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最後の相手は、ズングリした等身大の金魚。「らんちゅう」って品種だろう。
メタリックレッドとシルバーで彩られた体色は、「古の魔法使い」の言葉を借りるなら、『チョコバーの包みみたいなヤツ』。
派手な本体を除けば、人型の手足が出ているので、安っぽい着ぐるみを見ているようだった。
「オイオイ、俺様の責任重大じゃねーかよぉ。情けない連中だったが、一応カタキは取らせてもらうぞ小僧!」
そう言うと、どこから出したのか両脇にロケットランチャーを抱えていた。
「金魚がベースのくせに、見た目まぁまぁのインパクトだよ!!」
弾頭が剥き出しのタイプなので、腔発狙いという訳にもいかない。
「モリサギ、なんだあの金魚!? 物騒なモン持ち出しやがって」
「パターンからいくと、さしずめ『ロケット・ランチュウ』とかじゃないですかね」
「小僧、よく俺様の名を知っているな。無限ロケランの『ロケット・ランチュウ』とは俺様の事だ!」
先の六人でネーミングサンプル出揃ってるからな。まぁ大将だけあって、他のやつらとは火力に差がありそうだ。
「これは挨拶代わりだ、とっておけ!」
いきなり四発も撃ってきた。あの体格だからこそ連射に耐えられるのかもしれないが、込められている弾が魔力ってのはホント厄介だな……
「っだぁっ!!」
ミツバ姐さんが、キレの良い動きで四つとも叩き落とす。威力を散らされた弾は、フィールド内のフェンス手前に着弾し、それぞれ小爆発。
「お前、勇者のクセに使い魔任せかぁ? これだから努力しない主人公世代はよぉ!」
悔しいが反論できない。勇者歴半年にも満たないんだから、長い目で見て欲しい……
ルビーナから戦闘訓練は受けているけど、まだまだ基礎体力作りの段階。
「なぁモリサギ。ダイコンの時みたく、女神プロミディア召喚でねじ伏せたらどうだ? こんなラブリーな手じゃ、決定打を撃ち込める自信がねぇ」
上下にプラプラさせていたピョン子の前足を、「見て見てー」とばかりに俺の鼻先へ突き出すミツバ姐さん。
「ミケーニャ帝国は管轄外で、実体の顕現は制限が掛かってるって話でしたから、無理ですね」
今まで周囲を飛び交っているのが普通だったから、微妙に静かで寂しくもあるけど。
カードは自立してるし、プロミディアさんが不在でもアドバイスが受けられないだけで使用には問題ない。まぁプロミディアさんが直接カードを行使してくれれば桁違いの火力で殲滅できるとは思う。
「小僧! 最近の勇者ってのは「チート能力」を持ってるって聞いたぜ? 俺様には効かないがな」
「同士フウマ、彼は倒された六人とは別格だよ」
たかだか金魚に絶大な信頼を寄せるヤミの帝王。
「フィギュア化された姫達の国にも召喚勇者はいたのさ。ただ、彼の能力とは軒並み相性が悪くてねぇ」
背水の陣ながら、ペラペラと語りだした。
「野良勇者だっけ? 彼らと似た能力を持っているんだ、この『ロケット・ランチュウ』は」
なんだよ、ここへ来て後出し設定かよ!
舞台に上がった帝王は「言ってやれ」とばかりに金魚の肩をポンと叩く。
「よく聞け小僧、俺様の能力は『努力を伴わない技は効かない』だ!」
こりゃまた近年勇者にキビシイ能力だな……
「実質、チート殺しじゃないか」
俺には関係無いけどな。
「チートも無い、努力もしないアンタじゃ勝てっこないわね! ププ」
ビーチパラソルの下、マミさんが置いていったビーチチェアでくつろいでいるピョン子。
「うるさいよピョン子! なにかき氷食ってんだ! 霊仙寺、お前もなに律儀に作ってんだよ!」
俺へのあてつけか、だらしなく胡座をかく留奈ピョン子。ボーダー柄のホットパンツが破壊力バツグンなのはナイショだ。
仕事の都合で安定更新がキビシイです。
次回更新は7月20日前後の予定です。




