側室なんですけど、何故かお妃様に超愛されてます②
過去編と、今の現状です。
甘みはなしなので、ファンタジーで投稿させていただきました。
難産でしたので、後々書き直す可能性があります。
物心をついた頃には、既にチートだったと思う。
前世の記憶のおかげで、大人の精神を持ち、魔力を制御し、早々に今の地位を獲得していた。
今にして思えば、随分と可愛げのない幼少期だったが、両親や兄弟たちが気味悪がらずに大切に育ててくれた。
前世の家族の事が気にならないわけではなかったけど、十分な愛情を注がれて育った今の私は、今の家族を愛している。
照れて言葉には出来ないけど、態度では表しているつもりだ。
だから側室の話があった時も、家族の利になるならば、とあっさりと承諾した。
けれどそんな話を受ける十日程前、私はいつものように変装をし、外へと繰り出す。日課といっても差し支えなく、そして私の実力を過信してではなく、十分にわかっている家族たちからは何も言われない。
いってらっしゃい。おかえりなさい。
その言葉で見送り、出迎えてくれる。
すごく幸せだ。異端である私を大切にしてくれる家族達が。
そんな家族が愛している場所を少しでも良くしたい。そう思ったからこそ変装をして外に繰り出し、街の平和維持に勤しんでいた。
多分私のそんな思考などお見通しなのだろう。無理するな、という言葉を兄から貰う事もある。無理はしていないから大丈夫、と言えば、もっと甘えて欲しいと言われる。
むずむずとした感覚と同時に頬が赤くなる。
大丈夫。私が勝手にやってるだけだから。
自警団という名の警備兵たちの教育も順調だ。だから私が今する事といえば、とりあえずの確認だけ。リズム良く大地を蹴り上げ、空へと飛ぶ。
言葉の通り、空を飛んでいる。
魔力で翼を作り雲ひとつない空を悠々と羽ばたく。
すごく気持ちが良い。
魔法は術者のイメージによって効果が異なる。私は地球という世界の記憶を持っているのが良かったからなのか、効果が大きい。魔力量の多さも加え、効果の大きさもチートと呼ばれる要因のひとつだろう。
そして効果の割りに、魔力の消費が少ない。
これが強みでもある。
山だろうと海であろうと、心地良い風を身に纏い空を飛び続けた──が、今日は地上に異変を感じて、その場に留まって様子を伺う。
光の屈折で、他者からは見えないようにしているから、近付いても問題はないが、脳裏に響く警告音に私は空を飛んだまま状況を確認する。
実は、こういう事は珍しいわけじゃない。
自警団が形になりつつある頃から、街の安全の度合いは格段に上がった。
問題は、塀の外にある。
前よりは減ったが、それでもないわけじゃない。
昼夜問わずにこうして空を飛ぶから、盗賊に襲われている人を発見しやすいのだ。
だが、今日の賊は雰囲気が違う。
言葉にするなら、賊を装っている、というのだろうか。
狙われている方も、普通の場所を装っているが、守りの呪が相当高レベルな所を見ると、高位貴族が乗っているのかもしれない。
お忍びのはずが、何処からか情報が漏れていたのだろう。
私は組んでいた腕を解くと同時に、地上に向かって魔力の翼を羽ばたかせた。
丁度賊と馬車の間に立ちふさがるように。そして自身にかかっていた魔法を解いた。
相手からすると、私は突然現れたかのように見えるだろう。
「なった……なん「だ!?」
「一体何処から現れたんだ!!??」
賊の方から戸惑いの声が上がる。人数は1……2……5人。
対して馬車の護衛は3人。
少ない。これだけ見事な呪をかけているから安心しているのか、胡坐をかいてしまったのか。どっちだろうかと悩むが、賊の方から魔力の動きを感じた。
「(ふむ……)」
中級レベルだ。
それなりに力をいれているらしい。中級だったら、解くまではいかなくても、呪に傷をつける事は出来るかもしれない。でも、弱い。
先発隊なのかもしれないな。
馬車の護衛は剣を構え、私に対しても殺気を放ってきた。
味方か敵か判断がつかないから、当然の態度だろう。
「状況はわからない、が……とりあえずその呪文は中断してみてよ」
魔術師は私の言葉をどう捕らえたのかはわからないが、詠唱を止める所が、標的を私へと変えた。邪魔者だと判断したらしい。
「これで止めてくれてたら楽だったんだけどな」
私はゆっくりと、散漫な動きで右手を天へと翳した。
「ここは私のテリトリー。私の意にそぐわぬ者はその動きを止めよ。
そう。動かせるのは口だけ。
今から君達は、真実を話したくて仕方がなくなる」
私の言葉に、5人の賊の動きが止まる。
身体の動きだけを止めた。
流石に心臓まで止める気はない。
「そちらも静かにしておいて。状況を知りたいでしょ?」
馬車側にも一応伝えておく。
「さぁ、話していいよ」
笑顔は絶やさない。
余裕があるように見えるからだ。
今にして思えば、その事件が側室への足がかりとなったのかもしれない。
何せ馬車に乗っていたのは、王族の血が混ざった高位貴族。
そして名乗らないわけにもいかず、型破りな貴族の令嬢としての認識を与えたはずなのに、どうして側室として読んだのかは疑問だったりもするが。
まぁ、離宮の暮らしはそこからは出られないものの、好きな研究に打ち込めるから満足だったんだけど。
「ユウナ。お茶を飲みましょう!」
「はい。エルリナ様」
ただ、日課になってしまったお茶会だけど、それだけは聞けないでいる。
この国では中級で登録してあるからだ。最高位とばれたらそれはそれで面倒な事になる。すぐさま側室という立場から、研究所所属の独身にかわるだろう。
研究に打ち込めるのはいいが、潤いはないし自由な研究は出来ない可能性が高い。
だから今の立場としては、満足だったりする。家族に毎日会えないのは寂しいが。
けれどエルリナ様が毎日来てくれるから、その寂しさもまぎれている。新しい家族が出来た。そんな感覚だったのだ。
「今日はユウナの好きなお茶を用意したのよ。気に入ってくれたら嬉しいわ」
「嬉しいです。それでは、お茶請けは私が準備しますね。お茶に合うのは和菓子だと思うので」
「嬉しい! ユウナの手作りよね」
エルリナ様は手を叩き、明らかにテンションが上がった。
予想外に。
でも……。
「喜んでもらえるなら嬉しいです」
エルリナ様が気に入ってくれたら嬉しいな、と思いつつ、私の侍女に和菓子の準備をお願いした。エルリナ様が食べてくれるまでは緊張はとけそうにないけど。
私は好きだけど、和菓子は好き嫌いがわかれるからどうかなぁ、と心配事と共に椅子へと腰掛けた。