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まばらに残る城壁の外周に沿って、こっそりと偵察を開始する。
かなりリスキーだが、置いてくのもアレなので霊仙寺も同行させた。
「アカネの万能魔法って便利よねぇ。時間気にしなきゃ、手ぶらでいいんだもの」
万能魔法の凄いところは、鳩野さんが物の理論や仕組みを知らなくても、どんなものかザックリわかっていれば同じ結果を得られる事だ。
例えば、魔法で出した車にはエンジンが積んでなくても走れたりとか。
ちなみに、鳩野さんにかけてもらったこのコスプレ魔法は半日ほどで消滅するらしい。
「エルマナって、こう「ファミリー向け」みたいな生活魔法っていうか……日用魔法ってないの? たいがい戦闘仕様だよな」
バトル方面に進化した結果なんだろうけど。
「ないわね。楽しないで体動かしなさいってことでしょ」
身も蓋もねぇな。
半周ほどして日も暮れた頃、遠くにプロディちゃんを搬送するグループを発見。気配を消して近づき、会話を聞く。
「副隊長、この邪神像はどこへ設置しますか?」
「メリフェス様の器か。さすがにこの造形ではマズイだろう……モデラー班へ回し、調整させろ」
本来はプロミディアさんの器だ。魔王軍でもメリフェスの器として利用するつもりだったのか。副隊長の美的センスは合格点だな。
「ねぇ杜鷺。副隊長って呼ばれてる野良勇者、ワタシが追ってたヤツだわ」
マスクを捲って目視する霊仙寺。
「今からですか!? メリフェスは四日後ですよ?」
「お前ら、コレを崇められるのか?」
「わ、わかりました。修正を急がせます」
「鎖骨部分は完成度が高い。弄らないよう言っておけ」
メリフェスは四日後? 何のことだ? あぁ、メリフェス↓じゃなくてメリフェス↑、「メリフェス・フェス」や「メリフェス・フェスティバル」の略か。
「紛らわしいわね。猿飛気取りなのかしら?」
メリフェスとは人の名ではない、祭りの名だ!……って
「拾いずれぇ上、例えになってねぇよ!」
反射で突っ込んでしまったが、あとの祭り。洒落でなくて。
「誰だ! そこに隠れているのはっ!!」
崩れた城壁を挟んで背中合わせの状態。当然、このままではヤツらに見つかってしまう。猶予は隠れている横10mほどの分厚い壁の裏側へまわって来るまでだ。
「杜鷺、なにやってんのよ!」
「この局面でツッコミって、アンタつくずく勇者タイプね。ほんと、呆れるわ。上手く切り抜けなさいよ? じゃあね!」
脱兎したピョン子は文字通り脱兎のごとく森の中へ逃げ込む。
「薄情ね、あの縞ウサギ」
数秒で点になったピョン子の後ろ姿を眺め、ため息をつく霊仙寺。
「今はあれがベストだろうな。本体は俺の右手だし、何か手を打ってくれるさ」
「信頼してるのね」
クスリと含んだ笑いを向けられた。
「そ、それよりヤツらをなんとかするぞ!」
親指で迫る野良勇者を指し、赤らんだ頬から霊仙寺のニヤけた視線をそらす。実際ピンチだしな。
「すまん、霊仙寺」
そもそも女性隊員がいないジェイショッカー。その中に霊仙寺が紛れ込むのは100%不可能。
このユニフォームに違和感無く納めるには、彼女のスタイルは本来の意味で役不足だ。いや、マニア的には足りてるかもしれないが。
急場しのぎの羽交い締めで強調された、起伏の激しいラインをチラ見して思う。
「へ?」
重冷気剣の顕現を邪魔されて困惑顔の霊仙寺をよそに、先手を打って奇策に出てみる。
「副隊長! こんなケシカラン女が隠れていましたっ!」
霊仙寺のマスクを剥ぎ取り、野良勇者の前へつき出す。
「我々を追って来たダイヤ国の女ではないか! でかしたぞ」
霊仙寺には悪いが、規格外の双丘を誇示する姿勢をとらせて野良勇者達の注意が俺に向かないよう無理してもらう。
「ちょっ、杜鷺! ナニ言ってんの!? ちょ、痛い痛い! ソコ、そんなふうに開かないからっ!」
無意識の動作ひとつひとつが無駄に扇情的で破壊力が高く、野外の薄明かりもあいまって、前屈みになる連中が続出した。
「オマエ、ゲスいな……みない顔だが、新入りか? 気に入った!」
アスキーアートなんて知らないだろう鳩野さんがデザインしたマスクの柄は変に思われなかったようだ。
霊仙寺の犠牲はあったが、なんとか副隊長の信用を得られたようだ。
ゲスい作戦に耐え忍び、俺を見上げる霊仙寺の口は「モリサギ、アトデコロス」と動いていた。




