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「まずは王様にご挨拶かな……リィザ、王様の所へ案内してくれるかい?」
抱えていたリィザをおろし、プロディちゃんや妹が小さい頃の感覚で無意識に手を差し出してしまった。
「こっちですわ。勇者さま!」
あわてて引っ込めようとしたが、リィザの小さな両手に捕まえられた俺は、散歩主導権を犬に取られた飼い主がごとく引っ張られていく。
下へ降りていくにつれ、鎧を着けた人が増え、厳しい顔で城内をチェックしていた。
「いつもこんな緊張した感じなの?」
巡回と言うには人数も多く、せわしない。実はこれが普通で、ハート国はじめ俺の知っている国が変なのだろうか。
「そんなことないですわ。何かあったのかしら」
俺達を気にとめる事なく小走りで行き交う兵士達。
ふと、その波が途切れたタイミングで、10mほど先に飾られた美術品の陰から高速で飛び出してくる物体があった。
一直線にこちらへ向かってくるサッカーボール大のソレから、咄嗟にリィザを庇う。
「うプぁっ!」
俺の顔面めがけ、結構な勢いで貼り付いたモノ。触った感じは、馴染みのあるフワフワで柔らかな毛玉。引き剥がして見たその正体は。
「アーシャ!?」
古いバンダイロゴ状態のアーシャは手足をジタバタさせる。
「ドコ掴んでるのよ! あいかわらずヘンタイね……って、それどころじゃないわ。人間、あんたには頼りたくないんだけど、まずは隠れてっ!」
かなり焦っているご様子。
「そう言われてもなぁ」
案内されている身の俺としてはフロア配置図などわかるはずなく戸惑うばかり。リィザは表情を曇らせ、不安げだ。アーシャを抱えてキョロキョロしていると。
「こっちですよ、勇者様」
大きなメイン通路からは死角になる弧を描いた細長の廊下から小声で手招きするアンナの姿があった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
アンナの機転で、薄暗い物置部屋へと身を潜める俺達。
「アーシャ、お前なにしでかしたんだよ? 城内ただごとじゃないぞ」
耳を捻りあげ、精一杯の虚勢で「あ〜ん?」と凄んでみる。
「イタイ、イタイ! ワタシじゃないわっ、コッチは被害者なのよ? 文句なら、あんたの姉に言うのねっ!」
「静香もいるのか!? なんで……」
弛んだ俺の手に耳ビンタを入れ、フンッと仁王立つアーシャ。
「知らないわよ。ワタシはラビ庵でシズカにマッサージしてただけなんだから」
話が見えねぇ。
「アンナ、なにがあったの?」
小さいのに頼れるリィザ。手引きしてくれたアンナに事情を聞いてみる。
「はぁ。なんか、全裸に白ガウンの痴女がブフィール国のボンボン王子を殺ったとか」
白ガウンの痴女……あー、施術中だったからか。
「って、殺っちゃったの!?」
「シズカを擁護するつもりはないけど、ケンカ吹っかけてきたのは向こうよ?」
王子殺害犯人として追われてんのかよ……
「ドンマイ! 大丈夫ですよぉ、勇者様。あのブタ……ハム王子は絶対死にませんから。私は死んで欲しいですケドね」
頭をかかえる俺の背を優しくポンポンするアンナ。
「死なないって、どういう事? 殺ったってハッキリ言ったじゃん」
「あー、豚……ブフィリハム王子はチート級の能力を持つS種の魔物と契約してるんです」
ちょいちょい王子ディスってくるな。
「S種って、久しぶりに聞いたよ」
死に設定じゃなかったのか。
「ぶっちゃけ、あのブタ王子は不死身なんですよぉー。幸か不幸か、ストレンジカードさまさまですよねっ」
堂々ブタって言っちゃった。今そんな事はどうでもいいが。
「身内から殺人者が出なくて良かったと言うべきか……詳しくは直接聞いた方がいいな。静香はどこにいるんだ?」
合流するなら早いほうがいい。
アーシャのナビで静香の潜伏先へ向かおうとドアの隙間から外の様子を伺えば。
「だーしゅーけーでぇーーー!!」
棒に吊され、罠に掛かった動物状態の静香が屈強な兵士達に取り囲まれ横切っていった。
「…………」
マジやべぇ。




