が意外にもやる気になっている。
「なにか作戦でもあるんですか?」
「いくらドリフシステムが優秀でも、相手に攻撃の意思が無くジャケットを脱がされたらアウトなの。静香より桃色の体験をするコトになるの」
攻撃や大きなダメージを受け、初めて反応するドリフシステム。
「精神ダメージも反射できれば無敵なんですけどね」
「だから質より量で攻めてみるの。ヘタな鉄砲なの」
どこから取り出したのか、俺の頭に網代笠を被せる慧依子先輩。
「これは?」
「ニンジン忍十面相の能力をスペード国の技術で再現してみたの」
「いろいろ不安だなぁ」
技術面じゃない部分で。
シルクハットも微妙だと思ったが、網代笠は完全にアウトなんじゃ……
「モル鷺君、これはリスペクトなの!!」
当然、ニンジンにじゃないですよね。
次回更新は8月10日前後の予定です。
外伝の方は8月13日です。




