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2-10

 腐っても元勇者。クアドラに関しては思い入れがあるのだろう。


『ひよーーーっマジ天使、マジ女神! ルテミん!!』


 隊長はクア・ルテミス推しなようで、ピョン子の留奈ちゃんとは別次元の熱狂ぷりだ。


「喜んでいられるのも今のうちです」

『ど、どういうこと? ルテミん』


 クア・ルテミスに変身した鳩野さんが、冷たいながらも妖艶な流し目で俺の方へ向くと。

 隊長と対峙していた表情が嘘のように崩れ、蕩けた瞳と薄笑みを浮かべて俺の鼻先数センチにせまる。


『そいつにナニをする気だ、ルテミん!!』


 鳩野さんは隊長へ振り返ることなく、俺の目を見たまま告げる。


「アナタが神聖視しているクア・ルテミス、「ルテミん」をけがします!」


 次の瞬間、唇に触れる柔らかい感触。


『あ"----っ!! ボクのルテミんがぁーーっ! ルテミんはそんな不潔なコトしないんだぁーーっ!!』


 隊長は膝から豪快に崩れ子供のように大声で泣き叫ぶ。

 勝負はあったようだ。

 にしても鳩野さん、超えげつねぇ……隊長のダメージは計り知れないな。

 自分がキスされていることも忘れ、隊長に同情してしまった。さすがに「NTR」のスキルをもってしても、「俺の嫁」は別格か。


「杜鷺君、よそ見しない」


 俺の頬を唇同様、柔らかな両手でガッシリ固定した鳩野さんが、怒りと悲しさの入り交じった複雑な表情でみつめてくる。


「ちょっと待って、鳩野さん。勝負ついたみたいだよ?」


 なおも「ルテミん」の顔で、小さな口から甘い吐息を漏らし接近する鳩野さん。さっきの霊仙寺ほどではないが、様子がおかしい。


「たぶん野良勇者の黒オーラに毒されてるの。周囲の迷惑も考えず、欲望のままに行動しちゃうの」


 ノーマルモードに戻った慧依子先輩が解説してくれた。


「ワタシもあんまり記憶が無いのよねぇ。ほら、アカネ。歯、食いしばりなさい」


 頬を腫らした霊仙寺が鳩野さんの襟首を掴んで俺から引き離すと、自分が受けたようにビビビビンと平手打ち。


「俺や慧依子先輩が黒オーラの影響を受けてないのは?」

「モル鷺君は彼らと同族みたいなものだから、もともと耐性があるの。いわゆる予備軍なの。私は抑えつけてる欲望なんて無いの」


 釈然としない思いは、いつのまにか無言で互いの頬を張り合う霊仙寺と鳩野さんが視界に入った所で吹き飛んだ。


  ■   ■   ■   ■   ■   ■   ■   ■   ■


「我らの完敗だ。好きにするがいい……」


 すっかり抜け殻になってしまったジェイショッカー隊長と、戦意喪失した隊員達。

 勝負には勝ったが、肝心の『プロディちゃん』の姿は無く。

 隊長に問い詰めると、今頃は少数の隊員によって魔王城に到着しているとのこと。

『プロディちゃん』奪還、金色の魔将軍、メリフェスの説得と問題は山積みだなぁ。


「じゃあモル鷺君達は先を急ぐの。私は彼らと商談があるの」


一抹の不安があるものの、数十人の野良勇者を慧依子先輩に任せ、問題点が集約されている魔王城を目指す。

 途中、ビイワ湖の畔で休息をとり、ジェイショッカーの黒オーラによる精神汚染の除去と、今後の作戦について相談する。


「そう言えばスズメさん誘拐って何が目的だったんだろう?」


 単に女王だからって理由じゃなさそうな気がしていた。


「TCUからの報告だと、なにかのサンプル収集じゃないかって話だったわ」

「『プロディちゃん』の件にしても「我らの理想の実現」とか、漠然とした答えだったからなぁ」


 メリフェスまで辿り着けるかは別として、魔王城に行けば全て事足りるのは助かる。


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