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クラブの5

「モリサギ! 敵襲だ!」


 琴宮先輩が緊迫した声で駆け上がってくる。レディースの特攻服だろうと想像していた戦闘服は、健康的な太股を露わに魅せるミニ浴衣とほとんど変わらない姿だった。


「あの森の中を直進してくる『何か』ですよね。新生魔王軍ですか?」


 あと五分もしないで城壁に到達する勢いだ。武闘大会後を狙ったのか? 少なくとも戦力になりそうな九人の猛者は、さっきの試合で先輩のエメラルド・ハンマーに伸されたばかり。


「どうやら一団の先頭はウチの国王って話しだ」


 洗脳されているのか、ダイコンの能力か。いずれにしても相手にするのは厳しいはずだ。


「国王はオレが全力で止める。モリサギは有志兵団と魔物を頼む」

「ダイヤ国のTCUみたいな組織ですか?」

「あんな立派なモンじゃないよ。戦い好きの国民の集まりかな。コチラに義がある防衛戦は率先して飛び込んでいく連中さ」


 さすが力自慢のクラブ国民。戦闘素人の俺はサポートにまわるか。


「正門前のエリアが更地化したら行くぞ」

「更地化って……」


 質問しようと思ったら、サイレンの音と地鳴りがクラブ国中に響き渡った。


『ただ今、正門側より敵接近中でぇす。これより正門エリアを更地化しまぁーす、白線の内側までお下がりくださぁーい』


 レフェリーのお姉さんの声だ。サイレンと地鳴りの中、よく通る声でアナウンスしている。

 アナウンスが終わると、俺は地属性の真骨頂と呼ぶにふさわしい現象を目の当たりにした。

 城へと続く石段のふもとから城下の外れまで立ち並ぶ石造りの建物が、モーゼの十戒よろしく綺麗に地割れしたクレバスに軒並み飲み込こまれていく。裂けた大地はものの数分で元に戻り、あとには正真正銘の更地が完成する。

 場所を移動して、クラブ城正門前。俺の予想を上回る手際の良さで迎撃準備が完了していた。遮蔽物のない平地と化した城下に集結する血気盛んなクラブ国民の有志兵団。


「こんなデカイ戦いは久しぶりだな」

「敵の戦陣は先代黒帯王らしいぜ」

「大義名分のもと国王とやれるってわけか」

「これだから有志兵団やめらんねぇ」


 と、かなり積極的な会話が飛び交っている。


「アンタ、カードがないと完全にお荷物よね」


 最後衛に控える俺。プロミディアさんが復活するまではピョン子の言う通り。


「今回は少し厄介そうね。しょうがないから、アンタの右手が届く範囲は貸し一つにしてもいいわよ?」

「そりゃどーも」


 戦場となる広大な更地エリアで睨み合う両軍、その数およそ千対千。敵側の編成が魔物なのは当然として、クラブ国陣営にも有志の魔物が参戦しているため、乱戦になった場合、俺には区別が難しい。互いの代表が一歩前へ出る。琴宮先輩と対峙している大男が国王であり、先輩の祖父なのだろうか。鍛え抜かれた浅黒い肌と、ジョン・L・サリバンのような髭が威厳を感じさせる。


「殺気が温すぎる。お前、国王じゃねぇな。誰だ」

「やはり溢れる気品は隠せないようだねぇ。即バレしたのは腹話術のコとキミで二回目だよ」


 ダイコンの変身能力だったか。


「お前がアクター桜島って奴か」

『はじめまして、だねぇ。お姫さま。正体を隠すつもりはないよ? 国王とは話しが付いているんだ。これを観てよ』

 上空に数十メートルのオーロラビジョン風の映像が浮き上がり、新生魔王軍のロゴのあとカメラの位置を直していると思われる淫魔の女の子が映った。


『ん? オーケーかの? ……ヨゥ! よつば、観てるかー』


 本物の先代黒帯王、国王で琴宮先輩の祖父だ。南国リゾートさながらに、派手なサングラスとアロハ姿で数十人の淫魔美女を侍らせ酒を飲んでいる。


『ジイちゃん、魔王軍につかまっちゃったー! ン? ワシの事は心配いらんよ。マァ、国王としてはクラブ国民の安全を考えると、素直に従った方がいいと思うの。勝てる自信があれば、戦闘もアリじゃけどな。労力の無駄にならんように切り上げるんじゃぞー』


