プロローグ4
ロードリア城への道中、でかいケーキ箱のため、ほとんど足もとしか見えず、前を歩く二人の影を頼るばかり。
「ところで勇者様。ホント、何しに来たんですかぁ? あぁすみません、来やがったんです?」
俺の横へまわり、見せつけるように仲良くリィザと手をつないでいるアンナ。
「それはこっちが知りたいよ。そしてなぜ言い直した」
俺が覚えているのは、慧衣子先輩のラボでドリフシステムのメンテついでに付き合わされた新アイテムの動作実験。何のアイテムかは教えてくれなかったが、現状ろくな結果にはなっていない。
「ってか、まず不審者を見るような目はやめろ。そしてちょっとは支えろ、前が見えねぇ。そのうち人にぶつかる」
「アンナ、手伝ってあげて」
「しょうがないですねぇ……ケーキひとつ満足に運べないとは」
「大きさ! ファミリー向け冷蔵庫レベルなんだよ!」
アンナは片手で俺からケーキ箱を取り上げると、大きめのメイドカチューシャを平らに変形させ、ひょいと器用に頭上へ乗せた。
「すげぇ……」
感心すると同時に、サイズはともかく、ケーキひとつでヨロヨロしていた自分が情けなくなった。
「でしょー? 万能なんですよ、このカチューシャ」
「いや、そっちじゃねぇよ!」
「私ですかぁ? 褒めたってリィザ様は渡しませんよ」
頭上のケーキ箱によろめきもせず、涼しい顔でリィザの手をとり背後へ隠すアンナ。
「なんか誤解しているようだけど、俺、リィザ狙ってる訳じゃないから……」
「聞きましたか、リィザ様! 憧れの勇者様はリィザ様のこと嫌いですって!」
アンナの後ろでムンクさんのようになっているリィザ。絶望感がハンパない。
対して、円を幾重にも描いた瞳でフルフルしているリィザをウットリと眺めるアンナ。
「どう言ゃいんだよ……あんた趣味悪いな」
「あ〜あ。どーするんですか勇者様! あなたの心ない一言が一国の姫を悲しませているのですよ? ねぇリィザ様ハァハァ」
「あんたはリィザをどうしたいんだ。歪んだ愛しか伝わってこないんだが」
ここはどう弁解したところでアンナに悪い方へとねじ曲げられてしまうだろう。
が、それもしゃくだな。あの勝ち誇ったアンナの顔、俺が発する自滅の一言を待っていやがる。
甘いな、アンナさんよぉ。俺データベース(アニメ・漫画限定)が導き出した答え『主人公は優柔不断な言動でトラブルに巻き込まれる』つまり、この場の正解は……
「じゃ!」
いい笑顔でスチャッっと手を上げ逃げる、だっ!!
意表をつくベストなタイミングだったはず。
だが、問題を放り投げ二人に背を向けた瞬間、俺は鳩尾に強烈な一撃を受けて気を失う。
薄らぐ意識の中、耳元で囁く声が聞こえた。
「逃がすわけないじゃないですかぁ。あなたがいればリィザ様の喜怒哀楽は自由自在なんですから。ウフフッ」
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
問題丸投げ作戦失敗から数時間。フカフカのベッドの上で目覚める俺。
いかれた侍女による監禁生活も覚悟していたが、思い過ごしのようだ。
ふと隣を見れば。
「リィザ!?」
うつぶせでスヤスヤと寝息を立てている。
いや、ベタすぎるよ! 幸い俺もリィザも服を着ている。最悪のお約束展開が起こらぬうち、リィザを起こさぬようベッドを抜け出し、やや横長の室内を見回す。
豪華な細工が施された内装は、若干、ハート城にいるような錯覚があって安心感を覚える。
一辺まるまるガラス張りの窓を照らす夕陽は、真紅の絨毯に複雑な窓枠の影を落としていた。
小さめのドレッサーをはじめ、設置された家具類は皆やや小型に設計されている。ここはロードリア城内、リィザの部屋なのだろう。
俺が寝かされていた天蓋つきの大きなベッドからは、ヌイグルミに囲まれ、いまだ夢の中にいるリィザの可愛い寝言が聞こえる。
壁面がわりの大きな窓から外を眺めれば、手入れの行き届いた庭園が二十メートルほど下に広がっていた。
「さて、どうしたものかなぁ」
知りたい情報は掴めないまま、アンナの一撃をくらった鳩尾をさする。で、気がつく。
「ドリフシステム機能してないんじゃね!?」
初っぱな露天風呂での掌底、さっきのボディーブロー。どちらも反射せずキレイにもらっている。
今更ながら左手のカードホルダーを見れば、
「割れてんじゃんっ!」
アルミ弁当箱にタブレットを乗せたような液晶面は見事に砕けていた。
試しにカードを行使しようとコールするも、カード精霊:命名『ザ・ドリフターズ』は発動時の「オイーースッ」とも「ナンダバカヤロウ」とも無く、シーンとしたまま。
「……おぉう。 ヤバイんじゃね? 俺」
カードホルダーがこんなじゃ、プロミディアさんと通信も出来ない。
つまり。ドリフシステム=故障、魔法カード=行使不能、ピョン子=行方不明、プロミディアさん=連絡不能。
無力な俺を保護してくれていた他力本願全開のアドバンテージを全て失って、正真正銘『普通の高校生』になってしまった。いや、なんならそれ以下だよ!? どうなる、俺!




