58大作戦
「ねえ、トモ…本当に大丈夫かな?」
隣で由恵が不安げに俺を見る。
「大丈夫だよ!この日の為に、車だって俺のじゃなくて母ちゃんのだし!上手く行くよ!」
…俺は、駅前に停めた車の中で由恵と作戦会議をしていた。
…何の作戦かって?
そんなの決まってる!
お互い好きなくせに煮え切らない、マコと美咲をくっつける…
その名も
[トモ由恵、キューピッド大作戦]だ!
昨日予め俺はマコに
由恵は美咲に
「二人で遊ぼう」
と、駅前へと呼び出しておいた。
…もうすぐマコも来る頃だし…
「由恵!そろそろ変装グッズを出しといて!」
「わかった!」
俺の言葉にバックから帽子とマスクを取り出す由恵。
「トモ!マコが来たよ!」
由恵の言葉に俺も慌てて、帽子とサングラスで変装する。
由恵も俺も完璧な変装だ!
マコは俺達の前に車を停めていた。
見やすいし、絶好のポジションだ!
…後は美咲だが…
「トモ!美咲も来たよ!…美咲…髪切ったんだ…」
由恵の言葉に俺も視線を移す。
…美咲は髪をボブにしていた。
…超可愛い…
…いや!見とれてる場合ではない!
…マコは美咲に気付くかな…?
ハンドルに寄り掛かりマコに視線を寄せる。
マコは…美咲を見てる!
よし!そのまま声を…
かけた!
…そしてそのままマコの車に乗り込む美咲!
「由恵!大成功だ!作戦2に移るぞ!」
「うん!わかった!」
俺の言葉に笑顔で答えた由恵はそのままバックから携帯を取り出す。
「もしもし?美咲?…実はね、今日お婆ちゃんが急に具合が悪くなっちゃって…行けなくなっちゃったんだよね…うん…ごめんね…」
電話の相手はもちろん美咲。
由恵は電話を切ると、片手でOKサインを出して笑って見せた。
よし!
今度は俺の番だ!
ポケットから携帯を取り出しマコに電話をかける。
「…もしもし?」
「もしもしマコ?実は今日母ちゃんが風邪ひいて…」
「来れなくなったんだろ?わかった、看病頑張れ!」
マコは俺の話を最後まで聞かずにそう言うと、一方的に電話を切った。
…何だよ…もう少し寂しがってくれてもいいのに…
…でも…一先ず作戦は成功だ!
後は…
マコの車が美咲を乗せたまま走り出す。
「やったぁ!大成功だね!」
由恵が嬉しそうにそう言った。
俺は気合いを入れて腕を捲くる。
「よし!尾行開始!」
「おう!」
由恵は相当ノリノリだ。
マコの車はしばらく走るとファミレスへと入って行った。
俺も続けてファミレスへと入る。
マコ達が入ってしばらくしてから車を降りる俺と由恵。
そのままファミレスへと入ると、店員さんに席を案内されたが
「窓際いいですか?」
と言ってマコ達の後の席へと移動する。
俺はマコと背中合わせの場所に座ると、マコ達の会話に耳を傾けた。
「…でさ、本当に智博は馬鹿なんだよ!」
…俺の話で盛り上がっている…俺はますます耳を傾ける。
「中学の時なんかさ、教育実習で来てた女の先生にキスしようとして頬っぺた叩かれてたし…」
…マコの話に楽しそうに笑う美咲…
…ちきしょうマコめ…俺の古傷をネタにしやがって…
「…なぁ美咲…二人で写真でも撮らないか?」
突然、マコがそう言って美咲を誘い出す。
美咲もそれに頷いてマコの隣に席を移動してきた。
「…なんか、二人共いい雰囲気だね!」
由恵が小さな声で嬉しそうに言う。
俺は気付かれないように、こっそりとマコを見る。
マコと美咲は寄り添って、携帯のカメラを向けていた。
…何だよ…結構仲良くやってるんじゃないか…
それからしばらくしてファミレスを出るマコと美咲。
俺達も見失わないようにファミレスを出る。
再び尾行開始だ!
マコの車はどんどん走り出す。
俺も後ろを付いていく。
そしてマコの車が入って行ったのは…
「…嘘…」
隣で由恵が驚いていた。
俺も開いた口が塞がらなかった…
…マコが入った場所は…
…ラブホテル…
「…どうしよう」
隣で由恵が呟く。
「…とりあえず、駐車場に行ってマコの車を確認しよう!」
俺はそう言ってラブホテルへと車を進めた。
…駐車場に入る。
…マコの車は…
…ない…
「…車、ないよね?」
そう言って駐車場を探しまわるが、やっぱりない。
その時だった。
〜♪
聞き慣れた着信音が流れ始める。
ポケットから携帯を取り出す。
…メールだ…
相手は…
マコ。
[尾行するならもっと上手くやれよ!]
……。
下をスクロールしていくと
……。
さっきのファミレスでマコと美咲を覗き見る俺と由恵の写メが貼付けてあった…