 あ、これダメ国王のパターンだ。懐柔されてる……


「スケベジジィが! ぜってー負けねぇよ!」


 俺もそんな気がします。


『P・S 最近、新聞を読むんじゃがな、よつばもラテ欄は読んだ方がいいぞー』

「番組表じゃねーか! バカか!」


 女に囲まれてインテリっぷりを出そうと失敗したんだろうけど、ラテ欄はさすがに……


『あと、もしワシのニセ者に勝てたらお前の願いを聞いてやってもよいぞ。軍団戦で勝利したら戦闘に参加した有志兵団にもれなく姫の乳揉みをプレゼントじゃ!』

「なっ! ふざけんなジジイ!」


 にわかにザワつく戦場。


「姫の……おっぱい!」

「おっぱい!」

「揉みまくりんぐ!」


 スゲェ、一気に全員の士気が跳ね上がった! 狙っての発言なら内容は別として侮れない指揮能力だ。パラメーターがあれば、丸腰の俺すらマイナスだった士気がプラス三十くらいだもの。揉みまくりんぐって何?


「昔ならともかく、今の国王を完コピしたところで、オレの方が強いと思うがな」

『どうだろうねぇ。君に伝授していない『とっておき』もあるようだよ。試してみるかい?』

「上等だ」


 ダイコンの挑発に、隙を突いた高速の回し蹴りで応える先輩。だが、先代黒帯王の身体能力に弾かれる。


「あれ? これって組み手になったら先輩もコピーされちゃうんじゃ……」


 案の定、数回の攻防を終えたダイコンはミツバ姐さんへと姿を変えた。


「こっちの姿の方がボクの好みかなぁ。古風な『黒帯王』より、オシャレに『クロービィー・キング』とでも名乗ろうか? お姫様」


 うすうす感じていたけど、エルマナ全体の思考って駄洒落ありきだよな。『黒帯』と『クローバー』とか。言語や文化が日本寄りにローカライズされるにしても、ほどがあるだろう。


 よくよく思い起こせば、ハート国代表・鳩野紅音さんはハートのクイン。

 ダイヤ国代表・大野スズメさんはダイヤ・ジャック(雀)。

 そしてクラブ国代表・黒帯王、クロービィー・キング。あぁ、琴宮でキングってことか。なんだそりゃ? これから訪問するであろうスペード国もそんな感じなのかなぁ。


 そんなことより。全員が大将同士の殴り合いに気を取られている中、俺は思うところあって戦場の片隅にそっと移動した。


「ピョン子、留奈モードって霊体でもあるんだよな。触れるけどさ」

「さぁ? 本体がアンタの右手にくっついてんだから、そうなのかもね」

「乱戦になる前に試したい事があるんだ。昨日のプロミディアさんを真似て、あの人叩き起こして来てくんない?」


 カードホルダーに流れるSD女神のペコペコアニメーションをピョン子に見せ、提案する。


「ソレ、いいわね。ちょっとブン殴ってくるわ」


 脱兎したピョン子がカードホルダーに触れると、そのまま画面に吸い込まれて行った。


「お、成功か! 頼むぞピョン子」


 時空間がどうなっているのか知らないが、射程距離のルールは適用外みたいだ。で、完全に丸腰になりました。俺。そして振り返れば、二人の姫の武闘に触発されたのか、戦況は思いの外早く乱戦状態に突入している。

 今はみっともなく逃げまどうしかない俺。『ただの高校生』発言する資格充分、なんならお釣りがくるレベルだと思うんですが!

