シーズン3 第1章
「あら、勇者様。お目覚めですか?」
俺に容赦ない一撃を食らわせたアンナが、悪びれた様子もなく、すまし顔で入室してきた。
装備ゼロ。正真正銘、無力すぎる高校生の俺は、まだ痛む鳩尾を庇いながら後ずさる。
「なに警戒してんですかぁ。そんなにオドオドされたらキュッてしたくなっちゃいますよぉ」
こわいこわい! 俺より小さくて年下か同年代にしか見えない女の子なのに、ドス黒いものが凝縮されてる感じ。クロハさんのケースと似てるけど、今回頼れるのは我が身ひとつ。
「ホントに勇者なのかアヤシイですねぇー。ほら、異世界の勇者といえば『チート能力』とか貰えるのでしょう? 私、見てみたいですぅー!」
コイツ、わざとらしい笑顔でクネクネしやがって。俺が無力なのを知った上で無茶振りしてるな……
「はいはい、リィザ様も寝たふり終了ですよー! あーあーヌイグルミなんか抱いて小賢しいですねぇ」
寝ボスケ小学生を起こす母親の手際でリィザを叩き起こすアンナ。リィザってお姫様なんだよなぁ? 扱い雑すぎるだろ……
「……んぁ。アンナ? あれ勇者さまは? わたし看病していたはずだったのに」
「リィザ様、マジで寝ていたんですか!? 私、リィザ様が存分になさるだろうと思い、気を利かせて二人きりにしてさしあげたと言うのに」
「ぞんぶん……?」
「あー、リィザ様、分かってないお顔ですねぇ。……ダメだ、この小娘ガッといきなさいよ、ガッとぉ」
後半は舌打ち混じりの小声でブツブツ言うアンナ。
俺もいまだに『存分に』の意味がボンヤリとしか分かってないけど、無垢なリィザになにを期待しているんだ、あんたは。
「……っかしいですねぇ、やりほうだいだと言うのに。ね? 勇者様」
おかしいのはあんたの頭だろう。
「俺を巻き込むなよ。リィザ、きょとんとしちゃってるだろ」
視線を落とせば、寝ぼけまなこでヌイグルミを抱え、俺とアンナを交互に見上げているリィザ。
「勇者様も勇者様ですよねぇ。こんな背徳感溢れる据え膳を前に中庭なんか眺めちゃって。草食男子気取りですか、まったく! ホラ、うまいこと言ってますよ? 私」
「俺に矛先かよ! 気がついたらリィザが横でスヤスヤ寝てて焦ったけど、起こさないように抜け出ただけだ。なんの不都合もないよな? むしろ紳士な俺を称賛するがいいよ」
リィザは普通に俺を看病してて寝落ちしたみたいだし、単にアンナがこじらせようとしているだけか。
「マジ、どっちもヘタレだわー。お姉さん悲しいわー」
ヤレヤレとオーバーアクションで溜め息をつくアンナ。
「あんたは俺達に何を期待してんだ!? スキャンダルか?」
腕組みし、左右に揺れながら考え込むアンナ。ゆっくり顔をあげ、難しそうな表情で俺を見据える。
「馬乗りになった幼女姫から、あれこれとテホドキを受けちゃう無力な勇者?」
「あんたバカだ」
若干アンナに対して恐怖は薄れたものの、これは早々に手を打たないとヤバイ。特にリィザが。
「ハァ? なに言ってんですかぁ! 人の話は最後まで聞きなさいよぉ! 馬乗りってもアレだからね? お馬さんごっことかヌルいやつじゃないから!」
アンナの変なスイッチが入ったようだ。
「でぇ、私がその情事を扉の隙間からヘンな気分で見守っちゃうんです! いやん、みんなwinwinですぅー!」
「リィザ。ヤツはもう手遅れだ」
眠そうなリィザをお姫様だっこで抱え、トリップ中のアンナを置いてそそくさと部屋をあとにする。




