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「母は……女の子が大好きなんです」
うつむき、ため息と同時に小さくかぶりを振る鳩野さん。
「誤解しないでよ? キミ。性的な意味だからね」
なぜか自慢げなマミさん。うわヤベェ、手に負えないプロミディアさんて感じだ……なにを誤解しろと?
「愚母が『両極の魔女』と呼ばれる由縁のひとつです」
鳩野さんが掻い摘んで教えてくれた『両極』の意味。
『魔法使いだけど格闘が得意』
『年齢に反して若い』
『体は大人だけど精神は子供』
『ドMだけど一周してドS(意味深)』
「……どちらの要素も持っていますが、後者の比重が大きい傾向にあります」
『光と闇』とか『水と炎』みたいに、能力チックな意味を期待していたが、庶民的というか、聞いた範囲では結構ショボい内容ばかりだった。
ただ、はじめにあがっていた『魔法使いだけど格闘が得意』に関しては、魔法レベルをほぼほぼ極めた上で『格闘の方が更に高レベル』だそうで、徒手空拳に魔力を織り交ぜられたら『全盛期の黒帯王』でもお手上げらしいとのこと。
「あとは女性でありながら、性的嗜好が男性……などですかね」
指折り数えていた鳩野さんは、最後に「オタク男子の杜鷺君だったら、母のニッチでアレな話も、すんなり共感してしまうんでしょうね」と呆れ気味に付け加えた。
「バッ、紅音、女の子好きでもいいじゃない! 恋愛は自由よ?」
「異種間含め、いろいろ限度があるでしょう?」
「はっはーん、紅音ぇ。メリルの『すっごいの』見たこと無……ガブハッ!」
トンと床を蹴ったメリルさんが身体を捻り、全体重を乗せた高速回し蹴りがマミさんに炸裂する。
「紅音ちゃんの前で赤裸々な営みを語らないのっ!」
ドレスの裾を華麗に翻すと、直前のDV行為が嘘だったかのごとく、白い両腕を内腿に挟んで悩ましげにモジモジするメリルさんだった。
「カンの良い杜鷺君なら御存知でしょうけど」
ふいに耳元で囁く鳩野さん。
「メリルさんは魔族なので、身体が特殊な構造らしいのです」
「ああ、フウマの本棚にある薄い冊子の『フタなんたら〜』ってやつね」
俺と鳩野さんの間に割って入る右手のウサギ。
「お前、ずっと黙ってたのに開口一番それかよ!」
鳩野さんは俺から数歩距離を取っていた……
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
数時間後、ハート城の中庭に用意された優雅な空間にて。
鳩野さんに諭され、冷静さを取り戻したご両親とティータイムを過ごす俺。
「じゃあ、キミがうちの勇者なのね?」
「はい。姉……正統勇者のお情けで、そういうことになりました」
そう、静香が女神社長に願った内容は自分のかわりに俺をハート国勇者候補生にすることだった。
「あらためて、私が現ハート国女王で紅音の母『両極の魔女、エクストリーム・マミ』よ。よろしくね」
自分で言っちゃうんだ、二つ名……
明るくてフランクな人だなぁ。言っちゃ悪いが、鳩野さんの反面教師として、とても有能な気がする。
「で、こっちが『大魔王メリル』。紅音の父親ってことになるわね」
対してメリルさんは落ち着いていて、抱擁感に溢れて見える。
「杜鷺楓麻です。よろしくお願いします」
「なにか質問があれば答えるわよ?」
アルバイトの面接してるみたいで緊張するよ。
「まぁ、たいがい初見の人は『ツッコミどころが多すぎ』って言うけどねっ!あははははっ」
でしょうね。
「なぜセーラー服なんでしょうか?」
空気を読まずにあえて聞いてみる、チャレンジャー俺。
「でしょーっ!? ちょっと聞いてよフウちゃん! 私だって好きで着てるわけじゃないのよ!」
うおっ、凄い勢いで食いついてきた! そして友達の母親からフウちゃん。
「妙齢の女性がセーラー服!? イタタタタって、思うでしょ? こんなのに袖通す勇気、フツウだったら無いわよ? 自分で言って情けないけどっ!!」
よかった、一応良識はあるんですね。
「マミちゃんへの誤解をちょっとでも減らすため補足するけど、コレ『拘束具』なのよ」
まさかの使用方法! 拘束具?
「マミちゃんの二つ名、両極の能力を抑え込んでいるのよ。正確には『制裸服』ね。スペード国に依頼して創った特注品なの」
マミさんのために、というかエルマナ全土のために国家予算の約半分を投じた結果、ハート国の経済は今でもその影響を受けているらしい。
「なんか、いかがわしい文字が含まれているようですけど……能力を抑える?」
「両極の公式に当てはめるとマミちゃんは『脱げば脱ぐほど強くなる』のよ。だから場所をわきまえず全裸になるクセを『制裸服』で抑え込んでるの」
「アンタ、私が露出狂みたいに! 勇者や大魔王クラスじゃなきゃ脱がないわよ! 勝手に脱げないしねっ!」
結局、静かなティータイムになるはずが、マミさんとメリルさんのトラッシュトークで潰されたのだった。




