昔の俺と、今の自分
商館を出ると太陽が南の空高くに昇っていた。
今まではあまり気にしていなかったが、太陽といい、月といい、あまりにも地球と酷く似ていることに最初は違和感を覚えたが今は素直に受け入れている。
アミュルは太陽の日が強いのか、目を瞑りながら手で光りを浴びないようにしている。
「アゥ〜お日様が強いですぅ、溶けてなくなってしまいそぅ」
あまり意味は無かったようだ。
「ご主人様」
歩き出そうとしたルートはミーシャに呼び止められた。
「どうしたの?」
「今日は私を買っていただき、ありがとうございます。私、あのまま公爵に連れていかれていたら殺されていただろうとミハエルさんに言われました。本当にありがとうございます」
ミーシャは深々と頭を下げていた。
奴隷として買われることに感謝するのはどうなのかなぁとルートは思っていたのだが俺も奴隷だったらデブ男に買われるくらいなら年下の子に買われる方がましだなと思い、ミーシャの頭を手で撫でた。
「ボクもミーシャに会えて良かったよ」
ルートはそう声をかけた。それと、同時にお腹がグーとなった。早くミーシャたちに会いたくてご飯のことを忘れていたルートはお腹が空いているのを感じた。
「朝ごはん、まだ食べてなかったな。買い物をしながらどこかでご飯を食べよう」
そう言ってルートは彼女たちを連れて街の商店街に行った。
商店街に行くとルートは服屋に入った。
この国いや、世界では奴隷の待遇が良くない。街で見かける奴隷たちは奴隷用の質素な服を着ている。それを着なければならないという法があるわけではないが、一般人と区別しなければならないためにか皆んな同じ服を着ている。それとは別に奴隷には首輪をつけないといけない。こちらは強制だ。2人も商館で首輪をつけられていた。
それはルートの百合道で「女の子、常に可愛く、美しく、そして時には、だらしなく」というある恩師から受け継いだ言葉を思い出した。
「ミーシャ、アミュル、好きな服を買っていいよ」
そう言うと2人はとても驚いた表情を浮かべた。
「ごっご主人様‼︎私たちにはそのようなこと致さなくても、商館から頂いた服がまだあります」
ミーシャはすかさず応えた。
「いや、ボクが嫌なんだ。2人のもっと可愛い姿を見たいよ。ダメかな?」
ルートが少し悲しそうな顔をするとミーシャが
「いえ、私たちはご主人様のもの。ご主人様に喜んでもらえるのならなんでもします。ありがとうございます。アミュル、服選びに行こっ」
「服と下着は3着ずつ。あと、夜に着る服……なるべくエッチなの選んできて」
最後の方を恥ずかしながらルートは小声でミーシャの耳元で言った。
ミーシャは何かを察したのか、少し顔を赤らめて、まぶたをこすっていたアミュルを連れて服を選びに行った。
「そうだなーボクも服、買っちゃうか」
ルートも自分の服を探しに行った。
思いの外、時間がかかってしまった。
俺も自分の理想の女の子像を思い浮かべて自分の体を使い、ひとり着せ替えごっこをしていた。
うひょー、これが女の子が履く下着かぁ〜。これを俺が普通に履ける日がくるなんて、でもおっぱいないからな……。
2人もやはり服選びに夢中だった見たいだ。
定員さんはいかにも嫌そうにしなが、ミーシャたちを見ていた。
この世界の奴隷に対する認識が悪いことを改めて知った。
2人には買った服を着せて奴隷用の服を店に渡し、会計を済ませた。
「本当にありがとうございます、ご主人様」
「ありがとうですぅ、ご主人さまぁ」
ミーシャとアミュルは先ほどと見違える姿でお礼の言葉を述べた。
奴隷に一般の服を着せていることに訝しげな目線を向ける街の人を尻目に、レストランらしき店に入った。
ルートが席に座るとミーシャとアミュルは横にずっと立っていた。
「どうしたの、食べないの?」
そう疑問にすると
「私たちはご主人様が残したもので結構ですから」
そう返答された。
「2人も座りな、一緒にご飯を食べようよ」
催促すると2人はやっと座った。
周りにいた客は嫌そうな顔をする者もいれば、あからさまに舌打ちをする者までいたし、2人が奴隷だと分かると品定めをするかのようにいやらしい目で見る男もいた。
2人が肩身の狭そうな思いをしているのを見て、ルートのイライラは増していった。
しかし、注文した美味しそうな料理が運ばれてくると3人は周りのことも気にせずに食べていた。
お腹も膨れたことでルートは宿を探した。
昨日泊まった宿にはお風呂がなく、お湯を渡されただけだった。
