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3-10

「よいしょ。あ! お兄ちゃーん」

「都!? どうしてここに?」


 妹の都だった。戦場にそぐわない、薄ピンクの少しお高いよそ行きワンピース姿で土煙を上げて駆け寄ってくる。————って、土煙!?

 霊仙寺とは比べものにならない軽さで俺に飛び込み、がっしり抱きついた都は遠心力で一回転すると、満面の笑みで俺を見上げた。

 目線をちょっとずらした先、妹の足もとに居並ぶ小動物達を見て土煙の正体が判明。


「お姉ちゃーん!」


 その足もとから、都がしたように俺の右手・ピョン子で一回転するブルーラインの縞ウサギ。


「アーシャ! アンタもなんでここに……」


 脱兎し、アーシャを抱えるピョン子。


「「お手伝いしに来たの」」


 二人?の妹が示し合わせたわけでもないのに、綺麗にシンクロする。


「まかせて、お兄ちゃん! ミヤ達『らびあんろーず』は強いんだから!」


 おとなしい、しっかり者の妹が変なテンションだ。おそらく異世界デビューにはしゃいでいるのだろう。


「らびあんろーず? あぁ……」


 首狩屋の表稼業『ラビ庵』+杜鷺都の『鷺都』で『ラビ庵ロヅ』、複数形と語感を考慮した結果の『ラビ庵ローズ』なんだろうなぁ。慣れたわ、エルマナ思考。


「みんなー、お仕事だよー! アカネさん、あの丸いのやっつければいいの?」


 都が号令をかけると、数十体の縞ウサギが三列横隊で妹の足もとに並ぶ。状況が状況なら、ほっこり和む光景だ。


「鳩野さん、どういうこと?」

「理由は多々ありますが、妹さんもハート国勇者という事です。心あたりあると思いますが? ヒントは妹さんが怒っている原因です」

「え? あいつ怒ってんの?」


 そう言えば、こっちに来る前に「俺と距離を置いてる」とか言ってたような……


「聞いたわよ、人間。あんた、妹の貯金箱から根こそぎ借パクしたんですって? サイテー」

「今更だわね」

「兄との結婚を夢見て、幼い妹がコツコツ貯めた結婚貯金を同量のゲームメダルや紙切れで偽装工作までする杜鷺君、さすがです」

「そーだよーぉ、お兄ちゃん。貯金箱開いたらゴミの山なんだもん」


 少し見えてきた。

 借パクした妹のおこずかいをクアドラにつぎ込む→俺が引き当てた分と、都がもともと集めていた分を合わせると、静香同様、都もエルマナ行きのチケットをコンプリートできていた


「そうか、お前も正統勇者だったんだな。俺が邪魔したばっかりに遠回りさせちゃったか……」

「済んだコトは気にしなくていいよ。アカネさんには悪いけど、ミヤもお姉ちゃんと同じで、お兄ちゃんと遊びたくて集めてただけだから。それに、進学祝にスマホをおねだりしてる時点で勇者失格でしょ?」


 気を遣ってくれる妹。


「モンスターとの戦いとか危険がいっぱいなんだぞ? 新たに『JSYOCKR』なんていう、JSのお前にはある意味、もっとも危険な連中だっているんだからな!」


 俺と一緒にマンガやアニメに触れる機会は多いが、都は特別のめり込むタイプでもない。本当の意味で異世界から召喚された、お約束を一切期待しない『普通の女子小学生』だ。


「杜鷺君。非常に言いにくい事ですが、召喚勇者はチート付与が基本ですし、各国の接待サポートもありますので、危険と言っても程良い緊張感ぐらいのレベルだと思われます」


……ですよね。俺がイレギュラーなだけで、ぶっちゃけ俺が好んで読むラノベやエルマナ側のスタンスは『ストレス無く颯爽と世界を救ってもらい、ちやほやされた状態で気持ち良く還らせる』ですもんね。

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