5-9
さて、俺の対戦相手は。
頭部が犬である事を除けば、人型で前の五人よりは正統派だった。
「オレは獣鬼七将軍の『ゴールデン・リボルバー』だ」
身長180cmほどのガッシリした体格で、金色混じりの体毛に覆われている。
そしてやはりガンホルダー。
「始め!」
侍女姉さんの合図で双方同時に距離をとった。
「あれ、近接打撃じゃないのか?」
銃を所持していた全員が、鈍器として使用していた先入観から、間合いを空けたのが失敗。俺が後方へ跳んだ時にはゴールデン・リボルバーが銃を抜いて狙いをつけていた。
着地と同時に12発の銃声と6発分の衝撃が全身を駈ける。
「そいつが『ドリフシステム』ってやつか。危ねぇ危ねぇ」
早すぎて見えなかったが、床に散らばる潰れた弾丸から察するに、内訳はこうだろう。
「反射した弾を迎撃した……?」
口角を上げ、良い笑顔で牙を光らすゴールデン・リボルバー。
ヤベェ、このイヌ正統派すぎる! いや、今までがふざけ過ぎなだけか!?
「アンタ、大丈夫なの? 見かけより賢いわよ、あの犬」
唯一、銃を銃として使用してるしな。
銃の体裁をしているが、弾丸は魔力で造られているらしく、リロードの必要が無いのも厄介だ。
「こういう芸当もできるゼ」
侍女姉さんの胸元から溢れる札束を掴み出し、宙へ放る。
無数にバラける札の枚数とほぼ同数の銃声。
ニヒルに決めるゴールデン・リボルバーの頭頂に渾身の猫チョップを入れ、散らばった札を拾い集める侍女姉さん。
ひとつの束に重ね上げると、帝王の顔が刷られた中心部分だけをキレイにくり抜いた跡が。
「全部貫通しちゃって! コレ交換できるのかしら……」
ブレない侍女姉さん。
「心配いらないわよぉ、仔猫ちゃん」
ズブ濡れで、息も荒いマミさんが、いつの間にか俺の背後に立っている。
「そこのワンちゃん。そんな芸はエルマナじゃあー、2番よ」
オーバーアクションでチッチッと指を振り、円形の穴を眺めて嘆く侍女姉さんの手から札束を取り上げると、天高く放り投げた。
「チョット借りるわね」
ゴールデン・リボルバーから銃を取り上げ、点になった札束に向かって撃つ。
「お手並み拝見といこうか」
『エルマナじゃ二番』発言を無視して結果を待つゴールデン・リボルバー。
マミさんはと言うと、10倍猫チョップの態勢に入っている侍女姉さんの手を掴み、その手のひらを上に返して固定する。
待つこと数秒。
上に向けた手のひらに、硬貨が積み重なって行く。
最終的に、舞台の上には千枚単位のバーが数十本建っていた。
札束を同額の硬貨に変換って、あんた早川以上だよ!
「お客さま、試合の邪魔でゴザイマス!!」
両替された大量の硬貨を袋に詰め、手際よく簀巻きにしたマミさんのオモリへと早変わり。
また数分の中断となった。そして文句は出ない。
静寂を取り戻した舞台には、マミさんが隠し持っていた白いギターと黒革のハットが無情に取り残されていた。
「何がしたかったんだ、あの人……」
次回更新は7月10日の予定です。
外伝の方は7月9日AM9時更新です。