 戦闘前に剣や盾を渡されたけど、鍛えていない俺には重すぎて逆にデッドウェイトになり、敢えて丸腰を選んだ自分に非があるのだけれど。

 足がもつれて転倒した俺の頭上で、にやけたオークの戦斧が振り下ろされようとしている今、後悔してもしきれない。


『クシシシッシシ』


 勝利を確信したオークが、いやらしい目をして低く笑う。「うわーっ!」と声を上げたつもりが、恐怖のあまり声にならず、助けを呼ぶにも掠れた音しか絞り出せなかった。

 いっそう目を細めたオークが斧を高く振り上げる。無駄と分かっても俺は本能で両腕を交差した。


『グギャアァァァァ!』


 が、右手は俺の意思を無視して、そのまま振り抜いていた。その結果、優勢だったオークが鮮やかな翡翠色の炎の中で断末魔を上げる事となる。


「アタシを盾にすんじゃないわよ! 戻る場所がなくなるでしょーが!」


 俺のピンチには必ず現れるピョン子。


「ご、ごめん。ありがとう……」

「礼なんか言わなくていいわよ、貸しひとつって契約なんだから! それよりできるだけ離れるわよ!」


 再び脱兎したピョン子が、呆けている俺に手を伸ばして立ち上がらせると、なかば引きずるように戦場から離脱する。


「じ、自分で走れるよ。結局、プロミディアさんはダメだったのか?」


 白い光が点滅するだけになったカードホルダーの裏面をみつめ聞いてみる。


「半分正解ね。あの痴女女神!」


 城壁を背に、空を見上げるピョン子。その空はにわかにかき曇る。


『……の』


 カードホルダーの光が強くなり、周囲からは俺を中心にスポットライトが当たっているようにも見えるだろう。


『女神の……』


 貞子のごとく這い出すプロミディアさん。……プロミディアさんだよなぁ? 髪もボッサボサでスゲー目が据わってるんですけど。


『女神の眠りを邪魔するヤツは誰だぁーっ!!』


 戦場一帯に落雷を伴う女神の咆哮。うん、咆哮って表現であってる。


「ブン殴るのは成功したんだけど、異常に寝起きの機嫌が悪いのよ。あの痴女女神」

「お前、どんな起こし方したんだよ! プロミディアさん額から流血してるんですけど! 超怖いんですけど!」

「こう、手頃なブロック片で「ガッ」って」

「バカか! 相手が石化しててもやりすぎ!」


 そりゃあ女神の額も割れるわ! ぜってーバレるわけにはいかねぇ……


「女神プロミディア? モリサギが召喚したのか?」

『おや、腹話術師じゃないか。こんな時にショータイムかい?』


 敵味方問わず、視線が俺に集中する。ダイコンや先輩までも。


『女神の激憤、思い知りなさいっ! 怒りの矢!』


 カードホルダーを持っていた左手が「勝手に」掲げられると、禍々しく光る『怒りの矢』のカードが霊体プロミディアさんの前面に浮遊する。と、同時に俺とピョン子以外が瞬時にロックオンされ、戦場全体に凶悪な光のシャワーが降り注いだ。


「怒りの矢、超スゲェ。ん? なんか違和感が」


 自分の言葉にひっかかりを覚えたが、今はそんな事にかまっていられない。


「女神のやる事じゃないわね」


 右手に避難したピョン子が惨劇を傍観しながらつぶやく。


「フレンドリーファイアって、なに考えてんのプロミディアさん!」


 暴走女神に抗議。爆煙で戦況は見えないが、味方を巻き込んで阿鼻叫喚の地と化していることは反響する悲鳴で理解できる。


『次、起こしたら容赦しないわよ!』


 一喝してカードホルダーへと戻るプロミディアさん。普段、糸目がちのふんわりキャラって、切れると本当にああなるんだな……おっかねぇ。

 視界が晴れてくると、一帯から呻き声だけが漂う。戦場中央に立つ、二つの影を残して。


「あぶねぇ、ヘンな女神だとは聞いていたけど。あれを大会で出されてたら、オレもヤバかっただろうな」

『クッ……これは腹話術師の能力なのかい? ノーマークだったよ。ボク以外は戦闘不能になってしまったけど、状況はボクの有利に変らないね』


 先輩もダイコンも致命傷は避けたようだけど、ボロボロだ。


『しょうがない、国王から伝授された『とっておき』を出そうかな。技名は……なんとかオフ? ま、かけ声なんてどうでもいいか』


 先輩に化けたダイコンが大地を踏みしめ気合いを入れると、身に纏うミニ浴衣が四方に破れ飛び、一糸まとわぬ姿となる。


「な、な、なんだよ! ふざけんな! モリサギはコッチ見るな!」


 自分の姿で堂々と裸体をさらされ、狼狽える先輩。ありゃあ、伝授してないのも当然だ。一応良識あったんだな、国王。


『一対多の状況で、数秒敵を足止めする効力を発揮する技なんだ』


 目の前でいきなり全裸になったら、そりゃあ唖然と立ちつくすわ!


