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背中から抱え込んでいるピョン子を回れ右させたマミさんは、おもむろに手刀を振り上げ、迷惑そうな愛想笑いを浮かべるピョン子の脳天へと振り下ろす。
「ここんとこをやく60度の角度でなぐるのがこつよ」
「ピぎゃっ!」
久しぶりに聞いたピョン子の悲鳴。ってそれどころじゃねぇ!
「あんた開幕からやってくれるな!! 大丈夫かピョン子!」
「〜〜〜〜〜」
小さな両手で頭頂部を押さえ無言で転がり回るピョン子。
「あれぇ治らない?」
昭和のテレビじゃないんだから……
結果に納得いかないらしく、ブツブツ言いながら首を傾げ手刀の素振りをするマミさん。角度の問題でもねぇから。
「うぅ〜〜〜〜」
涙目で俺の後ろに隠れるピョン子。これは早めに立ち去った方が賢明だな。
「鳩野さん。来たばっかりだけど、ピョン子がこんな状態だからおいとまするよ」
「そうですね。そんな精彩に欠けた可愛いだけのピョン子さんでは拍子抜けですから」
腰を屈め、腑抜けピョン子に目線を合わせる鳩野さん。気持ちを切り替えたのか、一心不乱に手刀の角度調整をするマミさんへ振り返ると小さな溜め息を漏らす。
「お見送りは出来ませんがお気を付けて」
そう言うと俺達に背を向け、毒手と見まごう禍々しい魔力を右手に纏い未だ素振りを続けるマミさんの方へ歩き出す。
一歩ごとに右手の魔力が増しているようで、俺が退室間際に見たソレは数倍の厚みに達していた。
城門前へ出ると、送迎のため執事さんがライトバーンで待機していてくれた。
俺達が乗り込んだライトバーンの車内にまで轟くマミさんの断末魔を背にハート城を発つのだった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
久しぶりに戻った我が家。曜日の感覚がマヒしていたが、ドアを開けるとリビングの方から笑点のテーマが聞こえてきたので日曜夕方なのだろう。
一刻も早く着替えたい俺は、女子制服姿の俺に戸惑う妹にピョン子とアンナを任せて自室へ直行する。
俺が留守がちなのをいいことにほぼルビーナの部屋と化した牙城は以前より小綺麗に整頓され、ルビーナ特有のフルーティーな柑橘系フェロモンが充満していた。
「あいかわらず私物少ねぇんだな」
日用品以外は基本ハート城の自室に置いているようだが、三段プラチェストに入った俺の衣類がヤツの下着類と同居してる状況はどうなのよ?
コンパクトに畳まれたルビーナのブラとパンツをかき分け、自分のくたびれた部屋着を引っぱり出す。
若干ルビーナの移り香が気になったが、女子制服のままよりは断然いいだろう。
なつかしの安いスエット上下に着替えた俺がリビングへ戻ると、行儀良くちんまりと正座するピョン子が仲間の縞ウサギ達に囲まれていた。
可憐なお姫様が森の小動物と戯れる童話のワンシーンみたいな光景。
「あ、フウマさん! 見てください、可愛いウサギさんがこんなに沢山フフフッ」
ピョン子と分かっていても、留奈ちゃんの姿で天使のような振る舞い。お前から「フウマさん」なんて初めて呼ばれたわ。
「もうお前記憶戻らなくてイイんじゃね?」
長老をはじめ、仲間の姿を見てもなんら記憶に刺激を与える事はできなかったようだ。
「オーナー……ミリィのヤツぁはどうなっちまうんでしょう?」
俺の頭上に乗ったベテラン縞ウサギが心配そうに聞いてくる。
「俺にはさっぱりだよ。エルマナに動物病院的な魔物専門の医者っていないのか?」
首狩屋の長老を抱き上げ尋ねてみる。
「基本ワシら魔物は殺るか殺られるかですからのぅ。医者にかかると言う発想がないのですじゃ」
殺伐としたシンプルな世界の住人達。見た目こんなキュートなのに。
気の利く妹がお茶の用意をし、杜鷺家リビングがいよいよウサギカフェと化した頃、アンナが口を開く。
「医者ではないですけど、心当たりならありますよ?」
次回の更新は7月20日前後の予定です。




