3-11
「アカネさんに『ちーとのうりょく』? もらったから大丈夫」
俺が欲しいものをあっさりと……
「それにお兄ちゃんが異世界へ行くと、必ず新しい女のひと連れて来ちゃうでしょ? それもキレイでステキなひとばかり」
成り行き上そうなったが。召喚勇者、とくに男子高校生ともなれば、俺に限らず曲げられない固定ルートだと思うぞ?
「ルビーナさんに相談したら、アカネさんに連絡してくれて」
「ルビーナも噛んでんのか」
忘れがちだけど、ルビーナ率いる旧魔王軍残党は、ハート国が吸収して戦力に組み込まれてるんだよなぁ。
「うん。ラビ庵のみんなも協力してくれたの。表稼業と新居を提供してくれたお礼だって」
都の足もとで可愛く整列する首狩屋メンバー。上から眺めると細長いカラーチップを並べて作ったカラーチャートみたいだな。
ナスノ課長率いる魔王軍に襲撃され、住み処の『縞村』を焼き払われてその所在を明らかにされた、見た目がカワイイ暗殺集団。
ナスノ事件後は俺の家で居候中。庭に建てたプレハブで、縞ウサギの整体マッサージ技術を活かした『ラビ庵』で働いている。
「焼け出された首狩屋一同、オーナーから受けた恩はきっちり返す所存でございます」
隊列からグレーラインの縞ウサギが一歩前へ出た。首狩屋の元締め、長老ウサギだ。
「いつも癒してもらってるから充分だよ。ふくらはぎへの絶妙な加重は長老が一番だね」
「ありがとうございます。本日は店長の加勢と思っておりましたが、敵は『縞村』を襲撃した一人のようですな」
そう言えば、みんなニンジンに操られてミツバ姐さんと戦わされたんだっけ……
ちなみに俺が『ラビ庵』のオーナーで、都が店長。設立や経営資金は鳩野製菓なんだけどね。
「うん。贖罪の四天王・人参忍十面相だ。ころころ名前変えてるけど」
「我らの恨み、晴らしますぞ! とろーりぃーっ!!」
『『『おぉーっ!!』』』
縞ウサギの世界でも日本文化が……プロミディアさんの入れ知恵かな。意味はともかく、かけ声としては気持ちがいい。
「ミヤもがんばるよぉ。ダメお兄ちゃんが使い込んだ結婚資金はミヤがカラダで稼ぐよぉ!」
それ変な意味に取れちゃうから。え、お前、勇者バイト感覚?
エルマナの倫理観はよく知らないが、戦いが終わったら鳩野さんを交えて家族会議するぞ。
「フフフ、たかが縞ウサギが何十羽増えようが、決定打の即死が効かぬゾンビ軍の敵ではない」
ライトバーンが轢殺したモンスターが再生を始め、またもゾンビの壁を築く。
ピョン子のように脱兎できれば、まだ抵抗も可能だろうが、平均サイズがティッシュの箱よりひとまわり大きい程度の縞ウサギ。頼りの『即死九割』が封じられ、戦況は依然膠着状態だ。
「かたきを前に何もできぬとは……ラヴリィな老体が情けないっ」
蠢くゾンビ軍をカワイく威嚇する縞ウサギたち。
「ゾンビじゃなけりゃ楽勝なんだがなぁ……」
戦闘準備の整ったメリフェス軍を見て呟く。
「そうなの? お兄ちゃん」
「うーん、後天的なゾンビは苦手みたいだぞ。すでに死んでいるから」
「フフッ、縞ウサギ使いのお嬢ちゃん。君が勝利するためには、これらゾンビ軍団を生き返らせるしかないのだよ」
ゾンビの壁の向こう側で、メリフェスに植わり余裕のニンジン。
首を傾げて「ふーん」と聞いていた都は、
「プロンプト・ジェネレーション!!」
突然、声を上げる。
「どうした都? いきなり叫————」
理由はすぐ理解した。都の目先50cmほどの空間に表示されていく文字。
それは。
都:¥>
お前、ホントに平成生まれか!?
都:¥>ゾンビ軍団を生き返らせるしかない
懐かしい表現でビックリしたよ。とりあえず、我が妹は『指示待ち世代』って解釈でOKなんだよな?
「あれが彼女の能力です。静香さんと同系統になりますね」
姉の能力は敵が「あるあるネタ」的ベタセリフを言った時点で即死する様式美ガン無視のヤツだ。
「妹さんの場合、どんな不可能な事象でも『相手が言った打開策』なら実現できるのです。
指示待ち世代さまさまな能力じゃねーか!
「なんだ、このプレッシャーはっ!!」
結果、敵の発した『勝利するためには、ゾンビ軍団を生き返らせるしかない』は、発動した都のチート能力、プロンプト・ジェネレーションによって現実の事となる。
光に包まれたゾンビ軍団はゾンビと言う肩書きが消え、もとのモンスターとして生き返った。
効率は悪いが、これで縞ウサギの無双タイムだ。決着をつけるぞ!
次回更新は5月22日の予定です。




