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「おかえりなさいませ、姫様」
いつも通り、老紳士の執事さんがお出迎え。
「戦況はどうなっていますか?」
「はい。魔法禁止のルールですので、相変わらずの膠着状態でございます」
前にマミさんとメリルさんがキャットファイトを繰り広げていた地下広間へ通される。やはり前と同じように、今度はクラブ国王と力比べの態勢になっていた。
マミさん凄ぇな。ホントに魔法無しでクラブ国王と互角だよ……
「おかえり紅音ちゃん。いらっしゃい、楓麻クン……と静香ちゃん?」
「お前、なに髪ほどいてんだよ? メリルさん困ってんじゃねーか。つまらないいたずらすんな」
「あら、そちらのお嬢ちゃんは?」
包容感たっぷりに、俺の後ろに隠れていたプロディちゃんを見るメリルさん。
「あー……色々ありまして、この子がメリフェスです。メリルさんの知っているメリフェスとは違うかもしれませんが」
とりあえずマミさんは放置で、メリルさんに今回の件を掻い摘んで説明した。
「……そうでしたか、ご苦労様です」
申し訳なさそうに俺達を労うと、プロディちゃんを膝に抱え、大魔王とは思えない慈愛の眼差しで頭を撫でるメリルさん。
その後ろでは、空気を読まない国の代表二人がノーガードからのクロス合戦を始めていた。
「このままダブルKOなら両者面目保てて丸く収まりそうだな」
「無理無理。二人ともタフだから、まだ時間かかるかもねぇ」
二人の実力を知っているメリルさんが、プロディちゃんの頭に細い顎を乗せ、あきれ顔で溜め息をつく。母娘と言うより、お人形さんのような姉妹がじゃれているようで微笑ましかった。
「私、止めてきましょうか?」
広間中央の『手描きの力強い線』で表現されているような二人を指さす静香。
「そうね。一旦、殺して構いませんよ」
優しい口調でメリルさんの口から爆弾発言が。
「はーい」
「ちょっ、静香! 待て待て!」
「あ、大丈夫よ楓麻クン。召喚勇者のチート能力にはリミッターがあるから、国の代表が受けた場合は数時間の仮死状態になるだけなの」
「そうなの?」
恐る恐る隣の鳩野さんに聞いてみた。
「そうですよ。私は解除しても全然かまわないのですが」
オロオロしているうちに両者の間合いに入る静香。どうなっても知らないぞ……
「はいはい、様式美知らずの私が通りますよー。以降の『発言』には細心の注意を払ってくださいねー」
棒読みのまま、聞く耳を持たない二人の間に割り込むと。
「はーい『セオリー・ブレイカー (お約束全否定)』発動しましたよー」
アイツの能力、セオリー・ブレイカーって言うのか。ナスノ戦の時はあっという間に勝負がついてしまったが……
「なによ? え? フウマちゃん? フウマちゃんが二人に見える! ドランカー的なやつ!?」
いや、ソイツ静香です。
「邪魔をするな小娘! 『ワシは女だとて容赦せん』、目の前に良い例があるのでな! 『邪魔するならば、まずはお前からだ!!』————きゅう……」
さっそく能力発動で失神するクラブ国王。
「ちょっと、なにしてくれるのよフウマちゃん!」
いや、俺じゃないっす。目の焦点合ってないけど、大丈夫か?
「もうっ、私が倒すはずだったのに! まぁ邪魔するならフウマちゃんでもいいわ、なんか『前に会った時より男らしさが増してるわね。』次は私が————きゅう……」
続いて倒れ込むマミさん。今の発言にお約束なんてあったか?
「ボケに相当する内容もカウントされるようですね」
「えぇぇ……」
ものの数分で二強を沈ませる能力、まさにチート。
二人が目覚めた時には冷静な話し合いができるものと信じたい。




