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気まずい数分の沈黙を経て。
「別の意味でヤバいな、病みの帝王」
ホントに病んでますもん。斜め上すぎますもん。
「欲望にまっすぐな、かなりの上級者と聞き及んでおりますぅ……」
上級者ってレベルじゃねぇ。
「ミケーニャ帝国って初めて聞いたんだけど、どこら辺にあるの?」
「海に浮かぶ猫だらけの孤島です。ケットシーをはじめ、猫系のモンスターが多く生息することからマーシー島と呼ばれています」
セミロングをはずませ、可愛く「ニャー」とする侍女さん。たぶん漢字表記の島なんだろうけど、マーシーが何かは聞かないよ。
「その猫の島を支配している『病みの帝王』は、やはり魔物でしょうか?」
気を持ち直した鳩野さんが問う。
「はい二つ尻尾の『キャット・トゥー』です。何百年ぶりに誕生した三毛タイプのオスでしたので、ワガママ放題に育ったようですねぇ」
エルマナでも三毛猫のオスは貴重なのかな。
「先代は凄い方で、あの三蔵法師さま御一行と旅をしていたと聞き及んでおりますぅ……」
いやいや俺の知ってる西遊記は、猿・豚・河童・馬(龍)のパーティーですよ?
「イィーーッキシッ!!」
突然ピョン子が変なクシャミをする。そうかそうか、ミケーニャ帝国といってもエルマナだもんな……
ヒント:キャット・トゥー=Cat Two
「その西遊記、正史じゃねーよな!? 酒瓶持ってるイメージしかねーよ!」
侍女さん相手に、普通にツッコんでしまった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
軌道修正して。
「交渉のテーブルが用意できればいいんだろうけど、その材料がないからなぁ」
『お困りのようね』
侍女さんの背後の空間が波打つように歪み、ブロックノイズが人の形に変わる。
「姉さん!?」
「だまって聞いていれば、わたしを守銭奴みたいにぃ。ま、そうなんだけど。こんにちはモリサギ選手。ちょっとオジャマしますよぉ」
侍女さんの隣に並ぶ双子のお姉さん。やや癖っ毛であることを除けば、俺には区別できない。
「なのチビ以外、皆様お揃いのようでぇ」
ホント、その場にいない他国の姫には容赦ないな。
「姉さん! 姫様売り渡してどういうつもり!?」
「まぁ聞け聞け聞け」
てさぐり部の初代部長にも似た口調で妹を制すお姉さん。
「みんなが得するお話しを持ってきたんだからさぁ。それなりにリスクはあるケドねぇん」
ニャハハと笑うお姉さん。基本は侍女さんに合わせているのかもしれないが、明るい振る舞いの中に、侍女さんにはない妖艶さが見え隠れする。
「わたしの計算通りぃ『病みの帝王』が勝負を持ちかけてきましたぁ」
どこから取り出したのか、鳩野さんのザマス眼鏡を拝借したお姉さん。キッチンのホワイトボードを外し、インテリ上司気取りでテーブル辺の短い位置へ移動する。
「まずウチの姫様の件ですが。ハート国勇者が助けに行くことを見越して帝王と取引しています。つまり、モリサギさまが出張るということはぁ当然キミを放っておけない、腹ぐ……ハートの姫様と重りょ……ダイヤの姫様もくっついて来るってことでぇ」
どうにも要領を得ない。
「ま、ザックリ言うとこうです!」
ザックリ好きだなアンタ達。家族の連絡ボードに殴り書きするお姉さん。
『勝て!』
ザックリすぎて一悶着あったけど、こういうことらしい。
●ミツバ姐さんを賭けて『病みの帝王』と勝負。
●俺が勝ったらミツバ姐さん奪還。
●負けた場合は鳩野さんと霊仙寺俺が『病みの帝王』のものに。
「なんで俺が鳩野さんと霊仙寺の所有者みたいになってんの?」
「話を円滑にするため、モリサギさまも同じ蒐集家だと私が吹き込んでおきましたぁ」
なんてことを!
次回更新は6月5日の予定です。




