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4-14

 侍女さんとの待ち合わせは、ビイワ湖近辺の小さい湾みたいな場所。

 今回、ノンストップの長距離移動に不向きな飛竜ではなく、クジラに似た大型の移動用モンスターで海路を行くとの事だった。

 4国周辺の魔王軍が消滅したことで、未踏の地や大海原への進出が楽になったのは大きな収穫だ。

 ビイワ湖にも各国共通のワープゲートが仮設され、探索や観光者の移動時間短縮に貢献している。


「みなさん、ゴメンナサイぃ。私、杜鷺さま陣営に参加できなくなっちゃいましたぁ」


 メンツが揃い、いざミケーニャ帝国ヘ……になるはずだったけど。


「何かあったんですか?」


 侍女さんから突然の脱退します発言。


「じつは、みなさんが到着する少し前に姉がきましてぇ」


 たおやかな五本の指先を合わせ、細い眉をハの字にして俯く侍女さん。


「ヨツバ姫さまを『アーン』されたくなかったら手を引けと……」

「ごめん、『アーン』てなに?」

「私にも分かりませんが、お金の絡んだ姉の事ですから最悪を考えた方が良いと思いまして」


 ニュアンス的には『存分に』の上位互換っぽい気がする。まぁ、『存分に』もよく分かっちゃいないんだけどね。


「侍女ちゃんが抜けても、私と静香ちゃんがいればお釣りがくるわよ?」

「相手の戦力は未知数だけど、俺もマミさんの言う通りだと思う。安心してよ。抜けても大丈夫だからさ」


 板挟みのプレッシャーも相当なもんだろうし。


「アンタ、一番お荷物のクセによく言うわね」


 ピョン子が前足で俺の鼻を両側からプレスしてきた。


「びゃあ、ににょつぁんのかばりをさかさなきゃ」


 お荷物は事実なので、鼻をつまませたまま耐える。両前足で必死に挟む姿も、小動物に鼻を挟まれる姿もマヌケに映っていることだろう。


「杜鷺、代わりを探すと言っても、侍女さんクラスなんてそうそう居ないわ」


 と、思われていた矢先。

 ワープゲートを通って来る一団の中に、有力な人物を発見。


「すごーい! 一瞬で違う場所に来ちゃった!」

「結構ギリギリの時間ですが、間に合いましたね」

「スマナイ、急な棚卸しが入ったのでな。私のせいだ」


 鳩野さん達がミケーニャ遠征の見送りに来てくれた。


「そう! ルビーナさんっ! 助かった!!」

「泣きそうな顔してどうした? アカネやミヤコでなく、真っ先に私とは珍しい。ちょっと嬉しいぞ」


 片道三時間かかるバイト先の制服姿。ルビーナのためにケーキ屋の店長が新調したソレは、来客五割り増しは確実なビジュアルだった。


「皆に恨まれたくない。アカネ、そんな目で睨まないでくれ」


 取り乱し、すがり付いていた俺を優しく離すルビーナ。


  ■   ■   ■   ■   ■   ■   ■   ■   ■


「……そんな訳で侍女さんの代わりに参加して欲しいんだ」


 落ち着きを取り戻した俺は、ルビーナに事情を話す。


「バイトが終わってからでいいなら参加しよう。なるべく早く合流する」


 この際マイペースな部分は目を瞑ってお願いした。律儀な彼女のことだから、すっぽかしはまず無い。


「よかったですぅ。これで7人揃いましたね」


 ルビーナに深く礼をする侍女さん。


「楓麻クン、都ちゃんはうちで預かるから安心して行ってらっしゃい」


 むくれている都を後ろからソッと抱きしめるメリルさん。


「よろしくお願いします。都、メリルさんのお手伝い頼んだぞ」


 信頼できる、できた妹だ。心配はいらないな。


「ミヤも『チートのうりょく』持ってる勇者なのにダメなの? お兄ちゃん」


 意外にも抗議してくる都。


「たしかにチートだけど、発動条件がなぁ。今回は諦めてくれ」

「その子は連れて行くのに?」


 やばい、グズりだした。プロディちゃんも困った表情で俺と都に顔を向ける。


「都さん。この私が留守番なんですよ?」


 鳩野さんの一言で息をのむ都。


「そうでした。ごめんなさい」


 一気に引き締まる都。えっ? 何このやりとり!? 二人の間になにがあったの?


「そうそう紅音、最初に謝っておくわ。たぶんミケーニャから帰る頃には、あんたに妹か妹ができてるかも」


 俺の顔に頬をすり寄せてくるマミさん。妹か妹て……

 いつも通り、まばたき一つでメリルさんと鳩野さんが彼女の両頬を歪めていた。


「杜鷺君。私、言いましたよね? 心に従っていいんですよ? ほら、今なら母のボディががら空きです」


 綺麗に伸びきった右腕を見るに、折られた腕は完治しているようだった。

 俺にどうしろと……


次回の更新は6月26日の予定です。

が、活動報告欄で予告していた「だっと! 外伝」を

6月25日にフライング更新するかもしれません。

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