5-10
10分程度でゴールデン・リボルバーの攻略法がみつかる訳もなく、無策のまま試合再開。
「チョット試させてもらうゼ」
ロシアンルーレットのように手のひらでシリンダーを回転させるゴールデン・リボルバー。
「…8、9、10。こんなモンか」
回転を加えて、俺に向け発砲。たった1発だが、ダメージは初めの6発よりも段違いに大きい。
「くっ、『怒りの矢』!!」
数秒遅れで攻撃カードをコールしたが、
『オイー……』
魔法発動前に黄緑色の精霊=命名『イカリヤ』が打ち落とされ、砕けた精霊は光の粒子となってガントレットへ戻る。
「だめだこりゃ」
対するゴールデン・リボルバーは、反射した攻撃をかわし、今度は執拗なほど回転を加えていた。
「……18、19、20。さっきの倍だ」
放たれる魔力の銃弾。もしかしてシリンダーを回した分、攻撃力が増すのか?
結果は予想通りで、ダメージは更に大きかった。
「お前さんの『ドリフシステム』は受けたダメージが大きいほど、反射処理の時間がかかるようだな」
余裕で反射エネルギーを避けたゴールデン・リボルバーが、闘技場の壁に大小並んだ穴を親指で示す。
「さぁ、次は50回転だ。そして俺の立っている位置、これが何を意味するか考えるんだな」
不敵な笑みを浮かべ、シリンダーを回転させる背後にあるもの。
「観客か!」
『ドリフシステム』は俺の意思で制御できない。おそらく50回転の弾丸を受ければ、俺自身はコント爆発で済むとしても……
「反射エネルギーが観客席に直撃したら大惨事だわね」
「ピョン子も対策考えてくれよ」
「犬の懐に飛び込みなさいよ、アンタの手が届く範囲なら仕留めてあげるから」
簡単に言ってくれるなぁ。
「取り付くまでに弾いた弾丸が無差別に観客襲うんだぞ」
「アタシには関係ないわ。それより、来るわよ」
「関係ないって……」
まぁ、もともと魔物だから仕方ないのかもしれないけど。
覚悟を決めて50回転の弾丸を受ける。ダメージがオーバーフローし、コント爆発と同時に仰向けに倒れる事で、なんとか軌道を垂直方向へ反らせる。
爆煙の中、天高くに打ち上がる大きな光球が、青空に吸い込まれて行くのを見届ける。
寝転がったまま、すすけた頬を拭った手の甲は黒く、指の隙間から覗く真っ白い雲とは対照的だった。
「アンタなに? 詩人気取り? 現実逃避やめなさい!」
アフロが治まりきっていない俺の額に、マウントポジションを取ったゴールデン・リボルバーの銃口が向けられる。
「チェックメイトだ。お前さんがセンチメンタルを気取っている間に100回転させてもらったゼ」
「このっ!」
「おっと、ウサ子ちゃん。動くなよ? カワイイお手てが俺の鼻先に触れるより先に、その小さい額に風穴を開ける事が出来るゼ」
あぁ柄にも無いこと考えたばかりに。態勢は寝ているが、崖っぷちに立たされた俺は、気持ちを切り替えてオタク知識を総動員させる。
導き出した答えは。
「ピョン子! ニンジン料理好きなだけ食っていいから、俺の言う通り動いてくれ! そして先に謝っとく、スマン!!」
「チョッ、ナニ……ムグゥーーーーッ!!」
左手でゴールデン・リボルバーの腕を掴み、額に当てられていた銃口へピョン子の頭を強引にネジ込む。
「よし、ピョン子! そのままシリンダーを回転させろ!」
何か呪詛めいた事を喚いているようだが、籠もって聞き取れない。一応、見えないながらも、言われた通り可愛い前足でシリンダーを回転させているので良しとしよう。
「お前さん、腔発狙いか!! 離せ!」
そう、マンガやアニメでたまにあるシチュエーションだ。
指や土レベルじゃ無理だろうけど、素人考えで、ピョン子も魔力もギチギチに詰めたらイケるんじゃね? って。
「よし、ピョン子! 脱兎して離脱しろ!!」
合計200回転を越えた辺りでピョン子を逃がす。
「『影ボット』! コイツ押さえ込んだままトリガー引け!!」
抜け殻のピョン子をさらに押し詰め、俺と『影ボット』の間でサンドイッチになったゴールデン・リボルバー共々自爆に成功。
俺はいつも通りコント爆発でノーダメージだが、零距離で自らの200回転弾丸を受けたゴールデン・リボルバーは爆散してしまった。
「勝者、杜鷺楓麻!!」
塵となったゴールデン・リボルバーを袋に取り込む侍女姉さん。
「瀕死レベルだったら『オール治癒』かけてやれたのにな。回しすぎたか……」
俺は、自身と白目を剥くボロボロになった抜け殻ピョン子を治療し、待ち構えていた留奈モードのピョン子から強烈なドロップキックを受けた。
だから低空はヒザ変ななるって。




