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3-2-4

「何かもめごとかい? イザベラ」


 俺達が階段中腹でたむろっていたため、気がつけば通行の妨げになっていたようだ。


「レンガーノさまぁ! いえ、噂のハート国勇者様にご挨拶をしていただけですわ」


 階段のふもとを見れば、オカッパで利発そうな男の子を先頭に、数人の男子がいる。


「貴女が勇者モリサギでしたか。兄やリィザから聞いていたイメージと違うようですが……」


 まぁ今は静香でも俺でも、ましてや沢山の尾ヒレがついたハート国勇者でもないからな。キレイな静香を演じている状態で、どれにも当てはまらないはずだ。


「あ、申し遅れました僕はブフィリハム・レンガーノ。貴女とトラブルになったブフィリハム・ワラーノの弟です」


 小さいのにしっかりしていて、礼儀正しいお坊ちゃんだなぁ。あのブタ王子の弟にしておくにはもったいない。あぁ、彼がリィザとクラスメイトの子か。


「よ、よろしくね」


 背丈が俺の半分くらいしかない集団に囲まれる中、軽く握手を交わす。


「噂がどうあれ、機会があれば一度お手合わせ願いたいと思っていました」


 マンガやアニメでよくあるセリフだ。本心か社交辞令か判断の迷うところ。


「レンガーノさまは百年にひとりと言われる天才! 初等部のエースですのよ?」


 ふふんと鼻を鳴らすイザベラをはじめ、彼女の取り巻きも瞳をハートにしてレンガーノ君に熱い視線を送っている。


「僕なんかまだまだだよ。兄の攻略法は見つからないし、一対一ではローザ様にも勝ててない」


 兄と正反対の神童。ほんとにブタ王子と兄弟なの?


「ですが次の合同演習は負けませんよ、ローザ様」


 ローザへ歩み寄り、手を取るレンガーノ君。ふたことみこと交わすと一礼し去っていった。


「そういうことですわ、リィザさん。せいぜいローザ様の足手まといにならぬよう、お気をつけあそばせ」


 涙をこらえ、子犬のようにふるふるしているリィザ。


「レンガーノさまぁ、お待ちくださぁーい! わたくし達もおともしますぅ」


 意地悪な小悪魔の顔から清々しいほどの媚びた表情に豹変したイザベラは、女の子走りでレンガーノ君を追って行った。


  ■   ■   ■   ■   ■   ■   ■   ■  


 俺達が弁当を広げたのは、中庭の片隅にある老朽化した石造りのあずまや。

 食堂や小洒落たカフェもある大きな冒険者学校。中庭だって見回せば快適なスポットがいくつもあった。

 リィザがウソつきのレッテルを貼られてからというもの、人目につかない所で姉妹二人、ひっそりと食事をしていると言う。


「わたくしと一緒にいたら姉さまも白い目で見られますわ……」

「気にしなくていいのよリィザ」


 互いを気遣い、幾度となく同じようなやりとりをしていたであろう二人。しかし、ローザが幼い妹を放っておける訳もなく、こうして昼は姉妹一緒に過ごすのが日課になっていた。


「ごめんなさい、勇者さま……もっとステキなかふぇとかありますのに……」


 イザベラと会ってからこっち、いっこうに表情の晴れないリィザ。


「俺は騒がしいの嫌いだし、ここは静かでいい場所だと思うよ?」


 こんな美少女ふたりと一緒なら場所は関係ないだろう。


「ヘタレですねぇ、勇者様ぁ!『こんな美少女ふたりと一緒なら場所は関係ないさ!』とか言ってやりなさいよぉ!」


 俺の心を正確に代弁したアンナが、無造作に垂れ下がる蔦のれんを器用に避けて入ってきた。


「これは私からの差入れですよぉ」


 両手に乗せたトレーの片方を俺に預け、滑らかな石テーブルの上に紅茶とカワイイデザインのケーキを並べていくアンナ。


「ありがとう、アンナ。気を遣わせたわね」


「いえいえ、これくらい。勇者様の奢りですからぁ」


 初耳だよ。べつにいいけど。


「なーにジロジロ見てんですかぁ、勇者様」


 眼で抗議してんだよ、のれんに腕押しなのはわかっててもな!


「カフェ制服姿の私にムラムラきちゃいましたか? 勇者様の制服丈とイイ勝負ですもんねぇ」


 見えそうで見えないフリルのスカートでクルリと一回転するアンナ。

 どうやら校内カフェの制服のようだ。似合ってるのは認める。普段アンナが着ているメイド服に、アイドル要素をふんだんに取り入れた感じだ。


「なんかあざといな」

「男子生徒には人気あるんですがねぇ。ホラホラ奢ってもらった分はサービスしますからぁ」


 横座りで膝に乗ってくるのはどうかと思うが。ミニスカート同士のため、ダイレクトにアンナの腿と魅惑の布地があたり狼狽えてしまう。

 冷静さを失っている俺とは反対に弧を描いた目で冷笑を浮かべるアンナ。


「では野菜サンドから『あ〜ん』いきますか。ホラ、あ〜ん」


 悪意を感じる。


 だって『あ〜ん』の手つきじゃないですもん。

 ゼロ距離で砲丸投げのモーションですもの。

 野菜サンド一切れでなく、一斤のボリュームですもん。


「おまっ、ふざけ……」


 一斤とはいえ、具も含めればそのボリュームは倍以上だ。

 見上げる先には、反り返った野菜サンドがミスターNOのごとく左右に揺らめいていた。


「もがっ!」


 誘惑するお姉さんのように首の後ろへまわされていたアンナの手が俺の後頭部を固定し、上段より口めがけて放たれたシャイニングフィンガーをくらう。

次回更新は6月5日前後の予定です。

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