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ライトパーンの助手席から、不機嫌そうな鳩野さんが降りて来た。
「あ、ありがとう鳩野さん。助かったよ」
ツカツカと一直線に俺の正面まで詰め寄ると、
「私、『”無理せず”ここで情報を集めてください』って言いましたよね?」
通常眼鏡とザマス眼鏡の中間の心情なのだろうか、メガネフレームをグーで押し上げながら怒られてしまった。
背後に広がる死屍累々の光景など歯牙にも掛けず、可愛く片頬を膨らましながらも、魔法で俺の傷を治療してくれる鳩野さん。
「そのつもりだったけど、初っぱなでつまずいちゃって……」
「橙愛さんはどうしたんですか?」
お察しください。
「……まぁ、想像通りなんでしょうねぇ。あの美貌と体つきですから、ナニがあっても自業自得ですか……」
小さく頭を振って、「フゥ」と納得したようなため息をつく。鳩野さんの脳内で、霊仙寺はどんな目に遭っているのだろうか。
「メリフェスと決着をつけて、ミツバ姐さん共々できるだけ早く助けるつもりだよ」
打撃の透りにくい野良勇者相手に、ペースダウンもせず華麗に舞い続ける侍女さんを遠くに見つつ意思表示。
「アレがメリフェスですか?」
振り返り、地上数メートルに浮かぶ球体を仰ぎ見る鳩野さん。
「正確には悪いメリフェスかな。ナスノ事件の時、俺が討ち漏らしたニンジンと融合してるんだ」
「アタシの目の前で、コイツを筆頭にバカげた感性のむさ苦しい連中がこぞって妄想タレ流したら、ある意味まっとうな部分が敵意むき出しで独立したのよ」
あの光景がフラッシュバックしたのか、後ろへまわったピョン子が俺のふくらはぎへローキックを連打しながら言う。
「プロディちゃんは無事救出できたんだからいいじゃないか」
「アンタ、その結果ギリッギリまで妄想詰め込んだトンデモ幼女爆誕させちゃったじゃない!」
俺の襟首を掴んで引き寄せたピョン子がプロディちゃんを指さして喚く。
その先へ顔を向ければ、プロディちゃんが隊長に護衛され、あどけなく指を咥えこちらを見つめていた。棒立ちで佇む姿は、中身がメリフェスだけに『強すぎる力を持つ者ゆえの無関心さ』に見えて少し怖かった。
「私は杜鷺君の妄想大半を受け入れた寛容さにビックリですよ」
俺だけの妄想ではありませんけど……永遠の思春期・野良勇者達の想いも入ってます。そしてすいません、妄想じゃなく正確には『理想』です。大事ですよ? 微妙なニュアンス。
まぁ、結局は思春期男子の『総意』と『相違』があっての現状なんですが。
「仕方ないですね。杜鷺君はあとでじっくり責めるとして、ナスノ課長の亡霊と決着をつけましょう」
気持ちを切り替えた鳩野さんは、ライトバーンの後部ドアをスライドさせると、肩まで車中へ入れて後部座席に向かい声をかけた。
「みなさん、宜しくお願いしますね。うちの勇者が無茶したおかげで、初戦がいきなり最終決戦という大舞台ですが」
ついに登場か、鳩野さんの秘蔵部隊。
「あれ? よく見たら……」
開かれたライトバーンの車中は、あの白い小部屋になっている。
「おおかた、アンタが頼りないから別の勇者召喚したんじゃないの?」
初召喚のみチート能力を与えてもらえる白い小部屋。そこから現れた新たな勝ち組勇者の正体は。




