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「イタタタ…… ひどいじゃないですかぁ、勇者様」
結構本気のゲンコだったにもかかわらず、初回のコブの上にもう一つふくれただけだった。
「こたえてねぇなぁ……」
「お腹がすいてるから乱暴になるんですよぉ」
「メニュー通りに普通のケーキ出してりゃこうはならねぇよ!」
「ゆる〜いスイーツなんて虫唾が走るんですよ、なんなんすかスイーツて! パンケーキ? は? 見た目ワクワクしないんですよ!」
肩をすくめ悪態をつくアンナ。
お前、スイーツで何があった…… おいしいだろ、パンケーキ。
「ピョン子よ、お前がついててなぜ止めねぇんだ? こうなるから見張らせたのに」
「だってお昼ごはんなんでしょ? アンタ『かつ丼』とか好きじゃない。私のニンジン料理がまともなら文句ないわ」
精進料理とカツ。正論ちゃ正論だが所詮はウサギ脳か……
「いいかピョン子。ニンジン料理と称してパースニップ食わされたらどうよ?」
「ブッ殺す」
「目の前の女はそういう奴だ」
一瞬だけ空気が張り詰める。
直後、ガシャーンとアクション映画のごとく窓枠ごとガラスを突き破り逃走するアンナ。
「パースニップだったな……」
このあと、ローザを通じて『侍女ケット組合』にクレームを入れると、三分も経たずにコブの大きさも数も倍以上になったアンナが侍女姉さんに担がれ戻ってきた。
ゴトンとぞんざいに落とされたアンナはずっと目を回している。
「いやぁ〜皆様、この度はウチの社員がご迷惑をおかけして本当に申し訳にゃいですにゃ」
方言丸出しの侍女姉さんが深々と謝罪する。この度というより毎回なんですが…… 俺達以外、客がいなかったのが救いかな。
「この子、侍女スペックは高いんですけにょ、ボケ倒す傾向がことのほか強いにょですにゃ」
確かにこの短期間でかなりつっこんだ気がする。
「ランチはわたしが作り直しますにゃ。しばしお待ちを」
ブフィ祭準備期間のため、アンナの働くカフェは開店休業に近く、切り盛りを任されたアンナに代わって侍女姉さんが厨房に立ち、俺達はカフェ相応のお洒落なランチを食べることができた。
「静かで良いんだけど、アンナは大丈夫なの?」
「見た目より全然タフにゃんでおかまいにゃく〜。でもまぁ食べ物の恨みは恐ろしいと言いますしぃ、リーザ様の無念だけでもきっちり清算しときましょう」
ゆるい口調に笑顔が恐ろしい。
「清算て……」
「わたしのスコヴィル値は220万です」
演技がかった口調の侍女姉さんが手にした皿には毒々しい真っ赤な山。ひとつひとつがニンジンを圧縮したような形状をしている。
「キャ〜ロライナァ〜ッ! リィ〜パァ〜ッッ!!」
アンナの気道を確保し、マヌケに開いた口へザラザラと流し込んでいく。
「必殺技っぽく叫んでますけど唐辛子ですよね?」
しばらくしてケロッと身を起こすアンナ。世界トップクラスの唐辛子は気付け薬程度にしかならなかったようだ。
「なんだ、ニンジンあるじゃないのよ」
厨房を漁っていたピョン子が手に持っているもの。
「まてピョン子! それは……」
「ドラゴンズ・ブレスですにゃぁ」
「なんで危険な香辛料ばっか品揃えがいいんだよ、このカフェ!」
このあとのベタな展開が目に浮かび、うんざりする俺だった。
次回更新は12月28日前後の予定です(1月初旬の可能性もアリ)。




