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第6章 1

「全てを失って、ボクはどうしたらいいんだ……」


 やつれてペタンと座り込む姿を見ていたら、少し可哀想になってきた。


「とりあえずは七将軍の治療費として、コレに1億円貯めてくださいにゃ。話はそれからですにゃ」


 侍女姉さんが、銀色に輝く円筒状のミルクタンクを帝王の前に置く。

「わかった」と弱々しく首を縦に小さく振る帝王。

 こうしてヨツバさん奪還試合は、祝勝会を含めても、半日ほどであっけなく終了した。

 ちなみに、よそ者の俺達に賭けていた観客は無く、ブックメーカーでもある侍女姉さんの一人勝ちだった。


「これからのマーシー島は完全なリゾート地として再建しますにゃ!」

「侍女姉さんやりたい放題だな……」


 バイタリティ溢れる彼女に後処理を任せ、フィギュア化された姫を元に戻すべく、進路をスペード国ヘのはずだった。

 が、船着き場に来てみれば。


「ちょっと、あんた達ナニしたのっ!!」


 頭上からマミさんの声。見上げれば、片足を触手に絡め取られて逆さ吊りの状態だ。

 触手の主は、30mほどの巨大なモンゴウイカ風の魔物。


「多分、さっき橙愛が排水したからなの。魔力の溶け込んだ廃水が生態系を狂わせたの」


 ロケット・ランチュウの魔力を吸収したイカが突然変異したのか。

 侍女姉さんに退場くらって海中に沈められたマミさんが、運悪く襲われたのだろう。


「マタマタガメとカルイシガニのでっかいヤツは、火口に放り込んでやったんだけど、思わぬ伏兵にこのザマよ」


 数本の触手がマミさんに迫る。


「あーん、フウちゃん助けてー!」 


 棒読みだ。


「本当に抜けられないんですか?」


 粘液を滴らせながらピトリと貼り付く触手。そのままヌルリと這い回られる姿はなんと言うか……両極の特性ゆえ、年齢に反して健康的な肌を持つマミさんの艶やかさが増していく。


「薄い本みたいになっちゃうー!」


 が、期待も心配もする必要は無く。

 直後、触手総出で攻撃されたマミさんはサンドバッグにされ、その代償にモンゴウイカの魔物も火山の火口へ投げ込まれて大爆発した。


「余計な時間食ったな」

「フウちゃん、余計な時間とか言わなぁい!」

「結局、このトシマジョは終始ネタ見せしただけだったわね」


 確かにピョン子の言う通りだけど。


「大暴れされなかっただけマシなの」

「さぁっ! あとは帰って、有ること無いこと娘に報告すれば終わりねっ」


 違います。

 帰宅一番、マミさん母娘の対面現場には全力で居合わせようと決意する俺だった。


  ■   ■   ■   ■   ■   ■   ■   ■   ■


「どうしたのよ、杜鷺。浮かない顔して」


 トレーディング・オブジェ還元装置を造って、俺達の帰国を迎えてくれたスペード国城内にて。


「百人近いお姫様から揉みくちゃにされる経験なんて、お金積んでもそうそう出来ないわよ?」

「さながら昭和のマンガで見るバーゲン会場だったの」


 さきほど、無事もとの姿に戻った見目麗しいお姫様達。礼儀正しくピュアな彼女達は、謝辞を述べるべく、感極まった状態で一斉に俺のもとへ押しかけて来て、室内は一時プチパニックとなった。


「スズメさんに会えると思ってたんだけどなぁ」


 人質としてミケーニャに誘拐されていたスズメさんは、俺達がマーシー島で祝勝会をしている時、一足先に帰国していたのだ。


「母さ……あの人、女王なんだから仕方ないわね。フィギュア化されていた訳でもないし。ワタシがなんとか会える機会を設けてあげるわよ」

「期待しないで待ってるよ」


 高レベルな美少女がひしめき合う室内を見回し、くたびれた愛想笑いが漏れた。

 なんとなく還元室のドアを見ていたら、慌てた侍女さんが飛び出してきた。


「とりあえず逃げて、杜鷺さまぁっ!!」


次回更新は7月29日前後の予定です。

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