第1章 1
おなじみ、杜鷺家リビングでは。
夏仕様のテーブルこたつに並ぶ、ケーキと紅茶。ルビーナが自分の食い扶持を稼ぐため片道三時間かかる例のケーキ屋でバイトを始めてからというもの、杜鷺家のお茶菓子はグレードが向上している。
ガチ参加者は意外と少なく、俺と静香、鳩野さんと霊仙寺。脱兎したピョン子はケーキ目的でダイニング側のテーブルに座る。
ミツバ姐さんは空き家になっている魔王城の調査へ、プロミディアさんは神殿が修繕されるまでの器を慧依子先輩と創っているようだ。
「楓麻と結婚すると聞いて。どういうことか詳しく」
姉の静香が場を仕切っていた。
まぁ、一応は本物のハート国勇者だからな。ニセ者の俺と違って……
「……あのとき、私の願いは『石化された人達を元に戻す』でした」
女神社長の口止め料か。ピョン子のミスで俺の願いが上書きされ、呆然としていた時だな。
「ですが『母を除く』は承認されなかったので、あの人も復活して……今は父が抑えていますが、どこまで持つか……」
「両極の魔女、エクストリーム・マミ!? 国王もアカネも災難ね」
え? 母? 国王?
「鳩野さんのご両親は健在だったの? 俺、てっきり……」
「まぁ、杜鷺君の同情をかうためにボカシた表現をしましたからね。みなさん無事ですよ? 父は今ピンチですが」
とりあえず、健在でなにより。
ジャガイモになる前の大臣が謀反を起こした時、鳩野さんを逃がすために犠牲となった人達は強力な石化の魔法で石像にされていたようだ。
やっかいなことに、その魔法はプロミディアさんの上司だったナスノ課長の暗躍によるもので、鳩野さんでは解呪不可能だったらしい。
「なんか、琴線に触れる二つ名を持った魔法少女っぽい名前が聞こえたんだけど」
「はい。『全ての両極を有する魔女』が売りの痛い年増、エクストリーム・マミは私の母です」
自分の娘にそこまで言わせるなんて、逆に会ってみたい気がする。
「ご両親がもとに戻ったなら良いことじゃない。どう楓麻と結婚につながるの?」
うん、俺も気になる。
「母にハート国女王を引退させないため、エルマナ全土の平安のためです」
「どうもピンとこないわね。普通は結婚したら跡継ぎ誕生、引退って流れじゃないの?国も安泰そうだし」
「いえ、素行の悪い母を野放しにできません。他国に迷惑がかかりますので。ですが、私が純血でなくなれば女王の資格を失い、必然的に母が継続します」
「あー、あれね? 処女厨だっけ? 楓麻がよく提唱してるやつ」
お前、ハート国民に謝れ。そんな国民性ヤだ。鳩野さんも微妙な表情してんじゃねーか! 「母を野放し」に食いつけよ! そして俺は提唱していない。
「こちらの世界では『30歳まで童貞を貫くと魔法使いになれる』ってありますよね? 杜鷺君に実践してもらっていますけど」
間違っちゃいないが、15歳で繰上げ転職しているだけに、すげぇ複雑な心境だ。
「あの伝説、発祥地はハート国なのです。正しくは『30歳までに処女を捨てると人間になれる』。わかりやすく言うなら、異世界のヒロインが召喚されたダメ勇者とエッチしたら魔力を失って人間界追放みたいな」
衝撃の事実! ヒロインにデメリットしかねぇっ!!
「それだと鳩野さん、割にあわないんじゃ……」
女王の脅威がどの程度が知らないけど、エルマナを救うために俺と結婚なんて。『好きだから』って理由じゃない所がアレだが。
「私の純血とエルマナの平和を比べれば安いものですよ? 杜鷺君は私のこと、嫌いですか? あ、胸ですか? 胸ですね? 橙愛さんとまではいきませんが、そこは魔法でなんとかなりますよ」
痛々しいほど必死だった。