「お前、服着ろ! 服っ!」

『イヤだね。キミには効果バツグンのようだし』


 指の隙間から先輩がガックリうなだれる姿が見えた。


『おや? 戦意喪失かい?』


 違う。キレイなアゲハ盛りを解いているもの。


「とっておきがお前だけと思うなよ」

『ボクにブラフは無駄だよ。キミも国王もコピー解析済みだから、奥の手が無いのは分かってるんだ』


 よつばさんに一度も会っていないダイコンなら無理もない。決着ついたな。


「……大いなる猛威氾れ、地が唸りを上げる夜」

『なんだい? 念仏なんか唱えて』


 そんなわけない。俺の聞いたことの無い詠唱、たぶん先輩も国王にナイショの技があるんだ。


「緑の風が嵐呼ぶ……エメラルド・ビーム」


 え、ビーム? よつばさん、ビームって言った?


『辞世の句は終わ……グフッ!』


 ダイコンは気づいていないようだが、本来の野菜形態に戻った身体のあちこちが円形に貫通して、向こう側が見えている。身体の半分はもっていかれただろう。

 これまた、いつの時代も女の子の裸をみたペナルティって割に合わないよね。


『な、なんだコレは! こ、こんなハズじゃ……』

「言ったろ? とっておきだって」


 雑に髪を纏めたミツバ姐さんが勝ち誇る。


『しかたないですね。ボクはここまでのようですが……アナタは脅威だ。最後の手段で相打ちにさせてもらうよ……』


 そう言うと、ダイコンは頭の茎から『下ろし金』を取り出し、自身を削り始めた。


『知っているかい? ダイコンはすりおろすと味が出るのさ。どんなダイコン役者でもね』


 あっという間に大量の大根おろしの山が完成し、異様な静寂があたりを包む。


「先輩、大丈夫ですか!」


 駆け寄ってみると、先輩は想像以上に傷だらけだった。俺にもっと力があったら……


「あぁ、モリサギ。だい……そうか。じょうぶじゃない、支えてくれよ」


 変な間があったな。意外と大丈夫そうで良かった。一息ついたのも束の間、大根おろしの山とビームでくり抜かれたパーツが発光し、五体の巨大なドラゴンへ変化していく。そこにはアクター桜島の意思が感じられない。命と引き替えの変化技なのだろう。


「クソッ! とんでもねぇ置き土産しやがって!」

「でも、まだ自由に動けないみたいですね」


 敵味方、動ける者はちりぢりに逃げ、プロミディアさんから大ダメージを受けた有志兵団メンバーを先輩と俺と留奈モードのピョン子が安全な場所へ運ぶ。


「さて、モリサギ。こいつらどう料理すっかなぁ? デカすぎてどっから手ぇつけていいやら」

「ダイコンは捨てる所がないって見本ですね。ホント、どうしましょうか……」


二対五。ピョン子も先輩も基本タイマン勝負に特化した戦闘スタイルだ。よつばさんが詠唱中は無防備になるし、一体は防いでも四体が俺とよつばさんを攻撃するだろう。八方塞がりだ。

 そんな時。

 城門を打ち破って、俺達の後ろに横付けしたライトバーン。スライドしたドアからドレス姿の鳩野さんが優雅に降りて来て。


「遅いですよ、杜鷺君。私、迎えにきちゃいました。まだその暴力姫たらし込めていないんですか?」

「たらし込むって……」


 鳩野さん、言い方。俺の表情を読み取ったのか、うんうんと頷いた。


「まだデレさせていないんですか!」


 え! そっち?


