ハートの5
「そうですか、またピョン子さんに邪魔されたザマスか」
夕食の席、返却したザマス眼鏡越しにピョン子を睨む鳩野さん。ザマスて……
神殿の帰り道、城下の人達にせがまれてピョン子劇場を二回公演し、城への到着は夜遅くになった。そんな俺達の帰りを鳩野さんは食事もせずに待ってくれていたようだ。
「アタシのせいじゃないわよ? 目が覚めたらそうなってたんだから」
「鳩野さんの方はどうだったの? うまく誤魔化せた?」
ケンカになりそうだったので、話題を変えてみる。
「え、あ、あぁ、だ、大丈夫ですよ? モンダイアリマセンガ」
なんか不安だ。でも俺の着替えとか一式受け取ってきたようだし、思い過ごしか。
「そ、それより、杜鷺君の魔法を見せてください」
「役に立たないけど……見る?」
うなずき、いつもの眼鏡に掛け直す鳩野さん。
「ピョン子、《脱兎》って言ってくれ。俺も見たい」
「しょーがないわね」
まんざらでもなさそうだ。
「脱兎!」
右手が輝き、留奈モードピョン子登場。
「フゥ。どうよ」
「ピョン子とわかっていてもやっぱ、可愛いなチクショウ」
少し頬を赤くして、ふふんと一回転する。
「杜鷺君の願望じゃないですよね?」
心外ですよ? 俺は《漆黒の暗黒龍》がよかったんですから。
「アタシが食べさせてやろうか?」
ヤベェ、留奈ちゃんにあーんしてもらうとか……若干期待したものの、スプーンはともかく、箸の扱いは難易度が高いらしく。結局は右手に戻り、逆に俺が食べさせてやるはめになった。
「繰上転職は無駄足に終わりましたね……」
「今はプロミディアさんの魔法カードだけが唯一の生命線だよ」
二人して重い溜息をつく。夕食後、プライベートまわりをピョン子と話し合い、取り急ぎ入浴は一人ずつ入る事になった。
ピョン子が《脱兎》し、外をふらついている間に俺が入る。抜け殻ピョン子は思いのほか高級スポンジとして、高いポテンシャルを秘めていた。交代で留奈ピョンが入っている間、脱ぎ散らかした服を畳んで脱衣所に置いてやる。留奈モードの服は縞ウサギをモチーフにデザインされているようだ。ちなみに、《脱兎》するたびにリセットされるので洗濯いらずの一品。
就寝時も《脱兎》したまま別々なので、寝相の悪さに悩まされる事もなくなるだろうと思っていたが、翌朝ピョン子は右手に戻っていた。聞けばベッドの幅が狭く、何度も転げ落ちたそうだ。人間態になったところで寝相は変わらないんだな。ダメージは本体にもコミカルに反映されるようで、昭和のマンガで見るコブがいくつかできていた。
「おはよう鳩野さん」
「あ、おはようございます。杜鷺君」
日本では土曜日。今日は四大国の定例会議があるそうだ。
魔王軍の脅威がない時期は、スタバや高級料亭などで話し合うようだが、戦時下のため、現在はエルマナで行っている。毎月持ち回りで、今回の開催国はクラブ国。国の特徴としては、徒手空拳に特化した者が多く所属し、魔法は補助的な意味合いでしか使用しないらしい。クラブ国の大まかなエリアは、鳩野地図でいうと「田」の字の右下部分にあたる。
これまで各国はそれほど険悪な関係ではなく、魔王軍に対しては四大国でパーティーを組んで戦う事もあったという。しかし、内乱で大きく戦力を欠いたハート国は事実上、他国から見放され気味のようだ。現状は、魔王軍の進軍先を戦力低下したハート国に集中させ、三国は自国の戦力を充実させている。
「……そんな実情ですから、《Hart》の国ではなく《hate》の国と陰で呼ばれています」
三国によるヘイト管理か。
「ひどい話だ」
「なんとか協力してもらえるよう、交渉してきますよ」
正装でライトバーンの後部座席に乗り込む鳩野さん。
「俺も同行した方が良くない?」
「いいえ、杜鷺君はハート国の切り札です。しばらくは伏せておきましょう」
明日の夜には戻ると言い残し、鳩野さんは護衛のガンパンマンを連れてクラブ国へ向った。
幸いハート国の結界は強力で、俺が召喚された事を知るのは寝返った大臣のいる魔王軍と首狩屋だけだ。だが、三国に知れ渡るのも時間の問題だろう。
「アンタの暗殺期限は今日だから、アタシが戻らなければ代わりのヤツが送られてくるわよ」
「え? お前、早く言えよ!」
相談しようにも鳩野さんは今し方出立したばかりだ。どーすりゃいいんだ?