今までは水魔法と熱魔法でお湯を作り、体を拭いていたルートにとって前の世界では毎日入っていたお風呂がないことはこの世界にきて一番耐えがたいことだった。
宿探しを兼ねて街をぶらぶらした。女の子との初めてのデート?は楽しく、ミーシャもアミュルも段々とルートに打ち溶けていった。
楽しい時間はあっという間に過ぎていき、宿を決める頃にはすでに夕方になっていた。
街で唯一風呂がある宿に入った、風呂付の部屋はこの宿にも3部屋しかないらしい。
昨日の宿は一泊大銅貨3枚に対し、宿泊費はあまり変わらないがお風呂を使うには銀貨5枚かかる見たいだ。この国の平均月収が銀貨4枚なのでとても高いことがわかる。
受け付けのところで料金を見ていると奥からおばさんが出てきた。
「いらっしゃい、僕。今日はどうしたんだい」
この世界では、やはり男に間違われるルートは童顔なのか実年齢よりも下にみられがちだ
「お風呂付きの部屋は空いてますか?」
「一部屋空いてるよ、なんだい、今日は後ろの姉ちゃんと一緒に泊んのかい?」
そう聞かれると、そうだよと応えた
「僕、可愛い顔して、良くやるね。部屋は右手をますっぐ行ったとこの左の部屋だよ。ベッドは四人分あるからくっつけて使いな」
おばさんは何もかもお見通しのようだ。
ルートは軽い夕食はおばさんに頼み、お金を払ってから部屋に行った。
部屋に入るとどうすればいいのか分からずミーシャとアミュルはおろおろしていた。
部屋にあった椅子に座るよう促すと失礼しますといい座った。その後、おばさんが持ってきた、サンドイッチらしき食べ物を食べ、お風呂を見に行った。
残念ながらお風呂は一人で入るのが精一杯なくらいの小さなものだった。
ルートが望んでいたお風呂でのガールズコミュニケーションは出来ない見たいだ。
絶対に家を買って、自分の思い描くでっかいお風呂を作ってみせる、ルートはそう決意した。
「2人からお風呂に入っていいよ」
「え、お風呂に入ってよろしいのですか。お風呂は貴族さまや大商人くらいしか入れないと聞きましたが……」
「いいよ、今日沢山歩いて汗掻いたでしょ。洗い流してさっぱりしてきなよ」
2人に入るよう勧めた。
2人が順に入っている間、ルートは空いている小部屋に入って、しまってあった英知の書に声をかけた。
「英知さん、今は人がいないから喋っていいよ」
「ふぅー、少し息苦しかったですよ、主」
久しぶりに英知の書の声を聞いた。
「ごめん、ごめん。聞きたいことがあるんだけど、ミーシャとアミュルに英知さんと契約してもらえば、英知さんの力を使えるの?」
「勿論、自動翻訳に地図と敵索、あらゆる書物についての知識を共有することができます」
「ありがとう、今日はこの部屋、自由に使っていいから」
「それはご親切に」
ルートは英知の書を小部屋に置き、二人が入った後のお風呂に入った。
お風呂の中は少し甘い匂いがした。親切に香油が置かれていた。
やっぱり自分にはおっぱいがないなと呟きなが体を洗った。
お風呂から上がるとベッドのうえに今日買ってきた水色のネグリジェを着てちょこんと座っているミーシャがいた。
「ご主人様、私はご主人様の奴隷です。心の準備はできていますから……」
そう恥ずかしそうに顔赤くしている彼女はとても可愛らしい。
あれ、アミュルはと言うと後ろから急に誰かが抱きついてきた。
「あなたが〜ワ・タ・シのご主人様ぁ?」
そう色っぽくルートの耳元でつぶやくのは昼間とは全然違う姿をしたアミュルだった。
「アミュル、どうしたんだい、その姿は?」
そう、アミュルは背中から悪魔見たいな羽根を生やし、お尻の少し上から生えた可愛らしい悪魔の尻尾をさすっているアミュルがいた。
黒を基調としたネグリジェはさらに妖艶さを増している。
「昼間は本調子じゃないの。今が本当のワタシ、ルート様には感謝してるのよ。ワタシ好みの可愛い男の子に買ってもらえて、たっぷりご奉仕してあげるわ」
そんな風に誘惑してくるアミュルにミーシャが横から入ってきた。
「ダメでしょ、アミュル。最初は私からするってさっき決めたでしょ」
いつの間に、そんな約束が。ルートは驚いていた。
「いいのよ、こう言うのは早いものがちなの。ルート様、いっただきまーす」
アミュルはルートをベッドに押し倒し、ズボンとパンツに手をかけ、一気に下ろした。
「「えっ!」」
2人の表情から笑みが消える。
「ご主人様が……女の子‼︎」
ミーシャはそう言った。どちらからも驚きを隠せない様子だった。
「ぐすっん、ボク、は、初めてだから、その……やさしくしてね」
ルートは自分の貞操が危ないと思うと怖くなり、涙ぐみながら可愛らしい声で言った。