「あれ? もしかして、いいタイミングです?」


 五体のドラゴンを前にして落ち着きはらう鳩野さん。


「まだ戦力不足かな。せめてあと霊仙寺がいれば……」

「心外ですね、杜鷺君。私、そんなに頼りないですか?」


 可愛くプゥと頬を膨らませられましても。相手が男子なら萌え殺せるでしょうけど。


「そ、そうじゃないよ!」

「まぁいいです。コレ付けるので、ピョン子さんは脱兎していて下さい。アレ、倒しますよ」


 渋々脱兎したピョン子を確認すると、鳩野さんは俺の右手、フニャフニャのピョン子本体に赤いガントレットを装着し、左手の中指に大きな紅いハート型の宝石を埋め込んだ指輪をはめてくれた。


「これって……」


 記憶に間違いがなければクアドラの初代ヒロイン、『クア・ポロン』の変身アイテムだ。


「それがスペード国の条件です。さ、変身してください」


 鳩野さんも俺と対になるように、青系のガントレットを左手、青い指輪を右手の中指にはめる。こちらはもう一人の初代ヒロイン、『クア・ルテミス』の変身アイテムだ。


「へ、変身?」

「なに驚いているんですか。当然知ってますよね? 早くしないとドラゴンが」


 いや、知りすぎてますけども。なに考えてんだ、スペード国!


「わ、わかったよ。……クア・ポロン!」


 左手の指輪が右手のガントレットの窪みへ嵌るようにポーズをとり、変身コードを叫ぶ。

 次の瞬間、俺の身体が光りに包まれた。劇中の変身シークエンスを思い出すと誰得なんだと疑問が生じるが、考えたら負けなのだろう。


「真っ赤な炎はル……」

「あ、杜鷺君。名乗りは結構です」


 あれ、今の俺の声は……自分の身体をよくみれば、白く細い指。驚くべきは抜け殻ピョン子のはずの右手が左手同様、華奢な五指へと変貌している。足を確認しようと視線を下げると、あるはずのない双丘が視界遮っていた。


「女の子になってる!」


 俺の声はやっぱりクア・ポロンの声になっていた。顔は確認できないけど、輪郭をなぞった手触りから長年の勘で全身ソレと理解する。


「杜鷺君。サマになっていますよ」


 鳩野さんが俺の左側に並び立ち、五体のドラゴンに顔を向けたまま俺に話しかけてきた。


「私が攻撃魔法を使えないと思っていますね? 確かに私だけでは無理ですが、『二人』なら。杜鷺君のその姿でこの意味、分かりますよね」


 そんな気はしていましたが、そうなんですね。


「あの技、だよね?」


 クアドラの初代ヒロイン二人の決め技。


「ええ。この魔法は二人のイメージが一致していないと発動しません。勝利までのイメージは出来ていますか?」

「も、もちろん!」


 カット割りまで完璧ですよ?


「紅音、どうするつもりだ? モリサギをコスプレってか、女の子に変えて!」

「杜鷺君と二人でドラゴン退治ですが、なにか?」

『ガオォォォン!』


 五体のドラゴンが完全に覚醒し、吼える。


「さ。私、もう引きませんから杜鷺君は八年前のようにノリノリで構いませんよ」

「八年前のようにって、まさか」


 大技の予備動作。鳩野さんの右手が俺の左手を握ってきたので、俺も握り返し、そのままドラゴンに向けて突き出す。


「昔、一緒にたくさん練習しましたよね。忘れたんですか?」


 マジか! 夢で見た想い出の女の子って、実は鳩野さん?


「もしかして八年前、河原で……」

「ちゃんと覚えてるじゃないですか、良かったです。時間も無いのでいきますよ!」


 あれ? じゃあ、琴宮先輩との記憶って? いや、今はドラゴン退治に専念だ。まずは鳩野さんの詠唱から。


「乙女の呪は血。命を捨てて」


 横目で見た鳩野さんは、少し頬を赤らめていた。次は俺が唱える番。


「逝く娑婆に咲く百の華!」


 手をつないだ二人の指輪にガントレットを当てて、魔力をチャージ。


「ルベライト・トルマリン・クラッシュ!」


 二人同時に叫ぶ。

 ぎゅっと握った二人の手から、赤と青のオーラが絡み合って勢いよく打ち出される。その魔力の帯は絶え間なく伸び、クラブ城の上半分を巻き込んでドラゴン五体を薙ぎ倒す。返す刀で一文字に上下両断された五体のドラゴンは、赤紫の炎の中に崩れ落ちる。


「ま、こんなもんですか。久し振りでしたけど、息ピッタリでしたね」


 はにかんだ笑顔を俺に向ける鳩野さん。

 消し炭と化したドラゴンが燻り、焼け野原となった戦場をみつめる琴宮先輩とクラブ国民は安堵の息をついていた。

 こうして俺達は贖罪の四天王から二勝目を掴み取った。

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