「アタシの方も魔王軍に嵌められたなんて証拠がなきゃ、仲間に言い訳は通らないわね」
情けなくもオロオロしているうちに日が暮れる。そろそろ暗殺の成否を報告しに行く時刻だ。とりあえず城下に迷惑がかからぬよう、俺もここでの正装にきめた白い燕尾服に着替え、旅支度をし、ピョン子が言う報告の場所へ向かうことにした。結局考えはまとまらず、ハッタリと出たとこ勝負に身を任せる方向で。地図でいえば「田」の字の右上外側エリア。ハート国近辺にある森。ピョン子には《脱兎》した留奈モードで近くに隠れてもらった。
朧げに差し込む月明かりを頼りにしばらく進むと、青白く澄んだ月が照らす草原へ抜ける。周囲を森に囲まれながら、ポツンとできた自然の広場で、待ち合わせ場所を示す大岩を背に相手を待つ。
『首狩屋の使いか?』
夜空に響く凜とした女性の声。見上げる星空の一部が歪み、月光を背に声の主らしきシルエットが浮かぶ。優雅に舞い降りてきたのは。
純白の鎧……というか、八十年代特集で観たビキニアーマー。そのビキニアーマーを纏う……纏ってんのか? と思う程けしからんボディの美少女騎士。エロ目線じゃない方の恥ずかしさ? それは、よくいえば王道というか。なにもかもテンプレというか、時代に合わないというか。悪堕ちしたんですか? と聞きたくなる華麗な容姿もあいまって。
……俺がいたたまれねぇ。
「縞ウサギはどうした?」
演出の古臭さは別として、派手な登場はまるで高度な立体映像を観ているようだった。
さぁ、ここからが勝負。
「そっちは魔王軍の者か?」
「我が名はルビーナ。旧魔王軍最強の将軍だ」
金髪のストレートロングを夜風に靡かせ、威風堂々の中に女性のしなやかさが漂う。旧魔王軍? 俺が鳩野さんから誕生阻止を依頼されたヤツとは別の勢力か?
「これを見ろ。首狩屋とやらは返り討ちさ」
白目を剥いた抜け殻ピョン子を突き出す。
「なっ! まさか首狩ミリィが仕損じだと……!」
あー、本当にピョン子って一定の評価があるんだな。あいつ、ミリィって名前だったのか。
「俺はハート国に召喚され、さらに女神プロミディア直々に加護を受けた勇者だ。名前は」
カードホルダーに刻まれたプロミ菫が目に入った。
「スミレ、菫十五郎。もうじき十六郎だがな」
嘘です。十五になったばかりです。
「ケガしたくなければ帰るん……」
「お姉ちゃん!」
「危ねぇ! なんだ!?」
突然、喉元めがけて黄色い光が駆け抜け、俺は斬首を疑似体験する。俺の身代わりに首を刈られたのは、防御対策として発動させておいた魔法カードの《影ボット》。ボロボロ崩れて行く影武者と入れ替わりに本物の俺登場。早々に唯一の防御手段が消えてしまった。
「くっ! お姉ちゃんのカタキ!」
再度突っ込んでくる黄色い光の正体は影ボットの記録映像で確認済み。ピョン子と同じ、当たれば即死率九割固定の縞ウサギだ。ただし、エメラルドグリーンではなく黄色いラインの。右手のピョン子を見て「お姉ちゃん」と呼んでいたから、妹なのだろう。
避けきれないと覚悟を決めた刹那、割って入る人影。
「ピョン子?」
俺の首筋数ミリに迫る黄色の縞ウサギ。その耳を捻り上げたのは人間態のピョン子だった。
「イタイ! イタイ! 放しなさい、誰よあんた!」
「えーと……勇者の……嫁?」
俺の脳内設定に忠実だなオイ。まぁ戦況に合わせて芝居しているんだろうが。
「召喚された勇者は冴えない男一人と聞いたぞ!」
ルビーナさん、なにげに酷いね。
「二対……」
ゲシ!
