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「まぁまぁ落ち着いてくださいにゃ。にゃが旅の疲れもあるでしょうから、今日は休んでいたにゃいて、試合は明日スタートですにゃ」
そんな訳で、午後は侍女姉さんがガイドするマーシー島の観光地ツアーになった。
良いのか悪いのか、悪政によってマーシー島の人口は、モンスターと住人を合わせても前帝王の半分以下となり、夏のビーチリゾートにもかかわらず貸し切り状態となっていた。
「もーっ! あんた達ときたら、海辺のリゾート地だっていうのに……みんな! とりあえず脱ぎなさい。ってか、脱げ!!」
妙にハリキッているマミさん。監督気取りで俺達を急かすように手をたたく。
「ほらほら水着回なんだから早く早く! 橙愛ちゃんはある意味無双回なんだから、全部いっちゃいなさい!」
「無茶言わないで! だいたい遊びで来てるワケじゃないんだから、水着なんて持ってきていないわ!」
「だ・か・らっ! 『全部』ってんでしょーがぁーっ!! 魔乳出し惜しみしてんじゃないわよ!」
「メチャクチャね、あのトシマジョ。勢いで全裸強要してるわよ?」
なにがマミさんをそうさせるのか。どうでもいいけど。
「好きで『大きい』わけじゃないわ! ご自分で脱いだらいいじゃないですかっ!」
慧依子先輩、アートショットを霊仙寺に向けないで。
「私が脱いだら、こんな島消滅しちゃうのよっ! 脱ぎたくても脱げないしねっ」
なんちゃって女子高生に見えるフザケた拘束衣をバサバサ扇ぐマミさん。どれだけの力を抑え込んでいるのだろう。
「あーん? フウちゃん、あなた男だと思って油断してるわね? 気を抜いていたら容赦なく剥きます」
鳩野さん、ヘールプッ!
「マミさん、冷静になってくださいよ。どうしちゃったんですか?」
「ハートの女王は紅音がいないと、だいたいあんな感じなの。ツッコミが不在だから延々ボケ倒すの」
ほとんど暴君じゃねーか! あらためて知る、鳩野さんとメリルさんのありがたさ。
「まだまだ時間あるわよね? チョットあの人黙らせてくるわ」
見かねた静香が俺の肩に手を置き、「んーっ」と伸びをひとつ。ハート国勇者の威厳を背負ってマミさんを止めに行く。
「あら、フウちゃん自分から……アブナイ、アブナイ。挑発も『お約束』にカウントされちゃうんだっけ」
前にクラブ国王が素で俺と間違えたやつか。
「まぁ、あの背中はアンタより男らしいかもね。ププ」
否定はしないので、中指と人差し指は納めてやる。
「女王様は年長者なんですから、もっとしっかりしてください」
静香が正論を言っている。侍女さんを除けば未成年の団体だからなぁ。
「言ってくれるわね静香ちゃん。私を止めたければ全力でくることね!」
「わかってますよ。『セオリー・ブレイカー』発動しました。女王様も気をつけてくださいね。自動判定なので発動後は私じゃ制御できませんから」
「待って待って、一回解いて。言いたいことあるから」
「どうぞ」
「ふふふっ、我に秘策ありっ! 『セオリー・ブレイカー』破れたり!! あ、発動していいわよ」
「じゃ、セオリー・ブレイカー」
とか緊張感の無いやり取りがあって。
照りつける陽光の下、一瞬の静寂。固唾をのむ俺達。穏やかな波音が潮風と共に頬を撫でていく。
一呼吸おいて、無言で静香に殴りかかるマミさん。しかし。
「……きゅう」
わずか二、三歩で砂浜に倒れ込んでしまう。
「どうなってんだ? マミさん何も言ってないじゃないか」
「は? 無言がセオリー・ブレイカーの対策なんて、お約束すぎるでしょ?」
まさにチート。一見さんなら防ぎよう無ぇじゃん。
「ここは日射しが強いにゃ。マミ様は、そこにょ岩陰で寝かせて、私達は他をまわるにゃ」
侍女姉さんがマミさんを担ぎ上げ、少し離れた岩場へ運ぶ。
「姉さん、そこは!」
「おかまいにゃくぅー」
侍女さんが何か言いかけて言葉を飲む。
「さっぱりだな……って、痛っ! 先輩、イキナリ何ですか!」
何故か慧衣子先輩が昭和の小学生男子さながらに、キレのある浣腸を仕掛けてきた。
「これが今のヒントなの」
両の人差し指をピタリと合わせ、忍者のように印を結んでいる指を、そのまま海へ向ける慧衣子先輩。
「なんのことですか、まったく!」
その場は慧衣子先輩も浮かれているんだろうと思ってスルーした。
日が落ちた頃、先輩のヒントに気がついた俺は、しこたま海水を飲んだマミさんを引き上げに、夜の浜辺をダッシュした。




