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「……と、いうわけでフルーチェに混ぜる牛乳を気持ち少なめにして、ほどよい弾力を持たせた感じかな?」
霊仙寺の『意外にピュア』攻撃で気絶していたモデラー班は、職人根性で復活すると吐血しながらも俺の実況に耳を傾け、一心不乱にパーツ製作を再開する。
「なんの罰ゲームだよ、無理するな」
「忘れてたわ。コイツらに有効な攻撃は目の前でイチャつく事だったわね」
「だからってお前……」
「ウ・ル・サ・イッ!」
勢いで俺に胸を触らせた霊仙寺は、引くに引けないらしく。
「どうすんだこれ。一旦放そうぜ」
防御力があるのかも疑わしい姫騎士衣裳の隙間へ強引にねじ込んだ俺の左手を放してくれない。と、言うより。かれこれ10分、俺の理性がヤバイ気がする。
「なによ、揉みしだく気満々じゃなかったの?」
「にしても直って!!」
しっとりと指に吸着しながら、押し込まれた時の沈み込む柔軟性。絶妙な時間差で襲い来る心地よい反発力。さすがにその無限ループは勘弁してください。カテエラです。
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結局、俺が霊仙寺から解放されたのは、彼女の胸について延々語ったあとだった。
「……ま、杜鷺にしては妥当な評価ね」
「人前で官能小説30ページ分ほど朗読させられた気分だ。どんだけ情報詰まってんだよ」
言葉とは裏腹に、高めの体温と鼓動のリズムが残る俺の手のひらは、余韻を楽しむように開閉を繰り返していた。
「よし、楓麻氏の粘着実況のおかげでベースは完成だ、こんな感じか」
粘着実況て! まぁ、ここに居る全員が目に見えない大切な何かを犠牲にして作り上げたパーツだ。文句は言うまい。
「肝心のプロミディアさんはどこに?」
「スペード王と奥の練金室でボディの調整をしているはずです」
重厚な鉄製扉ひとつ隔てた向こうにいたのか。
「ところで楓麻氏。先程から姫とお連れの方が入り辛そうにコチラを覗いているのですが」
俺が霊仙寺から朗読プレイを強いられた辺りから入室のタイミングをうかがっていたらしい。
「もう、フウちゃんたらぁ。女の子が間違った勇気振り絞ってアプローチしたのに揺るがないのねっ」
恥ずかしくて消え入りそうな俺達の気持ちを和まそうとするマミさん。
物理的に左手は揺れっぱなしでしたけどね。
「お姉ちゃんも直でいいわよ? そのかわり楓麻のも直でね」
静香は黙ってろ、そのかわりってなんだ。
「調子に乗ってアタシの本体、使ってないでしょうね?」
なんのプレイだよ!
「さすがモル鷺君。話題が尽きないの」
もうどうでもいいよ。
「あら、賑やかねー。どうよ? フウマちゃん、私のカ・ラ・ダ」
練金室から出てきたプロミディアさん。久しぶりに見る等身大の女神さまが華麗にターンを決める。
「やぁ、いらっしゃい。出迎えられなくて悪いねぇ」
相変わらずいい人のスペード王。作業グラスを頭上に上げ、白衣を正す。
事情を察したのか、ハハハと乾いた笑いに引きつった笑顔を携え、俺の肩にエールの籠もったタップが送られる。
「プロミディアさんがその姿でヘラヘラしてるってことは、消滅の危機は去ったの? てか、もうそのメイド服捨てようよ」
「ダメダメ、フウマちゃんの貢ぎ物なんだから。どうしてもって言うんなら脱がしてごらんなさぁーい!」
ダメだこの女神、完全に浮かれてる。よほど完全復活が嬉しいんだな。
「ずいぶん予定より早い復活でしたね。これで俺もお役ご免ですか」
「んー? なに言ってんのフウマちゃん。神殿が建つまで君が仮の宿よ? いわゆる『ホテル杜鷺楓麻』『ロイトン杜鷺楓麻』ってやつね」
あんたこそ何言ってるんだ、北海道のジプシー神さま気取りか!
「モル鷺君。ここまで早い復活には、ジェイショッカーが精製した『女神のカケラ』によるものなの」
「ああ、斬首されたプロミディアさんの石像だっけ?」
「そう。もともと痴女女神の身体だから素材としては相性バツグンなの」
「これからは何度破壊されても心配無用よ! なんたって私のカケラから培養したこのクローン素材があるんだから」
「そうなの。私が女神のクローン素材と特殊金属を錬り合わせて完成させた究極のボディなの」
なんか久しぶりにエルマナ思考が飛び出しそうな流れだ。
「やな予感しかしませんけど、その『究極のボディ』の新素材って……」
「神のクローン合金、略して『ジン・クロン合金』なの!」
ですよねっ! 長い引きだよ! やっぱりエルマナ思考全開だったよ!