「いちになった……」
ゲシゲシ!
「が、どうす——」
ゲシゲシゲシ!
「痛てーよ! ゲシゲシゲシゲシ! 俺の方に向けんな!」
バタつかせる後ろ足をガッと掴んでV字に開き、股越しに覗くピョン子へ文句を言う。
「ナニすんのよ! ヘンタイ!」
「アンタ、最低ね」
肩に受けた鈍痛は、後ろ足であることを考慮しても、ピョン子のソレと比べて荒削りな施術だった。相手が殺意を持ったウサギだったので、容赦なく「恥ずかし固め」を極めてやる。
「なんで死なないのっ!」
「勇者だからさ……」
バーのカウンターに座る少佐気取りで言ってみた。
「とにかく、ピョン子イエローはいい子にしてなさい」
「ピョン子ぉ? ワタシのことか!?」
姉妹で同じ反応。
「邪魔しなければお姉ちゃんを解放してやるから」
「ほんとう?」
しおらしく耳を折るピョン子妹。チョれぇ。そしてカワイイ。
「気絶してるだけだから安心しろ」
「うん……」
これで目の前の女将軍に集中できる。勝てるかどうかは別として。
気を引き締めて振り返れば、ピョン子妹を説得している間に何があったのか。
ルビーナの後ろにズラリと並ぶ異形の者達。クアドラのおまけフィギュアをそのまま等身大にした一団だ。コレクターとして、この壮観な眺めは感動もの。
スケルトン、ゴーレム、メタルスラッグ、荒ぶる仔猫……二十体以上が控える中、唯一知らないのがルビーナ将軍。彼女も第六弾でフィギュア化希望アンケートに書こう。
「アーシャよぉ、ルビーナ様を裏切るのかぁ?」
「ルビーナ様ぁ、あの生意気なウサギ喰ってもいいスかぁー?」
「ボ、ボカァ、ゆ勇者の嫁を、ね寝取りたいんだナ。ハァハァ」
オーク達が騒ぎはじめる。最後のヤツ、悪趣味だな。
「ワタシ、裏切った覚えはないわ! 首狩料まだ貰ってないし!」
たしかに影武者だったとはいえ、勇者を殺っている。
「好きにしろ。暗殺の成否を問わず首狩屋姉妹も始末する予定だったからな」
ルビーナのお許しを得て、エルマナの地にテアトルエコーもびっくりの擬音声があがる。
ピョン子の読みが当たって、一触即発の緊張が走る。
「ピョン子達は隠れてろ」
「アタシいなくて大丈夫なの?」
大丈夫じゃないが、こんなステレオタイプの女幹部に負けたくない。
「やれるとこまでかな。お前の判断でヤバイと思ったら『頼む』。あと——」
そこまで聞くと、無言で森の方へ行ってしまった。人間態の姉に抱えられたピョン子妹の罵声が木々に埋もれ、一瞬の静寂に包まれる。
俺は軽くかぶりを振って、なけなしのカード一枚を発動させる。
「まずは雑魚二十体な」
何度かカード運用の練習はしているが、実戦は初めてだ。頼みますよプロミディアさん……
『はーい。まかせてー』
