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早朝から道なき道を行くこと約半日。目的地らしき場所に着くには着いたが。
「勇者様、ココじゃないですか? それっぽい『いわや』とかありますし」
若干拓けた緩い斜面へ抜けると、アンナの言うとおり正面にそびえる山腹に怪しい岩穴がある。
「確かにソレっぽいな」
大きく口を開けた洞窟は大型トラックが余裕で進入できるほど広い。
「なんか件の老人かモンスターの住み処の二択って佇まいだな」
自然に出来たであろう洞窟ながら生活感が漂っていた。
「中は薄暗くてよく分かりませんねぇ」
入り口付近に転がる大岩の陰から様子を伺うアンナ。
ここまで野生動物は見かけたものの、モンスターとは一度も遭遇していない。
「ピョン子、何か聞こえるか?」
いくら記憶喪失で自分がウサギである事すら忘れているとしても、聴覚まで影響があるとは思えない。
「ごめんなさい、私もよく分かりません……」
申し訳なさそうにしゅんとして俯くピョン子。影響ありまくりか! まぁカワイイから許す。
「ホラ、勇者様! このままじゃ埒があきません、Goですよ! 突るがいいです」
いい笑顔で言われてもなぁ。無策で凸るなんて死にに行くようなもんだ。
「命がいくつあっても足んねーよ」
「虎穴に入らずんばズビズバって言いますでしょ?」
「ズビズバ言わねぇよ! 後半間違ってるし」
まぁ言いたいことは伝わるが…… いや、伝わるのかこれ。
「まったく安定のヘタレですねぇ」
「装備が万全なら俺だってこんなビクビクしたくないさ」
丸腰だからな? 俺。
「蒸し返すがアンナよ。俺の現状、丸腰なうえ女子制服なんだぞ。色々がんばってんだろ! なにがんばってんだか俺自身サッパリだけどな!」
「山ナメんなって出で立ちですよね。バカなんですか?」
俺も今となってはどうしてこうなったか分からん。
そして数十分にわたる押し問答の末。
「ハァー……もうわかりましたよ、モンスターにしろスケベジジイにしろ勇者様が喰われたとあっては寝覚めが悪いですからね」
なんらアクションを起こさない俺に愛想尽かしたアンナは、すっごいダルそうな顔と背中でトボトボ洞窟に入って行った。
「定年間近のサラリーマンでもあんな疲れた後ろ姿してねぇだろ……」
ピョン子と二人、洞窟の入り口で待つこと数分。
「やべぇです勇者様! ズビズバ、ズビズバ発見ですぅ!」
アンナの姿は見えないが、暗闇に反響するマヌケなこだまを聞くにモンスターではなさそうだ。
「彼女どんな虎児を得たんでしょうか……」
ピョン子が心配そうに洞窟奥へ目を凝らす。
「お前よくズビズバ=虎児って理解できたな」
暗闇に揺れる人影。それは老人を引き連れ、洞窟から意気揚々と帰還するアンナだった。
「騒々しいのぅ。いったい何事じゃ」
グレーの質素なローブを纏った、いかにも仙人ですって感じの人。獣のようなヒゲを蓄え、少し長身で思っていたより若く見えるのはダイバーだったからなのだろう。
「実は……」
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「なるほどのぅ。事情はわかったが、あいにくワシは記憶喪失を治すすべを知らぬ」
この残念な結果は蓄積された疲労を抑えている僅かの気力を打ち砕き、俺を膝から崩れさせた。
「まぁそう気を落とすな若者よ。この娘の治療は出来ぬが、異世界を生き抜くための修行ならばつきあうぞよ?」
「あ、ありがとうございます!」
大量の駆け込み仕事に忙殺され更新予定日より大幅に遅れてしまいました。
次回更新は8月30日前後を予定しておりますが、執筆時間が取れるか微妙なところです。




