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クラブ国王は明らか静香を指さしていたが、隣に位置している俺の事だと強引になだめた。
ちなみに俺は男だけど当事者だからOK。
「今更ですけど、自分の娘が見知らぬ好事家の手に渡って心配じゃないんですか?」
「ちょっ、楓麻! 耳に息吹きかけないで!」
いや、吹きかけちゃいねぇよ。羽交い締めの状態だから必然的に耳元近くで声を発することになる。
「うむ。心配は心配じゃが、あの姫査定が厳しいプリシタンに娘が認められて超嬉しいワシがおるのじゃよ」
俺には複雑な親心を理解できないし、理解できたらそれはそれでヤバい気がする。
「あのぉ〜、おおそれながら申し上げますが国王様ぁ。侍女の私が言うのもなんですが、さすがにミツバ姫様は『ない』ですよぉ? 売った本人が言うんだから間違いないですぅ」
侍女姉さんがクネクネしながら進言する。
「売った本人って言っちゃったよ! 清々しいな、あんた!」
「あ〜、琴ちゃんの方なら納得ね」
思い当たるフシがあるのか、大人しくなった静香がだらしなく全体重を俺に預け、ウンウンと深く頷いている。
「……もしかして、ヨツバさんの状態を狙ったとか?」
ミツバ姐さんには悪いが、俺もピンときてしまった。
ギャルと清楚のコンパチで、どちらか一方固定なら大半の人は清楚バージョンを選ぶだろう。
「正解でぇす。ま、ミツバ姫様は色物枠ですからねぇ。バカみたいなプレミアがつくか、見向きもされないか極端な二択になります。で、こちらが回収したミツバ姫様の本体ですよぉ」
メイドエプロンから取り出したのは、ミツバ姐さんがアゲハ盛りを纏めるのに使用していた改造黒帯だった。確かにヨツバさんと切り替わるスイッチの役目だし、姐さんのアイデンテティではあるけれど……
「これはモリサギ様にお預けしますねぇ。姫を無事救出したら結ってあげてください」
自分と同じ姿なのに質量は控えめな静香を投げ捨て、改造黒帯を受け取る。
「さ、国王様ぁ。今回は引き分けということで帰りますよ」
「しょうがないのぅ……」
納得いかない顔のクラブ国王。自慢の髭をいじり、子供みたいに拗ねていたが、侍女姉さんにせっつかれる。手を引かれて退室する国王の後ろ姿は、二回りくらい小さく見えた。
「ぃいやっふぅううううぅ〜〜〜っ!! 自由の身ぃっ! 紅音、メリル、あとは頼んだわよ!!」
侍女姉さんに介護される感じでヨタヨタ出ていったクラブ国王とは対照的なマミさん。重圧を全解放したようなはじけっぷりだ。
「不安だわね。誰がこのネジが抜けた年魔女コントロールすんのよ?」
確かにピョン子の言う通り不安しかない。『トシマジョ』ってお前……
「ワタシがマミちゃんに付き添ってもいいんだけど、試合前に引導渡しちゃう確率の方が高いと思うの」
鳩野さんの治療をしながら、申し訳なさそうに怖い発言をするメリルさん。
「ダイジョーブ、ダイジョーブ! これでも一国の女王なのよ? 淑女のタシナミ? だって完璧ですわ、ホホホホ」
酒が入っている訳でもないのに、このテンション。
「はぁ……もうマミさんのモラルにかけるしかないな」
この調子じゃ、これから行くスペード国にもついてきそうな勢いだ。
「杜鷺君、出発前までになんとか母のペースを掴んでください。何度も殺意が沸くと思いますが、その時は心に従って」
鳩野さんから参考にしていいのか判断に迷うアドバイスをもらい、俺達は生きた爆弾を携えスペード国へと向かった。
次回更新は、6月19日の予定です。




