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侍女さんとの待ち合わせは、ビイワ湖近辺の小さい湾みたいな場所。
今回、ノンストップの長距離移動に不向きな飛竜ではなく、クジラに似た大型の移動用モンスターで海路を行くとの事だった。
4国周辺の魔王軍が消滅したことで、未踏の地や大海原への進出が楽になったのは大きな収穫だ。
ビイワ湖にも各国共通のワープゲートが仮設され、探索や観光者の移動時間短縮に貢献している。
「みなさん、ゴメンナサイぃ。私、杜鷺さま陣営に参加できなくなっちゃいましたぁ」
メンツが揃い、いざミケーニャ帝国ヘ……になるはずだったけど。
「何かあったんですか?」
侍女さんから突然の脱退します発言。
「じつは、みなさんが到着する少し前に姉がきましてぇ」
たおやかな五本の指先を合わせ、細い眉をハの字にして俯く侍女さん。
「ヨツバ姫さまを『アーン』されたくなかったら手を引けと……」
「ごめん、『アーン』てなに?」
「私にも分かりませんが、お金の絡んだ姉の事ですから最悪を考えた方が良いと思いまして」
ニュアンス的には『存分に』の上位互換っぽい気がする。まぁ、『存分に』もよく分かっちゃいないんだけどね。
「侍女ちゃんが抜けても、私と静香ちゃんがいればお釣りがくるわよ?」
「相手の戦力は未知数だけど、俺もマミさんの言う通りだと思う。安心してよ。抜けても大丈夫だからさ」
板挟みのプレッシャーも相当なもんだろうし。
「アンタ、一番お荷物のクセによく言うわね」
ピョン子が前足で俺の鼻を両側からプレスしてきた。
「びゃあ、ににょつぁんのかばりをさかさなきゃ」
お荷物は事実なので、鼻をつまませたまま耐える。両前足で必死に挟む姿も、小動物に鼻を挟まれる姿もマヌケに映っていることだろう。
「杜鷺、代わりを探すと言っても、侍女さんクラスなんてそうそう居ないわ」
と、思われていた矢先。
ワープゲートを通って来る一団の中に、有力な人物を発見。
「すごーい! 一瞬で違う場所に来ちゃった!」
「結構ギリギリの時間ですが、間に合いましたね」
「スマナイ、急な棚卸しが入ったのでな。私のせいだ」
鳩野さん達がミケーニャ遠征の見送りに来てくれた。
「そう! ルビーナさんっ! 助かった!!」
「泣きそうな顔してどうした? アカネやミヤコでなく、真っ先に私とは珍しい。ちょっと嬉しいぞ」
片道三時間かかるバイト先の制服姿。ルビーナのためにケーキ屋の店長が新調したソレは、来客五割り増しは確実なビジュアルだった。
「皆に恨まれたくない。アカネ、そんな目で睨まないでくれ」
取り乱し、すがり付いていた俺を優しく離すルビーナ。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「……そんな訳で侍女さんの代わりに参加して欲しいんだ」
落ち着きを取り戻した俺は、ルビーナに事情を話す。
「バイトが終わってからでいいなら参加しよう。なるべく早く合流する」
この際マイペースな部分は目を瞑ってお願いした。律儀な彼女のことだから、すっぽかしはまず無い。
「よかったですぅ。これで7人揃いましたね」
ルビーナに深く礼をする侍女さん。
「楓麻クン、都ちゃんはうちで預かるから安心して行ってらっしゃい」
むくれている都を後ろからソッと抱きしめるメリルさん。
「よろしくお願いします。都、メリルさんのお手伝い頼んだぞ」
信頼できる、できた妹だ。心配はいらないな。
「ミヤも『チートのうりょく』持ってる勇者なのにダメなの? お兄ちゃん」
意外にも抗議してくる都。
「たしかにチートだけど、発動条件がなぁ。今回は諦めてくれ」
「その子は連れて行くのに?」
やばい、グズりだした。プロディちゃんも困った表情で俺と都に顔を向ける。
「都さん。この私が留守番なんですよ?」
鳩野さんの一言で息をのむ都。
「そうでした。ごめんなさい」
一気に引き締まる都。えっ? 何このやりとり!? 二人の間になにがあったの?
「そうそう紅音、最初に謝っておくわ。たぶんミケーニャから帰る頃には、あんたに妹か妹ができてるかも」
俺の顔に頬をすり寄せてくるマミさん。妹か妹て……
いつも通り、まばたき一つでメリルさんと鳩野さんが彼女の両頬を歪めていた。
「杜鷺君。私、言いましたよね? 心に従っていいんですよ? ほら、今なら母のボディががら空きです」
綺麗に伸びきった右腕を見るに、折られた腕は完治しているようだった。
俺にどうしろと……
次回の更新は6月26日の予定です。
が、活動報告欄で予告していた「だっと! 外伝」を
6月25日にフライング更新するかもしれません。




