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夕食をご馳走になり、ドリフシステムの最終チェックも済んで。
「モル鷺君。メンテ料はいらないから『プロディちゃん』を中庭へ運んでほしいの」
慧衣子先輩がギブアンドテイクとばかりに持ちかけてきた。食後の運動にお安いご用だ。
見かけによらず、結構な重量があるプロディちゃん。なんでも、磁気を含んだ貴重な粘土が素材となっていて、自然乾燥させるのが一番都合がよいとのこと。
今は素材そのままの灰色だが、粘土が乾いたら塗装して前衛芸術の爆誕となる。
「慧衣子先輩、これ霊仙寺と良い勝負なんだけど、何でこんなに重いの?」
背負ったプロディちゃんを肩越しに見て、質問してみる。
「各パーツの結合に八つの磁気球体を使用しているからなの」
いわゆる『マグネモエイト』みたいな解釈だろうか。
内訳は首、両肩、腰、両脚、オプション用ハードポイント×2の計8ヵ所。
「オプションの2ヵ所って、どこに何が付くの?」
「男の子が大興奮するモノ、としか恥ずかしくて私の口からは言えないの」
うつむいてモジモジする慧衣子先輩。このデザインでナニを興奮するのか想像つかないんですが。
星明かりの中、いきなりこんなのに遭遇したら、トラウマでは済まないだろう。
「そんな事より、はやく温泉入らせなさいよ!」
お湯はりを待っている間、中庭の中心に置いた『プロディちゃん』という奇怪なオブジェを観察していたら、ウサパンチでタッピングされた。
「お前、今度はフンすんなよ!?」
「アタシが言わなきゃ柚子湯だと思ってたクセに!」
今回は脱糞騒ぎも無く、ゆったりと浸かって、明日以降の冒険に備え英気を養うことができた。ここまでは。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
俺達がぐっすり眠っていたその夜、人知れず事件はおきていた。
「盗難? あの邪神像が? いや、そんなモノ好きいねぇだろ」
中庭に置いた『プロディちゃん』が翌朝に消えていたのだ。
「防犯映像に魔王軍らしき一団が確認できたの」
「あーーっ、もうっ! 苦労して造ったわたしのボディがぁーーっ!!」
俺の頭上で飛び回るプロミディアさん。デザインは魔物寄りだったし、無くても困らないのでは? 俺なら同じコンセプトで、もう少し気のきいた物を3〜4時間で造れそうな気がする。
「魔王軍に悪用されたら厄介なの。私はガントレットの修理があるから、モル鷺君は交渉ついでにプロディちゃんを取り返して来てほしいの」
新しいクエストが追加になってしまった。
プロディちゃんのボディを構成している特殊な粘土は『超粘土』別名『超念導』とも呼ばれ、扱う者の念を効率良く伝導させる特性を持っているらしい。
この『超粘土』に球体磁気関節を使用することで反応速度が増すと言う。
「どうもピンとこないんだけど、磁気関節でマグネットなんたらしたG-3プロディちゃんはどう脅威なの」
そういやプロディちゃんの地色もグレーだな!
「わたしの本体ほどじゃないにしても、あの神々しさの前には誰しも怯んじゃうでしょーがっ!」
「そのカリスマ的魅力で人々が洗脳されるかもなの」
『カリスマ的魅力』がすでに2つの意味で理解できねーよ。
「冗談はさておき、憑依系の敵にでも乗っ取られたら『プロディちゃん8の秘密』が解析される恐れがあるの」
「そんなV3みたいな……数字は現実味があるけど」
「もう石像化中に何もできず斬首されるのはゴメンだからね! その対策を盛り込んだ『強襲殲滅型依代プロディちゃん』は戦場を選ばないわ」
ごめん、強襲殲滅型の意味がわかんねーや。
とにかく、ナスノ課長にされた仕打ちが尾を引いているのだけはわかった。
「女神レベルの隠し武装があって、利用されたら面倒なんだね」
ドリフシステムや鳩野さんのガントレットの戦果を考えれば、相手にしたくないよな。なんでもアリだな、スペード国。
もっと平和的で皆が和むようなアイテムをリリース出来ないものか。
そんなことをボンヤリ考えていると、頭上のプロミディアさんが髪をひっぱって急かしてくる。
「ホラ、早く追いかけましょうよっ、フウマちゃん! わたしの依り代を取り返すわよ! トローーリィーーッ!!」
「おぉー……」




