目は二つしかなく、一日は24時間しか無い
スマホとのライバル関係にある、現在のゲーム業界。その中で気づいたことを肩が凝らない内容でエッセー風に書き記していく。
目は二つしかなく、一日は24時間しか無いってこと
ゲームショップを経営していたとき、ゲームメーカーの人からこんな事を言われた。
「所詮、人間には、目は二つ、一日は24時間しかないのですからね」
随分と含みのあることばである。
状況を説明すると、当時、dvdの前身である、VCDが掛かる、あるゲーム機ハードの発売前夜で、そのゲーム機ハードの人気が急上昇することが見込まれていた時であった。
ちょっと説明しておくと、dvdとか、VCDは映画二時間分がまるまる録画できる媒体だ。(VCDは二枚組になるが)
そうすると何が出来るかというと、一つのコンポーネントで、ゲームも映画も、ミュージックCDを入れればついでに音楽さえも楽しめちゃうのである。まさにオールインワン。あと、ついでに言っておくとTVチューナーとラジオチューナーを作ればオールソース(ソーセズとなるのかな、複数だから)いや実際、チューナーを発売しようという話もあったんだから……。
そうなると、今度は、インターフェース。キーボードが欲しいなってなる。マウスだっているだろ………ってことはこれは、これって最早、「PC」じゃん?
なら、なら、どうせならインターネットに繋いじゃえ。いろいろ便利じゃん。
出来た、これが、最強のコンポーネント、理想のシャック、男の子の夢。
まさか、こっから、マジンガーZは発進できないけど、メールは打てるし、サイトも見れる。ゲームも出来れば、映画だって見れる。音楽も聞けるし、プリンタを繋げば年賀状だって印刷出来るのだ。(1997年当時のスペック)
「一気にマーケットサイズ、5倍だぜ……5倍!」
当時、オタクの夢を演出する仕事の片棒を担いでいるという側面を有する「ゲーム業界」でメシを食っていた私どもとしてはそんな風に、色めき立った。
その興奮に水を差すようで悪いんですがと頭を掻きながら、苦笑いを浮かべて、
「どうも、そうは行かないんじゃないかって話なんです……… 」と、
のたまったのは他ならぬ、当時の有名メーカーの一人Mさん。
その時、Mさんが言われたのが表題にも書いた「目は二つしかなく、一日は24時間しかない」
という台詞だった。
要は、映画も見れるけど、ゲームもできるけど、音楽も聞けるけど、ワープロも打てるけど、もし、そのどれかをこれからするのなら、どれか一つに決めなければならないよということ。何故なら目は二つしかないからだ。一度に二個のことを一遍に出来ないからである。さらにもう少し進めて考えるならば、一日は24時間しかなく、一つのゲームに取りかかったらそれをクリアするまで、ただひたすらに時間を食い潰して画面を進めていかねば他のソースを振り返る余裕は無いのだ。(いわゆるハマるという現象)
「それに寝もしなきゃあでしょ?」
所詮、テンインワンだろうが、イレブンインワンだろうが、一台のコンポーネントに新たに放り込めるソフトの数はその限りに於いては一つしか見込めないという事を意味している。
これは、当時のゲーム市場で起こっていた「ゲーム市場のオタク化」と「ライトユーザーの伸び悩み」の二つの傾向をメーカーの方で解決しようとしてリサーチされたものであるから、少し結論を急ぎすぎの感はあるにしても、大雑把な掴みとしては極めて正しい。
折角売れたゲーム機ハードにソフトを供給していくのなら、そこにゲーム以外の余計な挟雑物など、存在させたくないというソフトメーカーエゴを見事に言い当てていたのである。
実際、その後、ゲーム機でdvd映画を見ようというユーザーからの目立った動きもなく、ゲームショップにおけるdvdコーナーは縮小の一途を辿り、ついには消滅してしまう。
ゲーマーの側も、ゲーム機はゲームが出来ればそれで良いという明確な意思を示して、中には折角開発製品化された色々なその為の周辺アクセサリーを買って行くこともなく、それらは、見事に店の不良在庫となっていったのだった。
そう、いくらゲームが好きでも、人間には目は二つしかなく、一日は24時間しかなくて、そのマーケットサイズは掛ける人数であると言うことを自ら証明して見せたのだった。
ゲーマーはあまり映画を見ない。ゲーマーはあまり音楽を聞かない。ゲーマーはあまり写真を撮らない。ゲーマーはあまりメールを見ない。
だって、そこにありますもん。一番好きな、最高に好きな、三度のゴハンより好きな「ゲーム」というものが……。