仲間?が出来ました
どうしたものかと暗闇に満ちた森の中で一人唸る。
眼前には横たわったまま意識を失った少女と首ちょんぱされたままのゴブリンが一体。流石にこんな状態の少女をこのまま放置していくわけにもいかず、かと言って何処かで介抱しようにも良い塩梅の場所は近くに無いだろうし。
「むぅ・・・」
何て考えていたらお腹が飯を寄越せと鳴り響く。
そういえば自分は何か口にするために歩き回っていたのだった。すっかりと忘れていた空腹の存在、いざ思い出してしまうと意識がそちらに向かってしまい堪ったもんじゃない。何かないかと思いながら、視界にゴブリンの姿が映った。
・・・いや、流石に腹が空いているからと言って人型の物を食べるのは抵抗がある。でもだからと言って他に食べるものも無いわけだし・・・。
腹を括るか?と若干迷いながらゴブリンの死体に近づいた時に、そいつはやって来た。
「ブルゥゥゥ」
それを目の当たりにして自分の目は爛々と輝いていたと思う。それの正体は巨大な猪だ。
猪が何を思って目の前に現れたのかは分からない。もしかしたら今亡きゴブリンの死骸でも食しに来たのかもしれない。
まぁそんな事は関係ないけどね!なんたって目の前には肉がいるのだ、しかも猪。牡丹鍋なんて贅沢は言えないけど一人で食べきれるかわからない程の肉がいるのだ、素焼きでも問題ないし寧ろ素材の味を楽しむと考えれば歓迎しよう。
「ブルゥ・・・?」
そんな考えの元猪を見る。心なしか猪が後ずさりしたような気がするが逃がす気は更々無い。
「肉、置いてけ」
逃げられる前に狩る。猪が動こうとする直前、ゴブリンと同じようにチェーンソーで首を一刈り。一撃で仕留める事で猪にいらぬ苦痛を与える事も無く血抜きも出来る。まさに一石二鳥である。
ドスンと猪の巨体が崩れ落ちる音が聞こえ、少し格好つけながらチェーンソーでを横に一振りして血を振り払っておく。
先程のゴブリンの際はあまりにも呆気なく終わってしまったため、忘れていたがこういう血が付いたままでは錆の原因になりかねないし、いざと言う時に動作不良が起きては堪らない。
と、改めて思うが猪を仕留めても火を起こせない事に気が付いてしまう。流石に生食に適してはいないだろうし、そうなると空腹を満たす術が無くなってしまう。
原始の人間よろしく木と木を擦り合わせて摩擦を起こし火を起こそうと画策してみたが如何せん形状は分かるが作り方が分からない。即ち詰んでいる。
未だ意識を取り戻さないままの少女の荷物に何かしら入っていないか期待してみるが流石に勝手に荷物を漁るのは憚られる。
石を打ち合わせて火花が出ないか試みてみたが砕け散って終わってしまった。これは完全に手詰まりかと思ったとき手元が暖かく光り出した。
何事かとその手元を見るとチェーンソーから火が噴出しているではないか。エンジンに支障が!?と慌ててチェーンソーを地面に置き、くまなく調べて見たが何処か壊れているとかそんな事では無い。
ならばなぜ火が噴き出ているのか?考えては見たものの答えが一向に出ないので一先ずはその謎は考えないようにして、この火があるという幸運を受け入れてありがたく肉を食すとしよう。
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パチパチと音が聞こえる。誰かが火を起こしているのだろうか?心なしか鼻孔をくすぐる様に肉の焼ける匂いが漂っている気がする。
私、何で寝てるんだろうか・・・。何故か横になっている現実に意識が無くなる直前の記憶を呼び覚まし、ガバリと勢いよく身を起こす。
「ゴブリンはっ!?」
そうだった、私はギルドの依頼で森の魔物の調査に来ていて。本当にどんな魔物が森にいるのか調べるだけの簡単な依頼だったからろくに武器も持たずに来たんだった。それでゴブリンが現れてしまって・・・。
「ん、起きたか」
そこまで考えていて、声を掛けられた。自身の頭上から掛けられた低く太い声、恐る恐るとその声の主を見ると私を庇う様に現れた男性が立っていた。
「そ、その!助けて頂いてありがとうございます!実力から見てかなり高名な冒険者の方だと思いますが・・・」
「冒険者?天国じゃないのここ?」
「え?」
て、天国と言うと死後に向かうことになるあの天国?となるとやはり私はゴブリンに襲われて死んでしまったの?
悲観的な考えが脳裏に浮かぶが、視線に移るゴブリンの首無し死体が私は生きている事を教えてくれた。先程までは命を奪われる可能性があった存在が今は生きている事を実感させてくれる存在になっているとは皮肉な物です。
改めて私を助けてくれた男性を見る。身長は決して高かくなく、顔は一般的な人族のそれと変わりはない。見た目が少し若く見えるが人は見かけによらないと言うし、この人はそれなりに場数を踏んでいるのでしょう。
未だぶつぶつと「ここは天国じゃない?」とか「チェーンソーが火を噴いているのに夢でも天国でもない?」等と呟いている。
ちぇーんそーと言うのは先程から火を噴いている魔道具の事だろうか?見た事も無い装飾が付けられているようですし、きっと値の張る物なのでしょう。
「まぁこの際天国かどうかは考えないでも良いだろう」
そんな彼は考える事を辞めたのか、顎に当てていた手を下ろし徐に火にくべられていた何かの肉を私に向かって突き出してきた。
「ほれ、食うか?」
目の前に突き出された肉を目にし、思わず私は唸ってしまう。先程ゴブリンの首飛びシーンを目撃し、更にその死体が未だに横たわっているのだ。とてもじゃないが何かを食べる気にはなれない。だけど、折角の好意を無下にするわけにもいかず、私はその肉を食べる事にした。
もぐもぐと咀嚼する音が響く中、唐突に彼が口を開いた。
「ここが何処かわかるか?」
「えっと、この場所ですとベルテイン国の近くにある森ですが・・・」
「んー分からん、世界史もっと学んでおくべきだったか?」
「わ、割と有名な国名だと思うのですが・・・」
まさか三大国家の一つを知らないとは思いませんでした・・・。そう考えるとこの人は冒険者の方では無い?
「まぁそこに行けば色々と分かるだろうし、一先ず目的地はそこかな?」
「あ、でしたら私もご一緒してもよろしいでしょうか?ギルドにゴブリン出現の知らせをしないといけませんし」
出来るのであれば断らないで欲しい。仮にゴブリン以上の存在、オークやオーガに鉢合わせたら今度こそ私は助からないと思う。
彼は少しの間逡巡し一言
「よろしく頼む」
短くもはっきりとそれだけを告げて握手を求めてきた。
「はいっ、よろしくお願いします!」
差し出された手を握り返し、私と彼は歩き出した。