俺々詐欺
「俺だよ。俺々。」
電話からはふざけた声。
「なんだお前か。私は忙しいんだ。切るぞ。」
受話器を投げ置こうかと思った。
「なんだとはなんだ。俺々と言っているんだ。オレオレ詐欺だぞ。相手が本物か確かめるなり通報するなりしたらどうだい。
ところで、いつもの番組の録画予約よろしく。」
「テレビ番組の録画予約を頼む詐欺師などいるか。ついでに夕食の買い出しをしてきてくれ。」
そう言って電話を切ろうとした。
「え、俺そんな金持ってないよ。」
「昨日頼んだ買い出しの残金、返してもらってないぞ。その金で充分だ。買ってこい。」
そしたら受話器の向こうから素っ頓狂な声が聞こえた。
「あー。あれな、昨日酒に全部使った。」
「私の金だ。通報しなきゃな。」
腹の底で渦巻く怒りを抑え、限りなく低い声でそう呟いた。
「あー!あー!すみません!オレオレ詐欺です!俺は俺じゃありません!あなたの俺じゃありません!どうか警察だけはっ!すみませんさようなら!。」
大変取り乱した声が騒々しく響き、電話はガチャンと乱暴な音が聞こえた。
受話器を投げ出し走り去る姿が目に浮かぶ。