DQN法のサポート体制は高く、発動中は神殿のプロミディアさんとリンクすることになる。
攻撃カード《怒りの矢》。視線がそのまま照準となり、厄介そうな相手からマーカーを撃ち込む。直径一ミリのマーカーは固定すると、大きめの魔法陣が展開され、その中心とカードが光りの線で結ばれる。派手なレーザーポインタってところだ。
先手必勝。
「怒りの矢!!」
『オッケー』
突きだしたカードから無数の矢が出現し、対象の敵を殲滅する。
「それがお前のチート能力というやつか」
一瞬にして半数に減り、残った取り巻きの戦意を削り取った。
「チートなら苦労しなくて済むんだろうけどねぇ」
本心からの溜息を大げさにつき、煌々と光る残った治癒カードをブラフに取り出す。
「このカードを使わせたら……死ぬぜ?(俺が)」
なんとか《怒りの矢》の魔力チャージ時間を稼がねば。
『たぶん無理ねー。全力だったから十分以上かかるかも』
無理かー。おかげで相手は慎重になってくれたけど……
待機中の治癒カードを通して、プロミディアさんと心で会話する。
「私に魔法は効かない」
うわ、やな所でベタなセリフ来ちゃったよ。
『マジで? うりゃっ』
カードホルダーでチャージ中の《怒りの矢》が弱々しく輝き、勝手に発動した。
「何してんのプロミディアさん!」
ヘロヘロとルビーナのビキニに命中。が。
『反射?』
そのまま俺の方にヘロヘロと帰ってくる。
「ガラ空きだ」
矢に気を取られて懐に飛び込んで来たルビーナへの対応が遅れる。
「くっ!」
『ごめん、フウマちゃん!』
夜風に舞うサラサラのブロンドが煌めき、わずかに甘い柑橘系の香りが流れる中でルビーナが抜刀。その瞬間恐怖で目を閉じ、その場に屈む選択をしてしまった自分が情けない。
走馬燈タイムだろうか? 斬られるまでの刻がとても長い。
それもそのはずで。
恐る恐る顔を上げた先では、俺が受けるはずの刃を右手が銜えている。
「ピョン子!?」
姿は違えど、ピョン子妹の時と同じ絶妙なタイミングだ。
愛玩動物なのに。
癒し術しか取り柄がないのに。
なにより上半身しかないのに。はじめてコイツを頼もしいと思った。
「アンタ、勇者失格ね」
「召喚魔法か!?」
意表を突かれたルビーナがバックステップで距離をとる。ピョン子は忌々しげにルビーナを睨み、血液混じりの唾棄。口元を拭う純白の前足が赤く滲む。
「次からは前払いにしなさいよ」
「ニンジンステーキ弁当二つでいいか?」
「三つ。アーシャの分も」
三つ……イヤしんぼめ。オタク脳が働くくらいには心にゆとりができた。
「フウマ、防御をたのむ」
おそらく元気づけるために俺の記憶からネタを探りだしたのだろう。
「……逆だよ」
まぁ、今の俺は本当に自分の身を守るしか手はないわけだが。あれ、コイツ俺の名前を?