「ルート様って女の子だったの。ワっワタシてっきりおませな男の子だと思ってつい……ごめんなさーい‼︎」
アミュルがルートに抱きつき、少し涙目になりながら謝ってきた。
「私もご主人様を男の子だと思っていました……その」
ミーシャはルートの頭を優しく撫でていた。
するとルートは
「ううん、2人は悪くないよ。この街ではみんなボクのことを男の子だと思っていたし……多分、女の子として可愛くないんだね、きっと」
目をウルウルさせながら見つめてくるルートにミーシャもアミュルもドキっとしていた。
「そんなことない、ルート様はすごく可愛らしい女の子ですよ」
アミュルがルートをさらに抱きしめる。
「ほんと?」
ルートが尋ねる。
「そうです、ご主人様はこんなにも愛らしいお顔をしてるんですよ」
ミーシャがルートの顔に近づき、また頭を優しく撫でて慰めた。
ルートはアミュルを手ですこし押し離し、涙を拭きながら言った。
「2人とも優しいね、ごめんね、少し怖くなって泣いちゃった。こんなに優しい仲間が出来てボク、とっても嬉しいよ、ありがとう」
「「……」」
ミーシャとアミュルは言い知れないモヤモヤが心の中にあった。
それは本来の自分たちなら男の子にしか持たないはずの、キモチ。
それを目の前にいる、可愛らしい女の子にもってしまった。
これは本当にそのキモチなのだろうか。
2人は考えていたが……
「ミーシャ、アミュル、ボクは2人にだったら初めてをあげられるよ。今日の1日で分かったんだ男の人はあなたたちを自分の欲望でしか見てないって。そんな風に2人が見られるのがボクはガマンできないよ。ボクもそんな男の人になんかあげたくない。あんな目をしてる男になんて……」
また涙ぐみながらルートは話した。
「今日の1日だけだったけど2人と一緒にいた時間は楽しかった。今まで一人で寂しかったけど、それを忘れるくらい楽しかったんだ。今夜は主人と奴隷の関係じゃない、一人の女の子としての気持ちを伝えます……」
2人は息を飲んだ。
「ボクはミーシャとアミュルのことが
大好きです
ボクの気持ちを受け取ってください」
ミーシャとアミュルは感じた。
自分たちの心の奥で淡かった光が強く弾けたことを。
それは目の前にいる女の子からの素直な思い。
2人にとっては初めて感じたそのキモチ。
女の子同士でというのはこの世界ではまだ共用されていないし、理解もされていない。
しかし、2人の中に広がっていくその甘いようなすっぱいような思いは多分ルートが言った言葉と同じだと気付いている。
その気持ちにますっぐ向かおう2人は決めた。
「ご主人様、私は……」
「ルート様、ワタシも……」
「「あなたのことが大好きです」」
2人はルートに抱きついた。
これが本当の思いだと信じたから。
ルートはいきなりミーシャとアミュルが抱きついてきたことに驚いた。
「うぁっ、どうしたの2人とも」
「ご主人様ー、私は女の子のご主人様が大好きです。私の初めても貰ってください」
「ワタシも、ルート様には強がってあんなことしたけど……ワタシの処女をあげる」
ルートは嬉しかった。
元々は男として生を受けて育った。そして、百合百合している女の子が好きだった。
そして、その男としての気持ちのまま、2人と出会った。しかし、自分の中で性別が変わったことで戸惑いがあり、女の子になったことでの怖さも気付かないうちにたまっていた。
最初は自分から押し倒そうとすら思っていたが、アミュルに逆に押し倒されて怖いとすら思ってしまった。
そして、自分の中で変わっていた女の子としての気持ちに気付いてしまった。
いつの間にか涙が溢れていた。
もう、男としての自分はいないのだ。
男としての感情で見ていたアミュルとミーシャの姿、それはもうこの世には存在しない虚像に過ぎなかったことを知ってしまったからだ。
そしてルートは決めた。
もう今までの俺は捨てようと。
渡会亨とは決別しようと。
今夜からはルートとして生きて行こうと。
「ミーシャ」
「はいっ」
「アミュル」
「ハイ」
2人にこの言葉を送った。
「ありがとう」
そして、その夜、3人でお互いの気持ちを確かめ合うように激しく求めあった。
どうでしょうか?
自分としては初めて百合の描写を書いたため、ぎこちない感が否めません。
これより、主人公渡会亨はルートとして生きていきます。
今まで心の中で「俺」と話していた、男の自分は出てきません。女の子として女の子を愛していくことになります。
いろいろ、おかしなところが多かったような(いや、多い)
これからもよろしくお願いします。