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ピョン子のあとを追って敵中に身を投じた俺は、時折アフロになるものの、ドリフシステムに護られながら数メートル先に躍動するウサ耳リボンを確認。
「意外に健闘してるなぁ」
脱兎した状態の戦闘力はいかほどのものか? たしか、脱兎の解説書だか魔法書だかに「戦闘力は女子高生並」とか死に設定があった気がする。
強ぇな女子高生……理性を欠いたモンスターとは言え、ドロップキックで一撃だ。人の大きさでウサギの脚力は、バッタと比較してどれくらいなのだろう。ウサギの能力を継承しているかは知らないけど。
ちなみに、俺の方へ攻撃してくる学習しないモンスター群は、ドリフシステムに反射された己の攻撃で勝手に自滅し続けてくれた。
快進撃のピョン子のもとに辿り着き、背中合わせで敵に備える。
「はぁはぁ。ちょっと、なんか興奮してきたわ!」
遠慮無く跳び蹴り出来る状況にエキサイトしているようだ。
「お前、とばし過ぎだよ。でも、俺も思いっきりドロップキックしてみたいな」
振り向いたピョン子は母親のような口調で、
「もぉ……1回だけだよ? 低空だよ?」
俺の記憶から、わかりずらいネタを拾ってくれたようだ。
膝、変なんなるぞ。低空。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
ピョン子が蹴りまくったおかげで、召喚されたモンスターの大半を行動不能にできた。
「残るは大型モンスターだけだな」
数は50体ほど。観光バスから三階建ての一軒家まで、骨が折れそうなサイズばかりだ。
「でも鈍重だし、コッソリ後ろへ回り込んで蹴飛ばしてやるわ! 気狂い蹴り助のお通りだぁ〜!」
ドラゴンへ向かってトコトコ走り出すピョン子。
「使いどこ違うし、ニッチすぎる! お前ビーグル犬じゃねーだろ!」
俺もアフロ覚悟でわざと攻撃を貰い、ドリフシステムの恩恵を最大限に活かしてピョン子をサポートする。
ドラゴンをはじめ、大型モンスターの動きは緩慢なうえ体組織は結構グズグズで、蹴り込んだピョン子が体ごと貫通してしまう脆さだった。
ニンジンの魔力も限界なのだろう。既に漢方の材料と見分けがつかないほどカスカスにされている。逆に貼りついているメリフェスの欠片はドス黒い輝きが増した感じだ。
順調に数を減らし、あと数体というところで異変が起きた。
直径2mほどの球体に回復したメリフェスの欠片は、その中に干涸らびたニンジンを取り込み、再生させる。
「二人の人間がそろって立てつくか。人の『相違』の器であるこの私に!」
最悪な事に、やっと倒したモンスター軍団も復活させやがった。
蘇ったニンジンは球体から上半身を出し、相変わらずの芸風でノリノリだ。
ピョン子は人間じゃないけどな!
「くそっ、振り出しかよ!」
「アイツまで届けば即死させてやるわよ」
右手に戻った強気のピョン子だが、かなり息が上がっている。さすがにこの数の二周目はキツイだろう。
「ここから先は通さん、と言っておこうか」
通りたくても通れねぇよ。即死を叩き込むにも、立ち塞がるアンデッド群をなんとかしないと。ピョン子対策としてアンデッド(本職除く)で壁を作られちゃあ……
どうしたものかと瞑想中、脱兎したピョン子がいきなり小さな体で俺を抱き込み横っ飛びする。
数回転がり、揺れた視界が回復すると俺がいた位置の上空に大きな魔法陣が浮かんでいた。
「なんだ?」
「やっと来たわね」
細い光が魔法陣とモンスターを結んでいく。
「鳩野さんか?」
次の瞬間、轟音と共に1台のライトバーンがモンスターめがけて落下すると、数体を圧殺、手近なモンスターから粉砕して進む漢・ライトバーン。
あらかた轢殺し、ポカンとする俺とピョン子の前で『なにか?』と言わんばかりに停車する。