「くるわよ!」
『影ボット、いけるわよー』
ルビーナが間合いに入ると同時に、後ろ手に隠し持った《影ボット》を発動。棒立ちのそれは計算通り瞬殺される。
「凌いだぞ」
「上等よ」
一瞬の隙をつき、さっきピョン子妹が見せた首刈り技がルビーナに決まる。だが、当たると同時に俺達は弾き飛ばされた。そのわずかの間にみた光景。
上がる血しぶき。それは攻撃したはずのピョン子の首からだった。
なんで? ルビーナは無傷で立っている。
「言い忘れていたよ。私には物理攻撃も効かないんだ」
最強を名乗るだけあり、俺の白い燕尾服はピョン子の返り血で真っ赤に染まっていた。
「くそっ! 大丈夫かピョン子! プロミディアさん、オール治癒だ!」
手札も尽き、もう後がない。
「脆弱な人間にしては健闘したが所詮、魔族には勝てん。諦めろ」
魔法も打撃も反射なんて、それこそチートもいいとこだ。
「魔王軍の将軍ってあんなのばっかりか?」
『たぶん、あの鎧……ハート国のね』
裸同然の鎧を注視すれば、胸の中央に嵌っている宝石がハート型をしている。大臣に盗まれた鳩野さんの無双装備だったのか。我が物顔で使いやがって……
「覚悟はできたか?」
なんか腹立ってきたな。
「その前にちょっと聞け」
「命乞いなら却下だ」
本当に言うんだな。徹頭徹尾ベタなやつだなぁ……
「そーゆーのいいから。聞き飽きてるから」
「それだけ修羅場をくぐり抜けてきたわけか」
主にマンガやアニメでだけどな。
「お前、魔王軍最強っていうけどさぁ、魔王には頭あがらないんだよね?」
「バカか? 魔王様に逆らうなどありえん」
「質問を変えよう。学校って知っているか?」
「あぁ、魔界にもある」
あるのかよ。まぁ話がはやいが。
「俺の世界でいえば、学校が魔界で不良が魔物、先生が魔王にあたる」
ちょっと強引か
「魔界も似たようなものだ」
「じゃあ、よく考えてみ? 先生の言うこと聞くヤツって良い子ちゃんじゃね? 今のお前そのものじゃね?」
ちょっとどころじゃなかったな、強引を通り超してる。
「おお、真の不良は先生の言うことなど聞かんな!」
「だ、だろ? お前は魔族としてはダメ生徒にあたる。先生にヘイコラしてんだからな」
「……なるほど、私が最も嫌う優等生がまさか自分自身だったとは」
超理論に目から鱗のようだ。もう一押しいけるか?
「だからさ、お前が『完璧な不良』になった時、再戦しないか?」
「うむ、私としてもその方がスッキリするな。よかろう、勝負はあずかる」
通った! バカでよかった! 輪を掛けてバカな取り巻き連中からも得心の声が飛び交う。
「でさぁ。その鎧、卑怯じゃね?」
「卑怯は魔族の誇りだ」
そうきたか。
「お前、最強を名乗ってるんだろ?」
「そうだ。先に言っておくが、鎧に頼らなくても魔力・剣術とも人間には負けん」
じゃあ返せよ、とは言わない。ルビーナから差し出させてやる。
「それっておかしくね? 魔族なんだから強くて当たり前じゃん。なに人間相手に勝ち誇ってんの?」
「そ、それは……」
ベタな思考回路だけにゆとり思考に追いつかないらしい。煙に巻いてやるぜ。
「いいか、想像してみろ? 魔族の力で戦闘に勝つより、お前達が脆弱と侮ってる人間の技で勝った方が断然カッコイイだろ?」
「おぉーっ!! それは凄く格好いいなっ!」
メッチャ瞳輝かしてんなぁ。
「アンタ、勇者じゃなくて詐欺師なんじゃない?」
「ピョン子、治ったか。うるさいよ」
「なぁ、私はどうしたら良いのだ!?」
俺に聞くか。まぁそうし向けているわけだが。
「まず不良道を究める近道として、俺達の土俵に立つとこからかな。その鎧を持ち主に返すってのもかなりの不良行為だと思うんだけど」
「なるほど。だが、替えの服がないのだ」
素で恥じらう姿にドキリとした。
「ちょっと待ってろ」
城へは戻れないと思い所持品は全て持ってきていた。カバンから秘蔵の一着を取り出す。
「アンタ、懲りずにまた買ってたの?」
『わたしとお揃いだぁー』
プロミディアさん、まだリンクしてたんですか……
「これを着とけ」
ハート型の宝玉に凝縮した鎧と交換で、またしても鳩野さん用メイド服が他人に渡った。
女将軍のかけらも無くなったルビーナが、スカート丈を気にしながらモジモジしている。ビキニアーマーの方がいろんな意味で恥ずかしいだろ。
「まずは形からだな。そのカッコのまま俺達の世界で修行してみろ」
「ほう、敵に塩を送るというのか。よかろう、すぐに不良を極め、再戦してやる」
このバカ際限なしか! もうアキバあたりのメイド喫茶で荒波に揉まれてくるがいいよ。