4-2
「でも、なんでお姉さんがそんなことを?」
自国の姫を売り渡すなんて普通じゃない。それ以前に人身売買の横行自体がおかしいだろう。
「姉は極端にお金が大好きなんです。単純に侍女の給金では物足りなかったのでしょう。あ、大金が絡まなければ非常に優秀なんですよ? 一応は」
まぁ、お金はみんな大好きだと思いますが、主を裏切るくらい度を超してって……
「ミツバ姐さんの侍女って、ずっと侍女さん一人だけだと思ってました」
「私も杜鷺さまと同じ双子の姉妹なのです。杜鷺さまも何度か会っていますよ? 基本、月・水・金が姉のシフトですから」
俺と静香を交互に見る侍女さん。
まさかの双子オチ! 悪意は無いと思いますが、俺の方は姉妹でなく姉弟です。
俺に対しての呼び方に統一感が無かったのも、野良勇者の山頂で一服してたのもそういう事か。
「全然気づきませんでした……」
「隠していたわけじゃないんですけどね。お互い勤務に関しては根っこワークである程度の行動は分かりますし、姉のシフト時はだいたい私も出勤していますから」
じゃあ昨日は野良勇者を倒したのがお姉さんで、霊仙寺を救出に行ってたのが侍女さんだな。どうりで手際が良いわけだ。
「そう言えば前にジャックから聞いたことあるわ。なんか『金にうるさいケットシーがいる』って」
霊仙寺が思い出したように言う。
侍女さん、ケットシーだったのか。言われれば、猫っぽいちゃあ猫っぽい。
「静香さん同様あなたの姉に問題があるのは置いといて、厄介というのは?」
「出荷先は私達の故郷『ミケーニャ帝国』の『病みの帝王』でぇ……」
これまたギリギリな感じのきたな。
「最近誕生した帝王が良くも悪くも杜鷺さまの国、それもオタク文化に傾倒していまして」
とたんにスケール感ショボくなった気がするよ?
「まぁ、フィギュアは一定の人気があるけど……」
「それがぁ……私が調査したところぉ……非常に表現しにくいといいますかぁ、何年か前に流行ったニッチなジャンルでぇ」
なんかモジモジしてるうえに歯切れが悪い。
「ホラ、アンタ得意でしょ? こーゆーの。 察してやりなさいよ」
腹を膨らましたピョン子が右手に戻る。
「そう言われてもなぁ」
実は立体もの関して、あまり知識がなかったりする。
「あっ! …………」
「どうした? 知ってるのか? 雷……霊仙寺」
霊仙寺が声を発したものの、顔を赤くして俯いてしまった。コイツもオタク文化に明るいハズだ。何か気づいたのだろう。俺もベタなことを言いそうになって少し赤くなったのはナイショだ。
「…………ュア●●」
消え入りそうな声でボソリと言う。
「ザックリ言いますと、姫さまが『産卵時の鮭的な対象』にされてしまいます」
ザックリしすぎ! でも今回はなんとなくわかった!
「霊仙寺、お前どんだけディープな世界覗いてんだよ!?」
思わず全力で突っ込んでしまった。
「…………たまたまなのよ…………たまたま…………うぅ」
両手で真っ赤な顔を覆い、半泣きの霊仙寺。たまたまで出てくる検索ワードじゃねぇよ! さすがに追求はしないでやるけど。
「ま、まぁ、とにかく姫さまがドロドロにされる前に助け出しましょう!」
俺と霊仙寺の間でオロオロする侍女さん。
弱々しくツインを揺らす霊仙寺。
その隣に座る鳩野さんに目を移せば、やや頬を赤らめて視線を横へそらす。
静香とピョン子の頭には『?』マークが浮かんでいるようだ。
どうすんだコレ。




