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3-1-3

 万事休す。マヌケな姉の姿に唖然とした俺は出て行くタイミングを失う。もとよりこの状況で出て行っても好転などしないが。


「どう助け出せばいいんだ? ってか、静香どうなっちゃうの?」


 オロオロする俺。


「王子殺しの現行犯ですからねぇ。まぁ王子は生きてるんですけども。ホラ、あそこ」


 警備兵の一団を指さすアンナ。その最後尾に、煌びやかな出で立ちの男が一人。年の頃は二十代後半、恰幅がいい……というよりデブって表現がピッタリくる感じだ。少し癖っ毛の金髪を弄りながらイヤラシイ笑顔を浮かべ、静香をからかっている。


「そう! アイツ、アイツ! なんかヘンな技使うの」


 俺の頭の上に陣取っているアーシャが、もふもふの両前足で瞼をペシペシ叩いてきた。


「痛っ、そんな興奮すんな」

「ところで人間。ワタシのお姉ちゃんはどうしたのよ?」


 頭上から肩伝いに、右手の抜け殻ピョン子へと移動するアーシャ。


「気がついたら抜け殻だったんだ。脱兎しているなら500m圏内にいると思うけど……って、待て待て、行かせねぇよ?」


 今、アーシャにどっか行かれるのは非常にマズイ。


「邪魔しないでよ人間! ワタシはお姉ちゃん捜すのぉっ!」


 飛びだそうとするアーシャの首を仔猫のように摘み上げる。


「悪いが俺の用が済んでからにしてくれ。正直、頼れる戦力がお前しかいねぇ」


 これまでの経緯をざっと説明し、俺の無力な現状を伝える。


「ホント、お荷物なのね! 高いわよ」


 報酬は後日思いのまま、という事でなんとかアーシャを雇った。


「リィザ様ぁ? あの方がお義姉さんですって、救出して点数を稼ぎましょう! 私も全力で応援しますからっ」


 Go!Go! と、リィザの後頭部スレスレを卓球のフォームで斜め下から小突くアンナ。『おねえさん』のイントネーションが気になるが、


「アーシャ、まずコイツを黙らせろ」


 アンナの言葉半分も理解していないであろうリィザは、時折擦るバカ侍女の手の平につんのめりながらも、乱された後ろ髪を整える。


「勇者さま、安心して? わたくし、リィザがお願いしてきますわ」


 アンナの後押しと俺の期待に応えるべく、健気にもその一歩を踏み出そうと扉を押し開いたのだが。


「ブフィリハム王子、この騒ぎは何事ですか」


 王子一行が邪魔でよく見えないが、進行していた先には大広間があり、その両脇にある緩やかな階段あたりから凜とした声で女性の一喝が響く。


「ぶヒャヒャヒャ、これはこれはローザ様。すっかりお淑やかになられてぇ〜、大剣を振るわれていた頃よりもステキですよぉ〜?」


 最後尾にいたブフィリハム王子が下卑た笑顔で先頭に立ち、段上の女性と対峙する。


「よし、今だ」


 俺達はその隙にコソコソと王子一行の最後尾へ付く。


「ところで勇者様、私達はもうコソコソ動く必要ないのでは?」


 確かに。数メートル先で、無様に両手足を縛り上げられた容疑者・静香が棒に括られているのだ。


「そうだな。アーシャ、ちょっと我慢してくれ」


 機能しない燕尾服を脱ぎ、アーシャごと抜け殻ピョン子に巻き付ける。これで顔以外は王子殺しの犯人と類似点は無いだろう。まぁ、一番隠さないといけないパーツだけども。


「ちょっ、人間! 苦しっ、くーるーしーいーっ!」


 アーシャが何か文句を言っているようだが、高い声に加え、くぐもっていて良く聞き取れない。うるさいので鼻先だけ出してやる。


「もしかして、あの人はリィザのお姉さん?」


 白の清楚なロングドレス姿で、横柄な王子に毅然と応対する女性。


「はい。ローザ姉さまです」


 眉をしかめ、心配そうに姉と王子のやり取りを見つめるリィザ。


「その方はハート国の……」

「ぶヒャヒャ、そう! ローザ姫。ミケーニャ帝国から貴女を救い出したと言うアクセシアンです。僕も一度お会いしてみたかったんですよぉ〜」


 ブフィリハム王子の演技がかった不遜な態度は、アクター桜島を想起させる。無意識かどうか知らないが、相手をイラッとさせるには効果的だろう。


「ホラ、『勇者さま勇者さま』ってウルサイ妹君のリィザと、僕の弟は級友だろぉ? 可愛い弟にデマを吹き込まれると迷惑なんだよぉ〜」


 ギュッと俺のズボンを掴むリィザの手はプルプル震え、大きな瞳はこぼれ落ちそうな涙で潤んでいた。

更新間隔は一週間〜10日の予定です。

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