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「しかしどうしましょうかねぇ、勇者様。なにひとつ解決していませんよ?」
こうも空振り続きなのは単に運が悪いのか、慧依子先輩のステータスゼロの効果によるものなのか…… その両方だろうな、うん。
「何ニヤニヤしてるんですか、気持ち悪い」
自然と諦めの笑みがこぼれていたようだ。
「どうにもならない壁にぶつかったら力無く笑うしかないだろ」
「ですから何度も言うようにその壁を越える努力をしてくださいよぅ。どうせできっこないですけどぉ」
マンガやアニメの主人公ならともかく、アンナの言うとおり俺には無理だ。
「実際、本来の意味で普通の高校生だからな」
「うぁ……切ないですねぇ。エルマナ全土に散らばる勇者の慣用句なのに」
どうせ「持つ者」が自信に裏打ちされながらも保険のため使ってんだろ、ちくしょー!
「俺だって安全が保証されてりゃ言ってみたいセリフだよ」
魔王軍が発生していた近年までは、チート級能力をもらった勇者達が自己紹介によく使っていたと聞く。
「壁を乗り越えないまでも、せめて何かしらありますでしょ? ホラ、我らが勇者様ならではの何かが」
俺ならでは……か……前に『気持ちだけでもがんばる』って言っちゃったしなぁ。
「……よし! 無理に壁を越えようとせず、外周の抜け穴を這いつくばってでも探すぜ!?」
「いやん、清々しいクソッぷり! まぁ一番お似合いのスタイルですがね」
呆れ顔のアンナがギリギリ認めてくれそうな俺なりの方向性。
「ダメ人間の自覚があるからな。じゃあ妥協点の確認だ」
アンナを煙に巻こうと勢いで両肩を掴み、インファイトに持ち込む。
「だ、妥協点ですかぁ? ちょ、近いですよ」
「残り時間の少ない俺ができる最大譲歩は『表面だけでもリィザの「勇者さま像」が壊れないよう、全力の他力本願で動く』だ! 何言ってるか分からない? 正解だ、俺もよく分からねぇ! が、そんなコンセプトでお願いしますっ!!」
「は、はぁ……」
理解が追いついていないアンナとパチクリ見つめ合うこと数秒、絶妙のタイミングで侍女さんが昼食を運んできてくれた。
「お役に立てるかわかりませんが、心を込めて調理しましたので皆さんお召しあがりください」
「「「いただきます」」」
テーブルに並んだニンジン中心の料理は、見た目もさることながら嗅覚からも食欲をかきたててくる。
「おぉ、さすが侍女さん」
「先輩マジリスペクトですぅ!」
入ったことないけど一流ホテルの味だ! これならピョン子だって!
「このほぉじゅんなにくじるとほわいとぺっぱぁのはーもにーが……」
ああダメっぽい! コイツは大体こんなだが、なんかダメっぽい!
「お肉もホワイトペッパーも使っていないのだけれど……」
侍女さん落ち込まないで、あなたのせいじゃないです!
「自信を持ってください! 超絶美味しいですからっ! 毎日作って欲しいくらいです!」
あーもうどうしたらいいんだ。
「も、杜鷺様。プロミディア様にご相談してみるのはいかがでしょう?」
「うわ、先輩の緩んだ顔初めて見ました。やりますね、勇者様」
よく見る優しい笑顔だけどなぁ。
「そうか『脱兎』の能力はプロミディアさん発祥だから……」
俺が繰上転職でもらうはずだった夢のチート能力を、目の前のバカウサギに横取りされなきゃこんな苦労しなくていいのに。
今度こそ最後の望みをかけてプロミディアさんに会いに行く事になった。
これで解決できるといいなぁ……
次回更新は9月19日前後の予定です。




