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「なんて失態だ! ミケーニャ帝国の誇る獣鬼七将軍が六人も倒されてしまうとは!!」
ガックリ崩れ落ちるヤミの帝王。相当ショックを受けたようで、切れ長の目を大きく開いたまま呆然としている。
六試合分の時間を合計しても、侍女姉さんが闘技場・海岸間を二往復するより短いんじゃ膝から落ちもするか。
「確かに将軍クラスの魔物を七体も抱えていれば、エルマナ人相手なら問題ないの。でも、召喚勇者を相手にするなら全然足りないの。過程はどうあれ、最終的には召喚勇者が勝つの」
「マーシー島は海に浮かぶ孤島ですからねぇ。現帝王になるまでは隔離された地だったんですよぉ」
裏を返せば、召喚する必要がないレベルの小競り合いで収まっていたわけか。
「井の中の蛙ってやつだな……」
「ワタシ達のように大きな国同士、城壁一つで四つも隣接してる立地条件の方がそもそもイレギュラーだと思うわ」
エルマナ全体の地図は見たこと無いけど、国の配置は結構極端なのかもしれない。
いくつ国があるのか知らないが、フィギュア化された姫の97ヵ国には召喚勇者が不在だったのだろう。
「杜鷺さまぁ、あと一人で姫さま奪還です! 頼みますねぇ!」
俺の左手を包み込む侍女さんの掌から、切実な思いが伝わってきた。
「アタシ降りるわよ。あんな狭い穴に押し込まれるのはゴメンだわ!」
ピョン子がヘソ曲げてしまった。
「ギッチギチに詰められてましたものねぇ……」
明らか銃口と頭のサイズ違うのに、俺がムリクリ強行したのが原因だから仕方ないな。自業自得だ。
「悪かったよ。ピョン子は休んでてくれ」
「当然よ」
留奈ちゃんの姿でプリプリしたまま闘技場を出て行くピョン子。
「そうだ、杜鷺さまぁ。姉からミツバ姫さまのリボン、預かってましたよね」
「これのこと?」
侍女姉さんが主犯格の誘拐団と戦闘中、大技のためにヨツバさんと交代した所を狙われて現場に落としたモノ。
「コレをですねぇー…… こうしてぇ、くるくるぅーっと。はい! 完成です」
改造黒帯のリボンを、抜け殻ピョン子の首に結ぶ侍女さん。
「っぷ、はあぁーーっ!!」
ピョン子が戻った感覚が無いのに、勝手に動き出す抜け殻ピョン子。エメラルドグリーンの縞も深緑に変色している。
「ピョン子ちゃんクローバーフォームです。姫さまぁ、ご無事ですか?」
いわゆるリボンが本体ってパターン? いや、本体はヨツバさんか。
「うわ、ナンダこれ!? オレ手が毛の生えたウマイ棒になってる!」
パニックになっているようで、電池を入れ替えた玩具みたいに、あっちこっちへブンブン動く。
「ミツバ姐さん、お久しぶりです。まずは落ち着いて」
「お、モリサギ! もしかして、縞ウサギに入っちゃってるのか?」
さすが常識人、飲み込みが早い。
「はい。もうすぐ元通りになれますから少し我慢してください」
「…………ま、まぁ気にするな。急がなくていいさ」
妙な間があったが、そんな訳にもいかないだろう。
「姫さまぁ、どこまで覚えています?」
侍女姉さんの話だと、ヨツバさんの意思でフィギュア化を望んだらしいけど。
「お前の姉貴とタイマン勝負になって、ヨツバでトドメ刺そうとした辺りまでだな。ヨツバが何か吹き込まれたようでさぁ、モリサギの愛を確かめるとかなんとか変な事言ってたな」
おおう、なんて事……
「詳しくは本人に確かめよう。ピョン子無しで勝てればだけど」
いつもと勝手の違う右手の芸風というか、量感というか。新鮮すぎて馴染むまで時間がかかりそうだ。馴染んじゃダメなんだけども。
不安要素が拭えないまま最終戦の舞台へ上がる。
ちょっと重い仕事が入りましたので、ペースが落ちます。
次回更新は7月17日前後の予定です。




