6-3
「さて、どうするか」
小さくなる侍女さんの背中を見送り、右手のピョン子へと視線を落とす。
「ノープランよね?」
「ノープランです」
「よく考えたら、アンタが犠牲になれば済む話だわね。初恋のお姉さんに筆おろしされちゃいなさいよ」
いくらなんでも問答無用で襲われるとは考えにくい。性的な意味で。
「魅力的な提案だが、一線越えたら能力剥奪のうえ、廃人になっちゃうよ。ルール的に」
エルマナへ来たとき、鳩野さんから最初に釘刺されましたさ。されましたとも。
「その割にはチューチューやってたわよね」
あぁ、霊仙寺と鳩野さんが野良勇者の黒オーラにあてられた時か。
「事故でもキスレベルならセーフなんだろうな」
「そもそもアンタ、無くなって困る能力なんてある?」
確かに。
「だが、ものは考えようだ。my留奈ちゃんだぞ?」
「my留奈ちゃんて……」
片耳垂らしてソワソワしているピョン子。なんかカワイイ、小動物的な意味で。
思わず短毛ながら極上の柔らかさを持つ、小さな頭頂部に鼻先をうずめる。
「ちょ、アンタ! ナニやってんのよっ!!」
怒られてしまった。
「スマン、ついついクセで。いやぁピョン子さんの卯毛100%はいつも良い肌触りですな」
「アタシは安心毛布か! ってか、アタシの寝てる間にヘンな事してないでしょうね?」
「ふわっふわの卯毛枕として、お世話になってるだけだ」
寝具的な意味で。
「いつも寝苦しいの、アンタのせいかっ! あと、意味で意味でウルサイわよ!」
「思考読み取るなよ」
寝つきいいのに寝相悪いピョン子。あちこち転がる右手対策として編み出したのが、俺の頭を重しにして動きを抑えることだった。
「あ、なんか来る!」
ふいに右手がクンと下がり、強引に伏せさせられた。
低姿勢で草むらを掻き分け、前方10メートル先に佇む戦闘ミニ浴衣の少女に注視する。
「……あれがクロハさんか」
アゲハ盛りのギャル系ミツバ姐さんとも、清楚系黒髪ロングのヨツバさんとも違う。
「まさかのツーサイドアップ!」
迷子の子が親を捜すみたいに、人差し指を口元にあててキョロキョロしている。やべぇ、年上なのに可愛い。
「ねぇ、あのパッツン女、巨乳剣士みたいな髪型してるけど……」
「ツインじゃねぇ、ツーサイドアップだ」
「アンタのコダワリはどーでもいいのよ! なんでリボンが『ふたつ』あんの?」
ミツバ姐さんのリボンは俺のポケットにある。て事は、
「左右のどちらかがクロハさんで……もう一つは誰なんだ?」
基本、リボンを解けばヨツバさん。ただのオシャレか、まだ知らない別人格か。
「あ、トシマジョが来たみたいよ」
「さすが侍女さんだ。仕事が早い」
一番乗りで現れた心強い援軍に、張りつめた緊張を解いて胸をなで下ろす。
「あなたがクロハさん? あぁ、ヨツバちゃんの面影あるわね。初対面だけど私が分かるかしら」
「マミさん。相変わらず若々しいですね」
ミツバ姐さんと同じで、記憶は共有しているのだろう。
「そうなのよぉ。『両極』のおかげで、ピークの××歳から年々若返っちゃって」
10年後のマミさんはどうなってるんだ……
「マミさんからフーちゃんの匂いがします。どういったご関係ですか?」
一瞬にしてマミさんの首筋へ、小さくも整った鼻の先端を寄せ囁く。小柄なマミさんと長身のクロハさんによる百合チックな構図の出来上がりだ。
「誤解しないで? 私は応援しに来たのよ。あなたとフウちゃんがくっつけば、アカネも未練なく女王の座に収まると思うの」
ヤベェ、マミさん敵にまわった!
「私もマミさんより、紅音ちゃんの方が女王に相応しいと思います。意見が合いますね」
「意見が合うのは●カ・●ーラだけってね!」
「あのトシマジョ、額面通りに受け取っちゃったわよ?」
深読みしましょうよ、マミさん。そして、歳いくつですか……
次回更新は8月5日前後の予定です。




