5-3
一夜明けて、試合当日。
闘技場の観客席は、ほぼ満席状態。娯楽を求めて島の住人全員が集まった感じだ。
場外では早朝から侍女姉さんが、もともとネコなうえに猫をかぶり、作り笑顔で『ミケーニャ7大将軍VSチーレム杜鷺』のチケットを販売していた。
「これ『レ』いるか?」
自惚れていいなら、たぶん間違っちゃいないが『チーム杜鷺』でお願いします。
他人が見れば完璧な美人の売り子さんだが、実情を知っている俺からすれば、とても怪しいブックメーカーだ。
腹黒い予想屋にしか見えない侍女姉さんを横目に、ヒンヤリとした石壁の通路を抜けると、日射しが眩しい闘技場内へ出る。内壁に沿って仮設された控えテントは、申し訳程度に日陰を提供してくれるものの、運動会の実況席のように屋根しか無く、時折入ってくる熱風は防げなかった。
「いくら守銭奴でも、姫の運命がかかっているのに心配じゃないのかなぁ」
「杜鷺様ぁ。じつは今朝、姉から明かされたことがありましてぇ」
いつも急だな、侍女姉さんは。
「ひとつは、理由が良くわかりませんけど、ヨツバ姫様は進んでフィギュア化されたようですねぇ」
ヨツバさんの人格との絡みがほとんど無いため、思考パターンが読めず、俺には何とも言えない。
「あと、姉は他にもっと大きな仕事を抱えているみたいですぅ……にゃ」
そんな困った顔で取って付けたように「にゃ」とやられましても。可愛すぎるじゃないですか。
ちなみに、さっきから俺の横ではプロディちゃんが俺達のやりとりを聞きながらウチワで扇いでくれているのだが、侍女さんの「にゃ」に合わせて、鏡のように「にゃ」と真似る様は茹だる暑さの中、一服の清涼剤だった。
「大きな仕事ってなんだろう」
ヨツバさんよりも読めない人だ。シフトの入っていない曜日にナニをしているのやら。
「ザックリとボカシた要点を投げて、判断を丸投げするのが基本なんです。姉はお金儲けありきの打算でしか動かない人なので、褒められた内容では無いかとぉ」
ま、侍女姉さんの真意は後回しにして、当面はヨツバさんを取り戻すことに専念だ。
「あ、みにゃさーん! 準備はよろしいですかにゃあ?」
進行役をやるのか、侍女姉さんがクラブ国の時と同じバニーガール姿で俺陣営のテントへやってきた。
「ルビーナさんがまだ到着してないよ」
勝ち抜き戦ならまず問題ないと思うけど。
「彼女でしたら、こちらへ向かっている途中のようですにゃ。それより、この暑さ。かき氷でもいかがですかにゃ?」
侍女姉さんが合図をすると、涼しげな器に盛られた純白の小山が運ばれて来る。
「あちらの方からの奢りですにゃ」
バーテン気取りの侍女姉さんが示した先には。
「霊仙寺!?」
炎天下、テントから少し離れた場所で、忘れられがちな水属性設定をフル活用している霊仙寺。
スマートではない、重冷気剣の無駄遣いにしか思えない使用方法だった。まぁ、助かるけども。
「アイツに何があった! あんなキャラじゃねーだろ」
「さすがモリサギ選手、彼女のコトよくわかってますにゃっ! 私がモリサギ選手の……ま、にゃんだかんだで取引したんですにゃ」
そこ重要よ? 俺がなに?
「さぁさ、好きなシロップで召し上がれぇ。あ、マミ様は水で。いや、海水でお願いしますにゃ!」
霊仙寺と侍女姉さんの好意により、試合前にイイ具合に体感温度を下げることができた。




