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クラブの6

 ダイコン戦から一夜明けて。

 あのあと、負傷した有志兵団の全員を鳩野さんが魔法で治療するのに半日かかった。

 大ホールで開かれた労をねぎらう軽い宴も終わり、いざスペード国へと思いきや。

 俺はかれこれ一時間ほど理不尽な仕打ちを受け続けている。


「スマン、モリサギ!」

「…………」

「ニンジンうめぇーっ! さすが地属性の国ね!」


 何度も俺に謝るミツバ姐さん。

 鳩野さんは無言で軽蔑の眼差し。

 留奈モードのピョン子は通常運転。


 で、俺はと言えば。揉まれてます。揉みまくりんぐされてます。『クア・ポロン』の姿で。


「はいはーい、戦闘に参加した方だけですよー! お一人様、五揉みですからねぇー!」


 長蛇の列を一人で捌くバニーガール姿のお姉さん。大会の進行役や雑務などオールマイティーにこなす琴宮先輩の侍女さん。


「なんで俺がこんなめに……」

「諦めてください、モリサギ様ぁー。国王が出した国民のための成功報酬なんですからぁ」


 そう、『ダイコン率いる敵軍に勝利したら姫のおっぱい揉んでよし』ってアレ。でも、琴宮先輩は琴宮先輩で『ダイコンに勝ったら願いを聞く』って権利を行使して揉まれるのを拒否したもんだから、暴動が起きて。


「いやぁ、長生きはするモンじゃのう。黒白大会はお前さんのおかげで一人勝ちじゃし、若い娘の乳は揉めるし」


 闘技場で隣に座っていた爺さんだ。


「いや、こんな姿だけど俺、男だから。ってか爺さん戦闘に参加してたの?」


 たしかに、ただの爺さんではないと思っていたけど。


「なに! 男の娘ってやつか! それはそれでっ!」

『おぉぉぉーっ!』


 にわかにどよめく大ホール。ぜってーオカシイよ、コイツら……


「まぁ、先輩が揉まれまくる姿を見せられるのは耐えられないしな」


そんな訳で、あの場では俺が身代わりとして申し出るしかなかった。


「あと三十人くらいで終わりますから、ガマンしてくださいねぇー! モミモミ」

「クレージーな国王のせいで大迷惑だよ……って、どさくさに揉まないでくださいよ!」

「私だって裏方で大活躍してたんですよぉ? これぐらいイイじゃないですかぁ。いや、コレはウチの姫さまといい勝負で」

「はぁ……こんな事している場合じゃないと思うんだけどなぁ。もう切り上げて要人救出に行こうよ、当然クラブ国王は除外で」


 早く逃げ出したいのもあるけど、正論のはずだ。


「杜鷺君。愉しんでいる所ごめんなさい。そのクレージーな国王ですが」


 俺と侍女さんの間に割って入る鳩野さん。助けてくれたのかな?


「愉しんでいる覚えはないんだけどね。で、あの国王がどうしたの?」

「各国に向けて配信された戦闘前の映像ですけど、気になりまして」


 鳩野さんの魔法で空中にノートサイズの画面が浮かぶ。しばらくすると、俺がこんな目にあっている元凶が再生された。


『……ヨゥ! よつば、観てるかー。ジイちゃん、魔王軍につかまっちゃったー! ン? ワシの事は心配いらんよ。マァ、国王としてはクラブ国民の安全を考えると、素直に従った方がいいと思うの。勝てる自信があれば、戦闘もアリじゃけどな。労力の無駄にならんように切り上げるんじゃぞー』


 映像の前半で一時停止すると、


「私、ラテ欄がどうのって所が気になって。国王の言葉、頭の文字を拾っていくとメッセージっぽくなっているんですよ」


 気の利く侍女さんは、胸元からメモを取り出すと国王の言葉を文字にしていく。


「えぇとぉ、ヨゥ・ジ・ン・ワ・マ・カ・セ・ロって、ほんとですねぇ!」


 えー……偶然じゃねーの?


「私の考えすぎかもしれませんので、保険ぐらいの感覚でいましょう」

「オレにも判断つかねーな」


 国王と付き合いの長い琴宮先輩が言うんじゃ望み薄かなぁ。


「あ、ところで俺も気になってる事があるんだ」

「女装にでも目覚めましたか?」

「いやいや、昔の記憶だよ! 八年前の夏休み、一緒に遊んだのは琴宮先輩だと思っていたんだ。でも、鳩野さんが俺とクアドラごっこをしたって事は……」

「クアドラごっこは紅音だな。オレはモリサギが帰る前日に知り合って、四ツ葉のクローバー探しを手伝っただけだ。翌年はたまたま出会ったお前の姉に声をかけられてって流れだろう」


 つまり、『仲良くなった近所の子』が先輩だったのか。


「じゃあ、初恋の子って鳩野さん?」

「そんな大切な相手を忘れてしまう男の子なんて知りませんが」


 三人の間でよくない空気が流れる。俺の曖昧な記憶のせいなんだけど。

「姫さま、ドンマイ! ヨツバ姫さまになれば年上の魅力で、毒舌ぶってるハート姫なんか相手になりませんよ!」


 良くも悪くも気の利く侍女のお姉さん。


「ヨツバ姫さまは、紅音ちゃんの憧れでしたもんねぇー。ガサツなヤンキーのミツバ様に感化されたらどうしようかと思いましたけどぉ」


 昔の鳩野さんは、よつばさんを慕っていて、双子の姉妹と間違われるほどだったらしい。小学一年生の男子に見分けろと言うのも酷な話しだと、自分を擁護させていただきたい。


「シェフ! シェフを呼べぇーっ!」


うずたかく積まれた皿を前に、腹をパンパンに膨らませたピョン子が叫ぶ。


「はいはーい! 今いきますよぉーっ!」


 お姉さん、シェフもやってるんですね。

 およそ千人のムクツケキケダモノ達を満足させ終わり、俺はやっと解放された。


「憧れのクア・ポロンなのに、変身解除しちゃうんですか?」

「いや、女の子が変身してこそでしょ。鳩野さんは変身しなかったよね?」


 変身を解除し、ガントレットと指輪を鳩野さんに渡す。


「ええ、この手甲と指輪があれば技が出せるので」

「俺が変身する意味は! って、スペード国の指示だっけか」


 なに考えてんだスペード国。


「苦情はスペード国に直接お願いします。それより一旦、ハート国に戻りましょう」

「スペード国じゃなくて?」

「ええ。昨日みたいに杜鷺君が丸腰になっても対応できる装備が必要ですから」


 脆弱な俺のために申し訳ない。ルビーナに預けたリフレクトメイルを回収し、スペード国の技術で俺用にカスタマイズするためハート城へ向かうことになった。


「国王と姫さまが不在ってことはぁ、自動的に私がクラブ国の国王代理ですねぇ!」

「力順だからそうだな」

「力順って、昨日は戦場にいなかったですよね?」

「こいつの名誉のために言っておくけど、これでも実力はクラブ国で三位なんだよ。戦場にいなかったのは、裏門から侵入した別動隊を一人で排除していたからだ」


 器用な人だとは思っていたけど、それほどだったとは。人はみかけによらないなぁ……

 お土産のクラブ国産ニンジンを大量にライトバーンへ積み、俺と二人のお姫様は侍女さんが見送る中、更地から戦災復興に励むクラブ国をあとにする。


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