8距離
「マコちんー頑張ってー」
美咲の言葉に僕は美咲の方をちらりと見て
「美咲には負けない!」
と、返す僕。
あれから僕達はボーリング場に来ていた。
いつの間にか僕を[マコちん]と呼ぶ様になっていた美咲と、美咲に促されて[美咲]と呼びはじめていた僕。
いつの間にか僕等の距離は随分縮まっていた
…とは言っても縮まっているのは呼び方だけなのだが…それだけでも随分[友達]らしくなったと思う
相変わらず美咲は人目を引き、ボーリング場に来るまでもすれ違う男達は皆、美咲を見ていた
僕は、その感覚に少しの優越感と美咲に対する劣等感の両方を感じながら一緒に歩いていた。
しかし、ボーリング場に来てから、こうやって美咲とはしゃぎながら楽しんでいるとそんな気持ちなど何処かに吹き飛んでしまっていた。
僕に向けられる美咲の表情はどれも楽しそうに笑っていてとても可愛いらしかった。
僕の中での美咲のイメージは大人っぽい綺麗な女性と言うよりも、明るく可愛いらしい女性と言う方が強くなっていた。
「やったぁ!またストライクだよ!」
そう言いながら戻って来る美咲を見ながら僕も自然に笑顔になっていた
−男としてのプライド−
−美咲と並んだ時の劣等感―
−格好良く−
…そんな事を色々と考えていた自分がなんだか馬鹿らしくなり、素直に美咲との時間を楽しみたいと思っていた…
そして僕は…初めて会った時よりも美咲をどんどん好きになっていた。
それはまだ恋と言う訳ではない
初めて会った時と同じ…人間として美咲に憧れを抱いていた。
付き合いたいとか…抱きたいとか…やっぱりそういう気持ちはまだまだ僕なんかじゃおこがましくて…
そんな事を考えているとふいに聞き慣れた音楽が鳴っている事に気が付いた
僕はズボンのポケットから携帯を取り出す
…着信は智博…
僕は美咲に謝りながら席を立ち通話ボタンを押した
「マコーどこに居るの?」
智博の不機嫌そうな声がボーリング場の騒音を掻き消す
「何処って…ボーリング場だけど?」
「由恵ちゃんに聞いたんだけど…美咲ちゃんとデートなんでしょ?」
僕の返事にますます不機嫌そうな声で言う
…正直面倒臭いので、僕も軽く
「そうだよ」
と答えると
「何でー?マコいつの間に美咲ちゃんゲットしてんの?俺にも分けてよー」
…と半分叫びながら訳の解らない事を言っている…
…ますます面倒臭い…
「結局あの日、竜揮は元子ちゃんをお持ち帰りしていたし智博だって由恵ちゃんの番号ゲットしただろ?」
僕の言葉に智博も
「むぅぅ…」と押し黙る
しかし直ぐに
「とにかく、由恵ちゃんに言って今度またみんなで飲む事にしたから!俺はまだまだ美咲ちゃん狙いだかんね!」
…全く…
…転んでもただじゃ起きないらしい…
しかし、
僕は智博の言葉にふと考えた
「…じゃあさ、飲みとかじゃなくてみんなで遊園地とか行ってみないか?」
「はぁ?そんなガキ臭い所誘ったって美咲ちゃんにつまらない男だと思われちゃうじゃん!」
僕の考えにぶつくさと文句を言う智博
しかし僕はそんな智博を他所に
「いいから遊園地!じゃ、忙しいから切るぞ?」
と電話を切った
…僕の中での美咲はお酒を飲む姿よりも楽しそうにはしゃぐ姿の方が数倍も美咲らしいと感じていた
席に戻り、美咲に遊園地計画の話しをしてみると
「凄い行きたい!そういうの楽しそう」
と嬉しそうにしていた
…その笑顔を見ながら僕は計画を変更して本当に良かったと心から思っていた。