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「杜鷺さまぁ、無事ですかぁー?」
予想外の助っ人は上空からだった。晩暉に映える飛竜の翼が影を落とし、優雅に飛び去る幻想的な光景は、目の前に降り立った侍女さんの声で現実に引き戻される。
「え? 侍女さん?」
「はいはーい。私が一番乗りですよぉー」
周囲を警戒することも無く、戦闘服には思えないシックなモスグリーンに赤茶オビのミニ浴衣で、この場の司会を務めてしまうんじゃないかと思うほど落ち着いている。
「すいませんねぇ、杜鷺さま。ちょっと事情が変わったので、私も加勢しますね」
「あ? アタシ達信用してないの? 仕事料は返さないわよ」
侍女さんの頬を強めのタッピングで抗議するピョン子。
「達? あぁー……いえいえ『お二人とも』信用してますよ。先程も言ったように、ちょっと事情が変わりまして。お仕事はそのまま継続でお願いしますね」
ピョン子の言動に含み笑いをしつつ、にこやかに抗議と言う名の施術を受ける侍女さん。
「とりあえず、コイツらブッ飛ばせば良いですかね。お宅の腹黒姫が到着する前に片付けて、ポカンとさせてやりましょう!」
他国の姫に対して、ちょいちょい毒舌だよなぁ。
野良勇者の中へ果敢に切り込んで行く侍女さん。俺との繋がりを見てリア充認定されたと思うが、彼女が躍り込んだ群れから野良勇者がお構いなしに噴き上がる光景から察するに、攻撃を無効化されてなお、力業で「ブッ飛ばして」いるようだ。
「まぁ、腐ってもクラブ国三位ね。アタシらはニンジンをやるわよ! あれなら無効化されないし」
ピョン子の言うとおり、相性の悪い野良勇者は侍女さんに任せて、俺達は大将を狙おう。
侍女さんの活躍に目を奪われている隙に、メリフェスと融合した元ニンジン=キャロト・バジール=現キヤス・バルは、歪んだ空間からモンスターを召喚していた。スライムからドラゴンまで、手当たり次第って感じだ。
「アイツ、乗っ取られてるっぽいわね」
見ればニンジンはメリフェスからいいように魔力を搾り取られて、干涸らびかけている。
「妙に知恵があるよりいいさ。イケるか? ピョン子先生」
「アンタの手が届く範囲ならね。ハートの魔法使いも来てるし、なんとかなるでしょ」
敵とは明後日の方向に上体をひねり、耳を立てるピョン子。
乱召喚されたモンスターはメリフェスの影響か、みな白眼で生気がなく、黒いオーラを纏ったゾンビみたいだ。
「なぁ、お前の『即死九割』って、既に死んでいる相手にも有効なの?」
「————————!!」
すげぇ、リアル『ムンクさん』だ。ウサギだけど。
もともとの役職? がゾンビなら効果あるんだろうな。ダイコン戦の時、敵軍に混ざっていたゾンビ相手には発動してたぽいし。
「そう気を落とすなよ。なんでも浄化できたら僧侶系のありがたみが薄れるだろ?」
ピョン子の場合、浄化じゃないけどな。
フリーハンドで幾重にも円を雑に描いたような目をしたまま固まっているピョン子の頭をポンポンしてやると、瞳に光りが戻ってきたようで、
「がーーーーーーっ!! アタマぽんぽんヤメーーーーーーっ!!」
長い耳で器用に手を叩かれた。
「あーっ、もーっ! やってやるわよ! 即死が効かないなら殴ればいいのよっ! パンが無ければお米を食べればいいじゃない!! 脱兎!!」
キレたピョン子は、なんかよく分からない迷言を残して単身モンスターの中へ突撃して行った。
「隊長さん、このコ頼みます」
俺の後ろで燕尾服の腰のあたりをキュッと握っていたプロディちゃんをジェイショッカー元・隊長へ預け、脱兎して丸腰になった150cmそこそこの少女を助けに向かう。




