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容赦なくたたき込まれる砲弾。反射した流れ弾が観客席を直撃しないよう、慣れない身体で器用に捌いてくれるミツバ姐さん。
爆煙が晴れる頃には、辺り一面が小さいクレーターだらけになっていた。
「ホホウ、ずいぶんと優秀な使い魔じゃねぇか! 小僧」
実際は違うんだけどね。
「あの程度なら問題ないが、防御一辺倒で反撃できねぇな。どうするよ、モリサギ」
「お困りなら交代しましょうか?」
振り返ると、炎天下、腕組みをした霊仙寺が「かき氷」の旗を熱風に靡かせ、仁王立ちしていた。
「お前イースト・ドラゴンを首に巻いて、涼しそうだな!」
手の平で雑に「代われ」とジェスチャーする霊仙寺。
「勝算あるのか? ずっとデザート作ってただけだろ」
俺では手に負えないので、侍女姉さんから負けを宣告してもらい、霊仙寺と交代する。
大将、ロケット・ランチュウVS中堅、霊仙寺橙愛の試合開始だ。
「お嬢ちゃん、水属性だろ? 魚類の俺様が相手でいいのかい? 手加減しねぇけどな」
「ご心配なく。はい、海水どーん」
ロケット・ランチュウの頭上に、ザッパーンと勢いよく大量の水が放流される。
「ちなみに塩分濃度70%でスタートよ」
病気の金魚に塩浴させるって聞くけど、70%はオーバーキルだろ!
「死海より濃いじゃねーか。鬼だな」
致死量をはるかに越えた塩分により、尋常じゃない浸透圧がロケット・ランチュウを襲う。
毎秒何リットル? 何トン? 降り注いでいるのか不明だが、イースト・ドラゴンによって完璧に制御された塩水は獲物だけをピンポイントで呑み込む。
濃度が三桁に届く頃には、塩水の牢獄でロケット・ランチュウがシオシオになっていた。塩だけに。
溢れる塩水は、太いゴムホース状に身体を変化させたイースト・ドラゴンの体内が導線となって、闘技場外の大海原へ運ばれて行った。
排水が終了し、スタンダードサイズに戻るイースト・ドラゴン。
「勝者、霊仙寺橙愛! 杜鷺チームの勝利です!!」
客席より沸き上がる歓声。終始ギャラリーの安全を気遣っていたファイトスタイルをたたえる声も聞こえる。
「楓麻、遅くなってすまない。凄い大歓声だな、何があった?」
「俺達が勝ったんだ。ってなんで水着同然のカッコなんだよ」
露出度の高いケーキ屋の制服(夏バージョン)姿でスタンドを見回すルビーナ。
「早退すると言ったら、コレを着せられてな。短時間だったが、売上は通常時とトントンみたいでノルマは果たしてきた。あと、店長から差入れを預かっている」
気を利かせてアイスケーキをルビーナに持たせてくれたようだ。
「ど、同士フウマ! そ、そちらの素敵なお嬢さんは!? ぜひ紹介していただきたい!」
なぜかルビーナに興味津々の帝王。分かりやすく瞳がハートになっている。
「私は杜鷺チームの選手……え? 私が大将なのか? ルビーナだ。よろしく頼む」
「同士フウマとはどういったご関係で?」
盛りの付いたっぽい帝王は、なめ回すようにギリギリの距離でルビーナの周囲をウロウロする。
「複雑な関係だな。私にとって初めての(負けた)相手で……」
案の定、言葉足りてねーよ!
「あ、いや力ずくではなく、舌先だけでな」
「どんだけテクニシャンなんだ、キミという男はっ!」
「もうそれでいいよ。弁解しても無駄なんだろ?」
で、ルビーナさんよ。あんたもこのタイミングで顔赤らめるなよ、俺に負けたの思い出して恥ずかしいんだろうけどさ。
「認めると言うのか、タダレた関係をっ!」
誤解が誤解を生み、収拾がつかない。
「よし、決闘だっ!!」
何故か帝王から白い手袋を投げつけられてしまった。
次回更新は7月24日前後の予定です。




