第5章-1
クジラ型モンスターの口の中に入って海原を進むという、童話でありそうな移動手段は思ったより快適な旅だった。
口腔内を傷つけないよう、魔法で形成された球体カプセル。その中に、ピンク色した簡単デザインのバンガローが浮遊していた。
有名アニメのEDを思わせる侍女さんの手招きとホイッスルのリズムで、なぜか縦一列になって入室。
「最後はみんな駆け込んだけど、外から見たら結構バンガロー揺れてたんじゃないのかな?」
カラフルな小屋が球体の中で支えもなしに浮いている様は、とてもバランスが悪そうだったけど。
「大丈夫ですよぉ。『ISOの』基準はクリアしていますから」
「アイ・エス・オーって、各国の標準規格みたいなやつですよね? ローマ字読みとかしませんよね?」
釈然としないまま、五〜六時間ほど海上を航行。昼頃にはリゾート地のような孤島の磯際に到着した。
クジラの潮吹きを利用してマンガみたいに打ち出されるバンガローカプセル。
ビーチ、高原を飛び越えて夏山をバックに広い草原へと落下する。着地の衝撃はカプセルが相殺し、バンガローの四本脚と三段ほどの短い階段が地面に根を下ろす。
「中はそうでも無かったけど、この小屋って外観は小さいわよね」
五角形のシルエットから、のんびり煙を吐き出す煙突を見上げる霊仙寺。
「七人家族が春夏秋冬で別荘に使用できるファミリーサイズなんですけどねぇ」
もうその事には触れてやるな。
「あれが闘技場なのかな?」
着地した場所は緩やかな小山になっていて、すり鉢状の客席が眼下に広がっていた。
「舞台のところに姉がいますね」
根っこワークを発動しているのだろう、侍女さんが数百メートル先の闘技場の中心を指さす。
目を凝らせば、闘技場の中心で誰かが手を振っているように見えた。
「行ってみましょう」
ときたま吹き上げてくる潮風まじりの熱風に、ピョン子の鼻腔が広がるのを笑いを堪えて、なだらかな斜面を下りていく。
間近で見る闘技場外周は、年季の入った重厚な石造り。ところどころ欠けてはいるが、崩れることは無いだろう。
「あれぇ? 六人しかいないようだけど大丈夫かにゃあ」
「姉さん、方言出ちゃってますよ」
語尾の『にゃ』が方言て、なんか新鮮。
「ミケーニャ訛りは、あんたと区別しにゃすいようにとにょ、姉の配慮にゃ」
痛いくらいにキャラを作っているようだけど、そんな飛ばしてもつのか? 侍女姉さん……区別つくのはありがたいけど。
「アンタ、妹の方にも方言で喋って欲しいとか思ってるわね?」
思考がダダ漏れになっていたようで、ピョン子に知られてしまった。
「杜鷺さま? そうにゃのですかにゃ?」
侍女さんがニコやかに『にゃっ』とする。
「いえいえ、お気になさらず。大丈夫ですから!」
侍女さんヤベェ。本気じゃないにしろ、まあまあの破壊力だ。
あたふたと周囲を見回すと、隅っこの方でプロディちゃんが侍女さんのマネをして『にゃ』と練習していた。
「えーと、フウちゃんは語尾に『にゃ』をつけるとよーろーこーぶー……と」
マミさんはなにメモしてんですか?
「そう言えば楓麻の蔵書に猫耳メイドが何冊かあったわね」
「お前、勝手に部屋漁るなよ!」
「アタシも読んだわ」
ピョン子、いつのまに……
「お前はウサ耳で『〜ピョン』とか言ってろ!」
新たな属性を暴露された俺は、行き場のない怒りを人差し指と中指に乗せ、ピョン子の麦チョコのような可愛い鼻の穴を容赦なく突き上げるのだった。




